48.準々決勝! びっくり忍者!!


「何なんだコイツら……!」

「フン。邪魔者は潰すのみ」


 暁闇の勇者ゴマ——転身した猫月ゴマ——、サミュエル、そして彼等と対戦するヨイチとゴーレムは、突如襲いかかった忍者たちの攻撃をかわしつつ、それぞれの持ち技で反撃する。白線から出ぬように注意しながら。

 殴られ蹴られ、弓で貫かれ、魔法で黒焦げにされた忍者たちは無言で白線から出ていくが、懲りずに今度は他の出場者を狙い襲い掛かる。


「だーもう! 真剣勝負に水を差すな!」


 蒼天ソアラ、そして蒼天と戦うベンジャミンも、次から次に襲い来る忍者たちを蹴散らしていた。が、忍者の数は増える一方である。


 ♢


「忍者がいっぱい……! な……何が起きてるんですか!?」

「見ろ優志ミオン。あのいっぱいいる忍者の本体は、フィールドにいる“影丸”って奴だ。あいつが分身の術を使ったからだ」


 稲村リュカはそう言いながらも、酒臭い鼻息をフンと鳴らしながら夢中で忍者たちの動きを観察している。

 優志も、目まぐるしく動き回る忍者たちにすっかり目を奪われていた。


 程なくして、影丸とマサオが戦うフィールドから、くぐもった大きな声が聞こえた。


「ぶ……分身の術が……! 制御できぬ! み……皆の者、戻って来るのだ!」


 犯人は、影丸——暴れ回っている忍者たちと全く同じ姿の忍者であった。だが分身の術はまだ習得したばかりらしく、扱い慣れていない。

 対戦相手の“マサオ”——鎧も盾も身につけておらずワイシャツにジーパン姿、坊主頭の見た目はごく普通の20代前半ぐらい——は、忍者たちに翻弄され、何も出来ないでいる。


 勇者ゴマ、サミュエル、蒼天たちは——。


「おい、審判は何も言わねえのか! こんなのルール違反だろ!」

「……想定内だ」

「クソ! こんなところで体力と集中力を持ってかれてたまるかよ!」


 それぞれ、襲い来る忍者たちを撃退していた。

 混乱のさなか、影丸が思い切って声を上げる。


「も……戻ってこい!」


 見た目とは裏腹に、女性のような声であった。その声を聞き、影丸の分身たちは足音も立てずに影丸の元へと駆け戻る。

 勇者ゴマは怒りを抑えきれず、隣のフィールドにいる影丸に向け声を上げた。


「おいテメエコラ、ハゲ丸とやら! 何してくれてんだ! そんなのありかよ!」


 突然怒鳴られた影丸は、内股になりプルプルと震えながら言葉を返す。


「は……ハゲ丸ではない……。ほ……他の選手を攻撃してはならぬとは、ルールにはなかったであろう……ハハ……ハ」

「自信なさげな話し方でムカつくなぁ、テメエ! おいコラ、ハゲ丸! 後でボクがブッ潰……」

「ゴマ。勝負に集中しろ」


 別フィールドのサミュエルに声をかけられ、ハッとする勇者ゴマ。

 対戦相手のゴーレムに向き直り、目を光らせる。


「このムシャクシャ、テメエに全部ぶつけてやる」

「イイダロウ。カカッテコイ」

「喋れるのかよテメエ!?」


 蒼天ソアラも態勢を立て直し、同じ武闘家の“ベンジャミン”と向かい合う。


「改めて、勝負だ! ベンジャミン!」

「ああ。行くぜ、ソアラ!!」


 勇者ゴマも蒼天も、ようやく勝負に集中することができた。

 そして影丸はというと——。


「ぶ……分身の術がダメなら、“忍法・分け身の術”だ!」


 忍法・分け身の術——分身の術の2人バージョンである。こちらは、完全に自分の意思で行動することができる。

 ところが。2人に分かれ横方向に飛び出した影丸たちは、双方とも白線から見事にはみ出してしまったのである。


「勝者、マサオ!」


 唖然とするマサオ。

 影丸との戦いは、マサオの不戦勝に終わってしまった。

 

六花りっか、何してるメエ〜」


 影丸の懐から突然ハムボが聞こえ、影丸はあたふたとする。


「せ……拙者の名は六花ではない! 影丸だ! 何度言ったらわかる! ああもう、船を手に入れ、行くべき場所があるというのに……無念!」


 そう言って、ドロンと煙に包まれ姿を消す影丸であった——。


 ♢


 数分後。

 それぞれ、決着がついたようである。


「勝負あったな」

「私の弓が破られるなんてね」


 和服姿で、得意の弓による早撃ちを繰り出した、“ヨイチ”。しかしサミュエルの素早い身のこなしが勝り、魔法を数発撃ち込まれ敗退。

 1撃も喰らわず、サミュエルの勝利に終わった。


「敵じゃねえな。ただの魔物じゃねえか」

「マイッタ……」


 暁闇の勇者ゴマは、当たり前のようにゴーレムを瞬殺(いや、殺してはいない)。

 伸びているゴーレムに足を掛けると、ゴマは右手を翳した。


「テメエの能力スキル、もらうぜ」


 ゴーレムの体から茶色く光るエネルギーが発せられると、ゴマの右手に吸収されていく。


「“ジャイアント・インパクト”か。使えそうだな」


 ゴマは、天下一武術大会でまた経験値を積み、倒した敵の能力スキルを盗むことができるようになっていたのである——。

 そして蒼天は——。


「サラーちゃんの仇、取ったぜ! アンタレス師匠、今度こそばっちり決めましたよ!」


 見事勝利を収め、観客席に向けガッツポーズをしていた。


「いやあ、久しぶりの真剣勝負だったぜ! 試合ってのはこうじゃなきゃな! 負けたけど、いい試合だった! ソアラ!」

「ベンジャミン、強かったぜ! またいつか、語ろうぜ! 拳で!」


 蒼天とベンジャミンは拳を交え、熱き友情が芽生えていた。


 準決勝進出者——猫月ごま、蒼天ソアラ、サミュエル、マサオ——。

 

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