49.準決勝! 唸る猫拳!!
「ゴマくん、ソアラくん! 最後までファイトですよー!」
休憩時間が終わり、いよいよ準決勝戦が始まろうとしていた。
組み合わせは、以下である。
蒼天ソアラVSマサオ。
猫月ごまVSサミュエル。
「
既に涙と鼻水でぐしゃぐしゃの顔になっている雪白の後ろから、戻ってきたばかりの天ノ河が忍び寄る——。
♢
準決勝戦に出場する者たちのスタンバイが完了した。
蒼天はいつものように、道着姿でファイティングポーズを取り、シャドーボクシングをして身体を慣らしている。
対する“マサオ”——見た目は丸坊主、安物のワイシャツにジーパンを身につけた、身長170cm強、20代前半の男。
蒼天は自身の戦いに集中するため、優志のパーティー以外の者の戦いを見ていなかった。そのため、戦士や魔法使いに見えないマサオがどうやって勝ち抜いてきたかが全く分かっていない。
平凡に見えるその姿で油断させようとしているのかもしれない。蒼天は黒い帯を引き締めた。
一方、猫月とサミュエルは——。
「フン、テメエと、か。よくぞ優志を打ち負かしたな」
「貴様の戦い、見ていたぞ。一筋縄では行かなそうだな。こちらも全力で行かせてもらおう」
今まで余裕の勝利を見せてきた2人だったが、目の前にいるのはお互いにとって間違いなく強敵。
2人とも地面をグッと踏みしめ、互いの目を見合った。
「Ready……Fight!」
♢
始まった準決勝戦。
蒼天はステップを踏みつつ、小出しにパンチを出す。
が、マサオは何も怖いものがないかのように堂々と、蒼天に歩み寄っていく。
パンチがビシバシとマサオの体に当たるが、痛みを感じる様子はない。
「な……!?」
呆気に取られる蒼天。その隙にマサオは、右ストレートを胸部に当てた。
ひるんだ蒼天の鳩尾に、今度は左ストレート! 続け様に、顔面にハイキック!
「ぶうっ!!」
鼻血を吹き、後方に飛ばされる蒼天。
マサオの一撃一撃が、シンプルに強い。
「さて、準決勝だから、本気を出そうかな」
マサオは後退し、大きく息を吸った。
すると!
マサオの身体がムクムクと変化する。そして上にも横にも3倍ほどに膨れ上がるマサオの身体! 坊主頭には緑色の髪が伸び、着ていた安物の服が破れ弾け飛ぶ!
怒り肩、逆三角形の体型の化け物と化したマサオ。高さは5メートルほどにもなる。肌の色がオレンジ色に変わり、脈打つように光っていた。
「な、何だよコイツ……!」
空に不気味な青黒い雲が立ち込め、周囲が夜のように暗くなる。
「グフフ……イクゾォ」
マサオは、大きく開いた口を白く光らせると、白色の光線を吐いた。蒼天の近くの地面にぶつかり、抉れる。
「ぐわあ!!」
間一髪かわしたが、休む間もなく今度は魔法弾を連射。うち1発がソアラに命中。
「がああ!?」
吹き飛んだ蒼天は、口から血を流す。痛みのあまり、気を失いそうである。
「ココニイルヤツラ、ゼンインマトメテカカッテコイ……! コロシチマウカモ、シレナイガナァ!!」
闇の中、燃えるような桃色のオーラに包まれるマサオは、まるで魔王のようであった。
右足を地面に叩きつければ地割れが起き、左足が空を切れば鎌鼬が発生。
腹部に大きな1つの目玉が現れ、黄緑色に輝きを放ち始める。直後! 凄まじい魔力を帯びた、黄緑色に輝く光線が放たれた。
どうにか意識を保った蒼天は、体を転がし光線をかわす。光線は競技場の照明台にヒット。爆発、スパーク、黒煙。粉々に破壊され、崩れ落ちる照明台。観客席に悲鳴が上がった。
超絶攻撃力を誇る化け物を前に、蒼天は歯をくいしばり顔を歪める。
「げほっ……! 狂ってやがる! 何だコイツは!」
その時だった。
「集中せい!」
蒼天の耳に入ったのは、老人の一喝。
アンタレス翁である。
「師匠……!」
蒼天は再び立ち上がり、闇の中に霞む化け物を見据える。
一か八か。
心を集中させ、右拳に渾身の力を込めた。
瞼の裏に、サクビーをはじめ、かつて立ち塞がったライバルたちの笑顔が浮かぶ——。
「……行くぜ! 転身!!」
マサオの腹部の目玉が、再び黄緑色に染まり始める——!
それでも躊躇うことなくマサオの正面に出た蒼天。
「
一瞬のうちに転身した蒼天——。
人間バージョンの“不撓不屈の熱血武闘家ソアラ”は、高く跳び上がり、右拳を空色に光らせた。
「500万馬力・猫パァーンチ!!」
「ゴッ」
目玉の中心部にヒットした500万馬力の拳。高熱の黄緑色の光が飛び散り蒼天の拳と顔を焼く。だが熱血武闘家ソアラはなおも拳を押し付ける。
「ゴォォォオオオ……うわぁ……」
マサオは顔を歪めながらみるみるうちに元の姿に戻っていく。青黒い雲と闇も晴れ、夕刻の競技場の風景が戻ってきた。
後ろ向きに倒れたマサオは、ボクシングパンツ一丁の姿で白目を剥き、泡を吹いていた。
「勝者、蒼天ソアラ! 決勝進出です!」
万歳をする、不撓不屈の熱血武闘家ソアラ。
空色に輝く道着には、しっかり締められた黒帯。頭には真っ赤なハチマキが巻かれている。
日は、西の方へと傾いていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます