50.準決勝! 暁闇の勇者ゴマVSサミュエル


「ハァ、ハァ……。やるじゃねぇーか」

「クッ……貴様もな」


 試合開始後3分。

 転身した猫月ゴマ——暁闇の勇者ゴマと、サミュエルは互いの持ち技をぶつけ合う。

 今まで戦ってきた他の出場者たちの攻撃が殆ど通じなかった2人だが、その2人の攻撃は互いにそれなりのダメージをもたらす。

 息を切らす勇者ゴマ、顔を歪めるサミュエル。


 彼らが戦うフィールドは既に、地面が割れ炎がくすぶり、土煙がモウモウと上がっていた。


 ♢


「文矢ぐゔゔゔーーん! ゔあああああーーーー!!」

「ゆ、雪白さん! 気を確かに……。あと、文矢くんじゃなくてサミュエルさんです……」


 観客席で泣き叫ぶ雪白の耳に、優志の声など届くはずもなかった。

 暁月スピカは両手を組み祈るような格好で、戦う勇者ゴマを見つめる。ラデク、サラー、稲村リュカも、繰り広げられる熱き戦いに釘付けになっていた。


 優志たちがいる場所から少し離れた観客席には——先程戻ってきたばかりの黒髪美少女——天ノ河の姿。


「あのおじいさん、まだいたのか」


 すぐ前にいる白髪の老人——アンタレス翁に目をやってから、顎に手を当て首を傾げる。


雪白ユーリはあんな調子だし、連れて行くなら先にゴマだな。どうやって連れていこう……」


 小声で呟きながら考えていたが、何かを思いついたのか、コクリと頷いた。


「……やはり、やるしかないか!」


 ♢


 技をぶつけ合うが、戦況は一進一退の勇者ゴマとサミュエル。


「猫月ごま……。お前は……自分の強さに酔っている」

「それは、テメエのことじゃねぇーのか!? ああ!?」


 再び、互いに技を繰り出そうとした時だった。


「……何だ、何が起きている!」

「ああ? ……何だよアイツは!」


 空に青黒い雲が立ち込め、周囲が突然暗くなる。戦いをやめ、周囲を見回すサミュエルと勇者ゴマ。


「グフフ……イクゾォ」


 隣のフィールドでは、巨大化し化け物へと変貌したマサオが、魔王の如きオーラを纏っていた。


「ココニイルヤツラ、ゼンインマトメテカカッテコイ……! コロシチマウカモ、シレナイガナァ!」


 放たれる無数の魔弾、破壊光線。観客席にある照明台にヒットし爆発が起き、悲鳴が上がる。

 優志たちのいる観客席では——。


「流石です。世界は広い……。私ももっともっと強くならねば……。もちろん、今の自分を認めて……」

「呑気だな優志ミオン! ここにいたら俺たちも殺されかねないぞ! 早く避難しろ!」


 完全に酔いが覚めた稲村リュカが、優志を引っ張っていく。暁月スピカに、ラデクとサラーは、泣き叫んでいた雪白を連れ出し安全な屋内に避難していた。


 化け物と化し暴れ回るマサオを見ても、サミュエル、勇者ゴマ共に、全く動じない。


「見掛け倒しだ。真の強さに、派手さは要らん」

「ごちゃごちゃ言ってねえで、さっさとかかって来いよオラァ!」


 サミュエルと勇者ゴマは互いに、再び攻撃を開始した。


「喰らえ……“インフェルノ・フィスト”」

「その技、後でもらうからな。喰らえ、“ギガ・ダークフィスト”!」


 互いの渾身の持ち技をぶつけても、やはり決め手とはならない。

 長期戦である。

 隣のフィールドでは、マサオが倒され元の姿に戻り、周囲が再び明るくなる。避難した優志たちも観客席へと戻ってきた。


「だあ! もうヤケクソだ! オラオラオラオラァァァァー!!」

「な……!?」


 イライラが絶頂に達した勇者ゴマは、考え無しに腕をぶん回し、乱打する。闇雲にパンチ、キック、頭突きをサミュエルにぶつけまくった。

 ゴマのパワーである。さすがのサミュエルも捌くのに必死だった。


「オララララァァァァー!!」


 身長はデカいが、その様はまるで子供。

 サミュエルは勇者ゴマのゴリ押し攻撃により、ついに白線の外へと押し出された。


「勝者! 猫月ごま!!」


 湧き上がる歓声に、雪白の泣き喚く声が混じる。


「負けは認めよう。だが、そんな戦い方を続けると、いつか身を滅ぼすぞ」

「じゃ、テメエの能力スキルもらうぜ」

「勝手にしろ」


 サミュエルの忠告など、全く聞いていない勇者ゴマ。西側控え室に帰っていくサミュエルに紫色の光を当て、彼の持ち技を習得すると、転身を解いた。


 ——と、その時!


 猫月の前に、虹色の光が渦巻く。

 怪訝な顔をする猫月。程なくして、光の中から何者かが姿を現した。


「おーっと!? ここで乱入者だ!」


 アナウンスが響く。

 現れたのは——黒髪美少女、天ノ河。


「ゴマ……くん! すぐにアタゴ山に向かって!」


 天ノ河はそう言って、猫月に掴みかかろうとする。


「な、何だテメエはよ……。何でボクの名を知ってる。潰されたくなきゃ、さっさとどっか行け!!」


 掴みかかる天ノ河を、猫月は腕を振って払い除ける。

 天ノ河は少し離れた場所にスタッと立つと、名を名乗った。


「僕は天ノ河勇美いさみ。ゴマくん、キミの強さはよく知ってるよ。でも、何としてでもすぐにキミを連れてかなきゃ、星愛ティアに怒られるんだ。悪く思わないでね!」

「勝手なこと抜かしてんじゃねえ!」


 大声を響かせた猫月は、右手を天に向け掲げる。


「ボクはこの大会で優勝するんだ! 邪魔するってんなら……」


 猫月はもう一度紫色の光に包まれ、転身——。

 暁闇の勇者・ゴマは拳を構え、天ノ河を睨みつけた。


「……ブッ潰す!」


 ♢


 観客席。

 稲村リュカが、顔を赤くして立ち上がる。


「乱入だぁー?! そんなのありかよ!」

「待ってください。あの子が、悠木さんを連れて行った子では……?」


 優志は、天ノ河の様子をジッと見ていた。


 ♢


 再び“暁闇の勇者・ゴマ”に転身した猫月を前に、天ノ河はニヤリと笑う。


「仕方ないね……。ちょっと大人しくしてもらうよ。ロウ!」

「ガウ!」


 青い毛玉——ロウから、宝石をあしらった四角い手のひらサイズの機械が飛び出すと、天ノ河は鮮やかにキャッチ。

 右腕を斜め上に向けポーズを決める。


「変身! どんな困難も打ち破る勇気、見せてあげよう! チューニング、スタート!」


 白い光に包まれる天ノ河——。

 やがて光はリボン、ネクタイ、ドレス、アクセサリーなどに変化し、ドレスアップしていく。


「恐怖に打ち勝てば、きっとそこに光がある! 勇気の歌姫ディーヴァ! ピア・ブレイヴ!」


 天ノ河が変身したのは、白黒モチーフの衣装を身に纏った美少女魔法戦士、【ピア・ブレイヴ】——。


 ————————


※ お読みいただき、ありがとうございます。

楽しんでいただけましたら、

★評価、フォローをお願い致します。


【次週予告】


☆ 「ユーリ! どこいくぴの!?」

「……帰りたい」

「え!? 何を言ってるぴの……」

 突然、「帰る」と言い出す雪白。

 彼女に一体、何があったのか——?


☆ 「これが、才能にアグラをかいて努力することを辞め、天狗になっちまった奴の末路だ!」

「何だと……?」

「相棒として、友として! ゴマ、お前にはそうなってほしくないんだ!」

 蒼天ソアラの声は、猫月ゴマに届くのか……?


☆ついに決勝戦。勝負の行方は——。


51.乱入上等!

52.雪白ショック

53.驕り

54.相棒として

55.まだまだ、強くなれるさ


どうぞ、お楽しみに!

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る