51.乱入上等!


 天ノ河が変身したのは、白黒モチーフの衣装を身に纏った美少女魔法戦士、“ピア・ブレイヴ”——。


「恐怖に打ち勝てば、きっとそこに光がある! 勇気の歌姫ディーヴァ! ピア・ブレイヴ!」


 黒いのサイドテールの髪は、白い玉のついた髪飾りで括られている。白黒基調の長袖セーラー服に、スカート姿。

 体型は細いほうだが、脚は筋肉質だ。

 

「お前、確か……あのキャピキャピ女2人組の、ピャオ・ピュールとかいうやつの仲間か!」

「違うよ! “歌って踊るアイドル魔法戦士! ピア・チェーレ”だ! 時間がない、行くぞ!!」


 ピア・ブレイヴは、暁闇の勇者ゴマのボケに素早くツッコんだのち、先制攻撃を仕掛けた。


 ♢


 観客席にいる雪白は、3人目のピア・チェーレが現れたことなど気付いていない。サミュエルの敗北を引きずり、ずっと顔を覆って泣いているためである。


 雪白のバッグから、彼女のサポーター——ピノが顔を出す。


「……いまピア・チェーレって聞こえたぴの……」


 ゴマと睨み合うピア・ブレイヴの姿を見たピノは、ぴょこんと跳び上がった。


「えー!? あんなの知らないぴの! ……ってあれ、アイネとミューズはどこぴの!?」


 ピノはバッグから這い出すと、ぴょこぴょこと跳ねながらどこかへ行ってしまった。


 ♢


「“ホワイト・ヒートォ!”」

「おっと、そう来ると思ってたよ!」


 ゴマが魔法を放つも、さらりとかわして距離を詰めるブレイヴ。

 まるで、ゴマの動きを読んでいる——違う。かのようである。

 

「“アドヴァンス・トランペット”!」


 ブレイヴが手を翳し、光が集まる。

 光は、トランペットの形へと姿を変えた。

 ブレイヴはゴマの耳元に、“アドヴァンス・トランペット”の“あさがお”——音の出る場所——を近づける。

 

「“チアリー・ファンファーレ”!」


 叫び、思い切り息を吹き込むブレイヴ。鋭いラッパの音が、ゴマの鼓膜を貫く!


「あぎゃあああ!! うるせええええーー!!」


 ゴマは怯み、隙を見せてしまった。

 “アドヴァンス・トランペット”が光になって消えると、ブレイヴはゴマを捕らえるべく、両指先から10本の光る糸を出す。


「大人しくついてきてね、ゴマ!」

「……バカが。舐めるんじゃねえ」


 光る糸が絡み付いたが、ゴマは身体に纏わせた紫色のオーラでそれをあっさり切断。糸はバラバラになり、消滅した。

 すぐさまゴマは、ブレイヴに掴みかかる。


「わわー! お……女の子……に、乱暴は良くないよ!」

「黙れ」


 ゴマはそのままブレイヴを両腕で軽々と持ち上げ、白線の近くへと歩いていく。

 身動きできず「わーわー!」と喚くブレイヴを白線の外に降ろし、トンと立たせた。


「勝者! 猫月ごま!!」


 審判の声ののち、まばらな拍手と歓声が競技場を包む。


「はい、テメエの負けだ。この試合では、白線から出た奴は負けになるんだ。諦めて帰りやがれ」


 ゴマは、ブレイヴの頭をポンっと軽く平手で叩いた。

 直後、ゴマもブレイヴも光に包まれ、転身および変身が解かれる。


「やっぱり変身していても……君には敵わなかったか。あーあ、また星愛ティアに怒られるよ」

「星愛って誰だよ! どうせまた、変な奴なんだろ?」

「……その言葉、星愛の前で言っちゃダメだよ。……星愛が悲しむからさ」


 猫月ゴマは首を傾げる。

 

「先にアタゴ山にいるから、必ず来てね!」


 言い残し、天ノ河は西側控え室へと駆けて行った。


 ♢


「ひとまず、決勝は猫月ゴマくんと蒼天ソアラくんに決まりましたね!」

「ああ、これでどっちが勝ったとしても船は確実に手に入るってことだ」


 優志ミオン稲村リュカは互いに手を打ち合った。


「それよりも……悠木さんが心配です。あの黒髪の子、控え室に行きましたけど……」

「そうだな、向かおう! 詳しく話を聞くんだ!」


 優志と稲村は席を立ち、西側控え室へと向かった。

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