47.ワープゲート使用不能


 競技場では、いよいよ準々決勝が始まろうとしていた。


「みんな強そうだね。負けるなー!」

「私のぶんまでー、ファイトー」

「そうそう! サラーちゃんのぶんまで! 頑張れよー」

「絶対決勝行きやー! ゴマとソアラくんで決勝行けたらええなー!」


 ラデク、サラー、稲村リュカ暁月スピカが、声援を届ける。


 優志ミオンは、離れた席にいた悠木と雪白に、もっと近くで観戦するように促すため、彼女らのところへと向かおうとした。

 だが、悠木は既に天ノ河に連れ出され、姿が見えない。


「あれ……? 悠木さんはどこへ行ったんでしょう……」

「愛音? ああ、何か同い年くらいの子に連れられて、あの山の上まで行ったみたい。サーシャ? ってのがまた何かやらかしそうだから、一緒に戦えだとか言って。飛田さん暇なら行ったほうがいいんじゃない?」


 雪白は、さも興味がなさそうにさらっと言ってのけた。


「サーシャさんって、魔王軍の……? え、ちょっと雪白さん! そういうことは早く知らせて下さいよ……! おーい、皆さん!」


 優志は慌てて、仲間たちのいる観客席に戻っていく。


「皆さん! 魔王軍が……あの山に……、悠木さんが、女の子に連れて行かれました……」

「え!? 何があったの、ミオン様!」

「待ってえや、落ち着いて話さな分からへんよ」


 優志はひと呼吸おいて、雪白を呼ぶ。

 雪白にもう一度説明してもらいつつ、何が起きているかを仲間たちに伝えた。

 アタゴ山で、魔王軍幹部のサーシャが何か悪さをしようとしていること。そして悠木が黒髪美少女——天ノ河に、連れ去られてしまったことを——。


「魔王軍め、最近大人しくなったと思ったら! ……で、何で悠木愛音ちゃんだけ行って、雪白友莉ちゃんは残ったの?」


 シンプルな疑問を持った稲村は、雪白に尋ねる。


「私は……サミュエルくんを応援したいから」

「だああもう! 推しも大事だが、相方をもっと心配しろよな! 優志、ミランダとやらを呼べ! 子供だけで行かせるわけにゃいかんだろ! 俺が行く!」


 優志は頷きながら「私も行きます」と言うと、稲村は「お前はパーティー仕切ってるんだから残っとけ! お前以外の戦える奴みんなで行くぞ! もちろんサラーちゃんも」と返す。

 優志はしぶしぶ、ミランダを呼んだ。


「ミランダさん、あの山の山頂まで繋げてもらえますか?」

「ごめんね。今、誰かがあたしの魔力に干渉してるみたいで……ワープゲートが使えないの」


 ミランダの言葉を聞いた稲村は「だぁーもう!」と声を上げ地面を蹴った。

 ミランダの声が弱々しい。飛び回る軌道も、少しブレている。

 ミランダの顔をよく見てみると、疲れ切ったような表情であることに優志は気づいた。


「分かりました……ミランダさん、今はよく休んでてください」

「ごめんね……。原因がわかったらまた知らせるから……」


 そう言ってミランダは、光に包まれ消えていった。


「ここは、悠木さんを信じるしかありませんね……」

「相手はあのサーシャだろ? 魔王軍幹部の。呑気なこと言ってられないよ!」


 ラデクは不満げに声を上げた。

 状況を察した雪白は、視線を落としながら顎に手を当て、先程よりか細い声を出す。


「愛音を連れてった子の他に、もう1人……誰かいるみたい。ティア……とかいう名前だった気がする」

「ティア……知らないですね……。まあ、心配していても、今の私たちには何もできないです。信じて、機会を待ちましょう」


 優志の言葉に、みんな渋々頷く。

 結局、誰も悠木を助けに行けぬまま、みんなして観客席に戻ることとなった。

 そんな事情も知らぬ勇者ゴマと蒼天ソアラは、グラウンドでスタンバイしている。

 準々決勝が、始まる——。


 ♢


 サミュエルVSヨイチ。

 猫月ごまVSゴーレム。

 ベンジャミンVS蒼天。

 影丸VSマサオ。


 それぞれ、準備が整った——。


「Ready……Fight!」


 ゴングの音が響いた時のことだった——。

 突然、10数人もの黒ずくめの何者かが、音もなくどこからか出現。グラウンドにいる出場者たちに、一斉に襲いかかった。


「な、何だコイツらは!?」


 その者たちは、黒装束に身を包み、目だけが見えるように頭部、口元も黒い布で隠されている。超人的な身体能力による、目にも留まらぬ素早い動き。

 彼等はそう——忍者。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る