46.新たなる美少女魔法戦士たち


「アルスくーーんーー! なーんーでーー! 私の声が届かなかったのーー!?」

「勝負は決まったみたいだね。さあ、行くよ、アイネ」


 双子山から湧き出る“生命の水”を涸らそうとするサーシャと戦うべく、黒髪の美少女——“天ノ河あまのがわ勇美いさみ”は、悠木を連れて行こうとしていた。が、悠木は、2戦目——推しであるアルス王子の、勇者ゴマとの戦いを観てから行く、と天ノ河と約束。

 しかし、アルス王子がいじけて棄権したため、敗北に終わってしまった。


 ということで、天ノ河に連れられ、競技場の外に来た悠木。


「ロウ、頼んだよ」


 天ノ河がそう言うと、天ノ河の胸元から青い毛玉がぴょんと飛び出す。

 毛玉はすぐに、オオカミのような顔を持つ丸々とした生き物へと変化した。


「ガウガウ!」

「きゃっ!」


 毛玉が突然吠えたため、悠木は驚く。


「あー、ごめんね。この子は【ロウ】。僕のサポーターの妖精だよ」

「わあ、よく見たら可愛い……! ふわふわー!」

「グルルル……」


 ロウは嬉しそうに丸々とした目を細め、喉を鳴らした。


「ロウ! 急いで“ワープゲート”を!」

「ガウ!」


 天ノ河に催促されたロウはトロンとした目をキリッとさせると、全身が光に包まれる。

 

「ガウルルー!」


 ロウの咆哮とともに出現したのは何と、虹色に輝く“ワープゲート“。地面が丸く7色に染まる。


「あれ!? これって、えーっと……ミランダちゃんのと同じ……?」

「さあ、急いで!」


 天ノ河は食い気味にそう言って、ワープゲートに飛び込む。悠木もすぐに後を追い、虹色の光に飛び込んだ。


 ♢


 ワープゲートから出た場所は——アタゴ山山頂付近、見晴らしの良い展望台。ほぼ同じ標高である隣の山のヒエイ山が、目の前に聳えている。

 そしてアタゴ山とヒエイ山の間には峡谷があるのだが——。


「な、何だあれは!」

「え! でっかいバナナ……と、さくらんぼ!? ちょっとでかすぎない!?」


 そこには何と——巨大化したバナナ形の飛行物体が、谷間に挟まっていたのである。

 その全長は、約3kmほどにも及び、双子山の間の峡谷にガッシリと挟まっている。

 そして中央よりやや左寄りの部分には、巨大な2つの果実のさくらんぼが、柄の部分でバナナに跨るように合体していた。


 信じられぬ光景に目を丸くしていた2人の後ろに、誰かが近づく。


「遅かったわね。あなただけなの? アイネ」


 女の声。

 天ノ河はハッとし、振り向いて返事をする。


星愛ティア……! ごめん。ユーリと、ゴマ……くんは連れてこれなかった」


 その者は、天ノ河の仲間(?)である金髪ツインテールの美少女、“癒月ゆづき星愛ティア”であった。

 癒月は地面をダンと蹴り、天ノ河に文句をぶつける。


「えー!? もう! 何やってるのよ勇美……。私たちとこの子だけで、アレを何とかしろって言うの?」

「仕方ないだろ!? 僕だって頑張って説得したさ!」


 悠木は慌てて、2人を止めに入った。


「ねえ、2人とも! ケンカしちゃだめだよーっ!」


 ハッとした天ノ河とはケンカをやめ、悠木の方に向き直る。


「ああ……ごめん、アイネ」

「フン。あなたがアイネね。私は癒月星愛よ。覚えておきなさい」


 天ノ河は苦笑いし、癒月は目も合わせず明後日の方を向いている。


「あ、うん! 私は悠木愛音あいね。勇美ちゃん、星愛ちゃん! これから、よろしくね!」


 名前を覚えられ満足したのか少し頷いた癒月。天ノ河と悠木の方に向き直り、戦闘に向けての指示を始める。


「あのバナナは私とアイネで何とかしてみるから、勇美、あなたは今度こそユーリ、そしてゴマを連れてきなさい」

「ええ、また行くの!?」

「文句言わない。すぐ行きなさい」


 癒月がそう言った時。

 地面に置かれた癒月の桃色のバッグから、茶色いモコモコの毛皮に覆われた丸々とした何かが、這い出てきた。


「くまくまー!」


 そう鳴いた茶色い毛玉が、光に包まれる。

 すると何と、またも虹色に輝く“ワープゲート”が出現。直後、天ノ河が吸い込まれていく。


「うわあー! ちょっと星愛ー!」

「次、失敗したらクビにするから」


 ワープゲートに消えた天ノ河を見て、悠木は唖然とした。

 いつの間にか茶色い毛玉は、悠木の鞄の中へと潜り込んでいた。そこで眠りこけている“ミューズ”——悠木が変身する“ピア・ラヴィング”のサポーター——を、カバンの外に引っ張り出す。


「起きるくま。何をサボってるくま」

「みゅー……? おはようみゅ……」


 顔だけが犬で短い手足を持つ、真っ白な体毛に覆われたミューズは、久々に目を覚ます。

 一方、ミューズを起こした茶色い毛玉はクルリンと一回転すると、2頭身のテディベアのような姿となった。首に赤と緑のチェック模様のリボンを着けている。


「【クマーン】、早く【リカバリー・チューニングメーター】を渡しなさい」

「くまくま。それっくま」


 テディベア姿のクマーンは、宝玉で飾られた四角い手のひらサイズの機械——“リカバリー・チューニングメーター”を癒月に投げつけた。癒月は、鮮やかにそれをキャッチする。


「え、これって……」

「アイネ、あなたも早く変身なさい」


 悠木は戸惑う。

 完全に目を覚ましたミューズは「どうやら久しぶりの出番みたいみゅ!」と言いながら、【ピア・ラヴィング】に変身するためのアイテム——【ラブリー・チューニングメーター】を手渡す。


「ええ! まさかとは思ってたけど! 勇美ちゃん、星愛ちゃん、あなたたちは……!!」

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