41.蒼天、大ピンチ


 気持ちを一新し、観客席に戻ってきた優志ミオン

 間もなく、2戦目チームBが始まる。蒼天ソアラは出場間近にもかかわらず、ずっと優志を励まし続けていたのである。


「ソアラ、早く行くぞコラ!」


 既に転身を済ませた猫月ゴマ——勇者ゴマが、蒼天の腕を引っ張る。


「いてて……! じゃ、行ってくるぜ優志!」

「はい! 2人とも、私の分まで目一杯戦ってきてください!」


 猫月と蒼天は颯爽と、東側控え室へと向かっていった。

 稲村リュカ、ラデク、サラーも帰ってきて、出場者以外の優志たちのパーティー全員が観客席についた。

 アナウンスが流れる。


「第2戦チームBの組み合わせです! ビリーVS蒼天ソアラ、Mrミスター.タチバナVSマサオ、猫月ごまVSアルス王子、ゴーレムVSヨシユキ」


 優志たちは、口々に思ったことを言い合う。


「ゴマくん、アルスさんとでしたね……。悠木さんはアルスさんを推してましたが……やっぱりアルスさんの方を応援しますか?」

「もっちろん! 推しは応援しなきゃ! ソアラくんに優勝してもらえれば、船はゲットできるからだよね! スピカさん!」


 悠木にそう言われ、暁月スピカは顔を少し引き攣らせながら笑う。


「あはは……せやけど、ソアラくん強そうなんと当たったなあ。ピストル持ってはるで。……あれ、どないしたんラデクくん? 険しい顔して」

「いや……第1戦では気づかなかったけどさ、魔物まで出場していたのかよって思って。ゴーレムって……」


 そうこうしているうちに、チームBの面々が、グラウンドに姿を見せ始めた。

 やはり勇者ゴマだけが紫色のオーラを纏い、観客席から見ると明らかに目立つ。だが、勇者ゴマと向かい合うアルス王子は怖気付く様子もなく、早く戦いたいのか嬉しそうに両腕をワタワタとさせている。

 蒼天はいつも通り、気合を入れて構えていた。


「では、参りましょう。Ready……Fight!」


 第2戦、Bチームの戦いのゴングが鳴り響いた。


 蒼天と対峙する者の名は、“ビリー”——茶色いテンガロンハットを被り、口には咥えタバコ。腰の左右に装着されたホルスターには、2丁のピストル。


「オマエもガンマンじゃナイのか。早撃ち勝負がしたかったんだがナ」


 英語訛りでビリーはそう言うと、左のホルスターからピストルを出し、蒼天に向けた。


「お前! オレを撃つ気か? 殺す気満々だな……クッ!?」


 蒼天がそう言っている間にビリーはニヤリと笑い、引き金を引いた。

 避けようと身をかがめた蒼天の周囲に、茶色い粉が舞う——。


「ブォエッ!? これ、胡椒じゃねえか! ……ヘーッション! ブェックシュン!!」


 くしゃみが止まらなくなり、隙だらけになる蒼天——。


「殺シはしねえヨ。ちゃんとルールは守るゼ? 次はコイツ、ダ」


 今度は右のホルスターから出したピストルを、蒼天の口に向けた。

 発射音が、グラウンドに響く——。

 放たれたのは、最強の激辛唐辛子“ブート・ジョロキア”である。くしゃみをして開きっぱなしの蒼天の口に、ブート・ジョロキアが放り込まれた。


「ぐあああ! 辛えええええ!!」


 息もできぬほどの辛さに、のたうち回る蒼天。

 ビリーは笑いながら、蹴りをお見舞いして白線の外に出させようと、蒼天に近づいていく。


 その頃、観客席のとある場所では——。


「そんな戦いではいかん! 腰が入っとらんから、そういうことになるんじゃ!!」


 ボロボロで茶色い和服姿の、背の曲がった老人が、長い白髪と白い髭をなびかせながら、蒼天の戦いぶりを見て、ひたすら文句を言っていた。


を忘れたのか——」


 やいのやいのと声を上げ続ける老人。その老人の後ろに、何者かが歩み寄る。その者は、先刻から観客席に出没している、黒髪の美少女であった。

 肩に青い毛玉を乗せた黒髪美少女は老人に近づき、声をかけた。


「そこのおじいさん。あなたが何者かは知らないけど、頼まれてもないのにそういうことを言う人を“老害”っていうんだよ! 覚えておいてね!」


 そう言ったあとに「あ、こんなことしてる場合じゃなかった!」と付け加えると、黒髪の美少女は、優志たちのいる観客席の方へと走って行ってしまった。

 呆気に取られる老人。

 だが、すぐに落ち着きを取り戻す。


「そうか……老害か。ワシも、時代に置いていかれたのかのぅ。この【アンタレス】のことも、もう知ってる者も少のうなった。……いや、この格好じゃ分かるわけはないか……」


 白髪の老人の正体は、以前、蒼天ソアラを弟子として迎え鍛えた猫——【アンタレス師匠】だったのである。


 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る