40.我が人生を誇れ・2
「すみませんでした!!」
観客席、パーティーメンバーがいるところへ戻ってくるなり、
「私は皆さんを導く立場でいながら……。情けないです」
しゃんとした姿勢で頭を下げたままそう言う優志。
幻聴は相変わらず『仲間には無視されるポン』とうるさいが、その声をかき消すように、仲間たちは優志に労いの声をかける。
「どうした優志ー、お前はよく頑張ったよ。まあ相手が悪かったな」
「そうだよ、相手が強すぎたんだよ。元気出して、勇者ミオン様!」
「飛田さーん……、元気出して!」
「ごめん。私は当然の結果だと思ってる。だって文矢くんは最強だもの」
悠木もいつもの明るい声で励ますが、雪白は思ったことを遠慮無しに口にする。
それでも優志は、「やはり仲間とはいいものですね……」としみじみ感じるのであった。
そこに、
「おいおい、聞き捨てならねぇーな、ユーリとやら。最強はボクだぞ」
「そう。なら、文矢くんと戦ってみなさいよ」
「フン、じゃあ当たることを祈っとくぜ。それからアイツは文矢じゃなくてサミュエルだ。推しならちゃんと名前ぐらい覚えろ」
反論できない正論を言われた雪白が猫月に殴りかかりそうなので、悠木は必死で止めた。それを知らんふりしながら鼻歌まじりにトイレへと向かう猫月。
その光景を見て、優志は思うのだった。
(私は、ゴマくんの強さには遠く及ばないですね……)
『そうだポン。お前はもっと強くならなきゃダメだポン。努力不足だポン。ほら、ラデクやサラーにも置いてかれてくポンよ……』
「うわああ……」
再び聞こえ始めた、幻聴——。
「優志さん、どないしたん!? 大丈夫かいな?」
心配した
みかねた
「優志ィ! 喝!!」
「はっ……!」
蒼天の一喝で幻聴が瞬時に消し飛び、我に返る優志。
「ちょっと来い!」
「そ、ソアラくん……どこへ連れて行く気ですか!」
優志は蒼天に、
♢
「ソアラくん……。私はもっと強くならなきゃいけないんです。今のままでは勇者失格です」
蒼天に「悩みを話せ!」と言われ、言葉を選びながら少しずつ心の内にあるモヤモヤを、優志は吐き出していた。
黙ってひととおり話を聞いた蒼天はうんうんと頷いた後、口を開く。
「……オレさ、修行の旅に出た時にアンタレス師匠から、“努力逆転の法則”ってのを教えてもらったんだ!」
「“努力逆転の法則”……ですか」
「ああ! “今の自分がダメだ、もっと頑張らなきゃ”と思えば思うほど、無駄に力が入ってダメになる……ってことだ! 優志は優志のペースでいい! 少なくともオレは、どんな優志だったとしても、どこまでもついてくぜ!?」
「そう言ってもらえて、救われます」
ほんの少し、優志は肩の荷を下ろすことができた。
「大変な使命だからこそ、楽に、楽しんでいこーぜ! 優志!」
「はい……。でも、私、昔からの癖で、周りと比べてしまうんですよね……。“周りと比べるな、君は君だ”なんて歌詞がありますが……、それはデキる人が言うこと。どうしても私は、自分なんかまだまだ、と思ってしまうんです。音楽の世界でも、そうでした」
優志の言葉を聞き、蒼天は思い出す。
つい最近まで、自分も、そうだってことを——。
————
「オレなんかまだまだ……! 全然ダメダメだ! ペラッペラな青二才だから、もっともっと経験積まなきゃな……!」
「じゃがソアラも……今までのニャン
「アンタレス師匠……!」
——————
ソアラは思った。恩返しならぬ、恩贈り——今こそ、師匠からもらった恩を、大切な仲間に贈ろう! と……!
「……誇れ! 優志! お前だって、数々の修羅場を潜り抜けてきたんだろ!? お前がここまでやってこれたその力を、忘れるんじゃねえ!」
熱き思いのこもったその言葉に、優志の目頭が、じんわりと熱くなった。
「……そうですね。私だって38年間……、嬉しいことも悲しいことも、時に誰かを頼りながら、頼られながら、乗り越えてここまで生きてこられました。どんな手強い試練も、乗り越えてきました」
かつて優志を苦しめた試練の数々も、今は懐かしさすら感じる——。
「私に降りかかる試練よ……私を、舐めないでください。かつて立ち塞がった試練たちが、今は私を励ましてくれてます。これから見せてあげます、本当の私の力を……!」
そう言った瞬間だった。
優志の体から、眩く輝く黄金の光が放たれた——。
『うぎゃー! 眩しいポン! 眩しいのは嫌だポン……! ふぇーん!』
優志の頭から、丸々とした体型でおでこに葉っぱを乗せた高さ40cmほどの子ダヌキが飛び出した。
『あ……おいらの名前は【ポンタ】だポン。またいたずらしてやるポン!』
泣きべそをかいたフリをしていたポンタはそう言うと、ドロンと煙に包まれ、消滅した。
ちなみに、ポンタの姿は、蒼天には見えていない。
「いいねえ! その意気だ優志! さあ、美味えアイスでも買って、観客席に戻ろうぜ!」
「そうですね……ありがとうございました、ソアラくん!」
観客席に戻ると、優志と蒼天は信じられない光景を目にする。
「はい、サラーちゃん! 傷の手当て完了! これで完全回復だ!」
「ありがとうー、リュカおじさんー。じゃ約束のお礼よー」
「うはあっ」
とうとうサラーが、大きなおっぱいで
優志も蒼天もラデクも、この時ばかりは他人のフリをするのであった。
そして、それを見た
「ゴマもやったろか?」
「……いや、遠慮しとく。もう少しデカけりゃ話は別だが」
「何やてええええええ!?」
♢
「うわあッ!? 今の衝撃音は一体……? イングズさん、見に行きましょう」
「試合はまだ始まってないはずだが……何が起きた?」
天下一武術大会・主催者の休憩室——。
吸い始めたばかりのタバコを灰皿に置いたイングズは、スタッフと共にグラウンドの様子を見に行った。
「観客席からか。乱闘でも起きたか?」
観客席の一部で煙が上がっているのを見て、首を傾げるイングズ。
双眼鏡を覗いていたスタッフは、プルプルと足を震わせていた。
「出場者の猫月さんが、観客席の床にめり込んでいます……」
————
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【次週予告】
☆ 「わしが教えたことを忘れたのか——」
突如、観客席に現れ、蒼天を叱咤する白髪の老人。彼は一体——?
☆ 「せめて君たち……“ピア・チェーレ”のメンバーである君たちだけでも、戦いに参加して欲しい!」
黒髪美少女が、悠木と雪白を連れ去ろうとする! その理由は一体——?
☆「しらばっくれないで。あなたのことは全て調査済みよ、サーシャ」
「……こんなのが出てくるなんて、聞いてませんわ」
サーシャは何を企んでいるのか?
それを阻止しようとする、もう1人の美少女の正体とは——。
41.蒼天、大ピンチ
42.師匠も悩む
43.ミルキーウェイ・ガール
44.サーシャと金髪美少女
45.星猫戦隊失踪事件
どうぞ、お楽しみに!
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