40.我が人生を誇れ・2


「すみませんでした!!」


 観客席、パーティーメンバーがいるところへ戻ってくるなり、優志ミオンは頭を下げる。


「私は皆さんを導く立場でいながら……。情けないです」


 しゃんとした姿勢で頭を下げたままそう言う優志。

 幻聴は相変わらず『仲間には無視されるポン』とうるさいが、その声をかき消すように、仲間たちは優志に労いの声をかける。


「どうした優志ー、お前はよく頑張ったよ。まあ相手が悪かったな」

「そうだよ、相手が強すぎたんだよ。元気出して、勇者ミオン様!」


 稲村リュカはポンと優志の肩を叩き、ラデクはアイスクリームをほっぺたにつけながらニコッと笑い、優志を励ました。


「飛田さーん……、元気出して!」

「ごめん。私は当然の結果だと思ってる。だって文矢くんは最強だもの」


 悠木もいつもの明るい声で励ますが、雪白は思ったことを遠慮無しに口にする。

 それでも優志は、「やはり仲間とはいいものですね……」としみじみ感じるのであった。


 そこに、猫月ゴマが割って入る。


「おいおい、聞き捨てならねぇーな、ユーリとやら。最強はボクだぞ」

「そう。なら、文矢くんと戦ってみなさいよ」

「フン、じゃあ当たることを祈っとくぜ。それからアイツは文矢じゃなくてサミュエルだ。推しならちゃんと名前ぐらい覚えろ」


 反論できない正論を言われた雪白が猫月に殴りかかりそうなので、悠木は必死で止めた。それを知らんふりしながら鼻歌まじりにトイレへと向かう猫月。

 その光景を見て、優志は思うのだった。


(私は、ゴマくんの強さには遠く及ばないですね……)

『そうだポン。お前はもっと強くならなきゃダメだポン。努力不足だポン。ほら、ラデクやサラーにも置いてかれてくポンよ……』

「うわああ……」


 再び聞こえ始めた、幻聴——。


「優志さん、どないしたん!? 大丈夫かいな?」


 心配した暁月スピカが駆けつけ声をかけたが、優志は脳内で暴れ続けるイタズラたぬきのせいでスピカの声が聞こえておらず、頭を抱えて唸り続ける。

 みかねた蒼天ソアラが、優志の目の前に立ち塞がるなり、大きな声を上げる。


「優志ィ! 喝!!」

「はっ……!」


 蒼天の一喝で幻聴が瞬時に消し飛び、我に返る優志。


「ちょっと来い!」

「そ、ソアラくん……どこへ連れて行く気ですか!」


 優志は蒼天に、人気ひとけのないトイレ前のベンチへと連れて行かれてしまった。


 ♢


「ソアラくん……。私はもっと強くならなきゃいけないんです。今のままでは勇者失格です」


 蒼天に「悩みを話せ!」と言われ、言葉を選びながら少しずつ心の内にあるモヤモヤを、優志は吐き出していた。

 黙ってひととおり話を聞いた蒼天はうんうんと頷いた後、口を開く。


「……オレさ、修行の旅に出た時にアンタレス師匠から、“努力逆転の法則”ってのを教えてもらったんだ!」

「“努力逆転の法則”……ですか」

「ああ! “今の自分がダメだ、もっと頑張らなきゃ”と思えば思うほど、無駄に力が入ってダメになる……ってことだ! 優志は優志のペースでいい! 少なくともオレは、どんな優志だったとしても、どこまでもついてくぜ!?」

「そう言ってもらえて、救われます」


 ほんの少し、優志は肩の荷を下ろすことができた。


「大変な使命だからこそ、楽に、楽しんでいこーぜ! 優志!」

「はい……。でも、私、昔からの癖で、周りと比べてしまうんですよね……。“周りと比べるな、君は君だ”なんて歌詞がありますが……、それは人が言うこと。どうしても私は、自分なんかまだまだ、と思ってしまうんです。音楽の世界でも、そうでした」


 優志の言葉を聞き、蒼天は思い出す。

 つい最近まで、自分も、そうだってことを——。


 ————


「オレなんかまだまだ……! 全然ダメダメだ! ペラッペラな青二才だから、もっともっと経験積まなきゃな……!」

「じゃがソアラも……今までのニャンせいで、数々の修羅場を潜り抜けてきたのじゃろう。思い返してみるが良い。しっかりと乗り越えてきたから、今のソアラがいるのではないか? じゃから……誇れ! ソアラよ! お主は今までお主なりに一生懸命、生きてきたではないか。お主オリジナルのニャン生を、誇るのじゃ!」

「アンタレス師匠……!」


 ——————


 ソアラは思った。恩返しならぬ、恩贈り——今こそ、師匠からもらった恩を、大切な仲間に贈ろう! と……!


「……誇れ! 優志! お前だって、数々の修羅場を潜り抜けてきたんだろ!? お前がここまでやってこれたその力を、忘れるんじゃねえ!」


 熱き思いのこもったその言葉に、優志の目頭が、じんわりと熱くなった。


「……そうですね。私だって38年間……、嬉しいことも悲しいことも、時に誰かを頼りながら、頼られながら、乗り越えてここまで生きてこられました。どんな手強い試練も、乗り越えてきました」


 かつて優志を苦しめた試練の数々も、今は懐かしさすら感じる——。


「私に降りかかる試練よ……私を、舐めないでください。かつて立ち塞がった試練たちが、今は私を励ましてくれてます。これから見せてあげます、本当の私の力を……!」


 そう言った瞬間だった。

 優志の体から、眩く輝く黄金の光が放たれた——。


『うぎゃー! 眩しいポン! 眩しいのは嫌だポン……! ふぇーん!』


 優志の頭から、丸々とした体型でおでこに葉っぱを乗せた高さ40cmほどの子ダヌキが飛び出した。


『あ……おいらの名前は【ポンタ】だポン。またいたずらしてやるポン!』


 泣きべそをかいたフリをしていたポンタはそう言うと、ドロンと煙に包まれ、消滅した。

 ちなみに、ポンタの姿は、蒼天には見えていない。


「いいねえ! その意気だ優志! さあ、美味えアイスでも買って、観客席に戻ろうぜ!」

「そうですね……ありがとうございました、ソアラくん!」


 観客席に戻ると、優志と蒼天は信じられない光景を目にする。

 

「はい、サラーちゃん! 傷の手当て完了! これで完全回復だ!」

「ありがとうー、リュカおじさんー。じゃ約束のお礼よー」

「うはあっ」


 とうとうサラーが、大きなおっぱいで稲村リュカの顔面を挟み始めたのである。40代半ば、子持ちの男を——。

 優志も蒼天もラデクも、この時ばかりは他人のフリをするのであった。

 そして、それを見た暁月スピカ猫月ゴマは——。


「ゴマもやったろか?」

「……いや、遠慮しとく。もう少しデカけりゃ話は別だが」

「何やてええええええ!?」


 ♢


「うわあッ!? 今の衝撃音は一体……? イングズさん、見に行きましょう」

「試合はまだ始まってないはずだが……何が起きた?」


 天下一武術大会・主催者の休憩室——。

 吸い始めたばかりのタバコを灰皿に置いたイングズは、スタッフと共にグラウンドの様子を見に行った。


「観客席からか。乱闘でも起きたか?」


 観客席の一部で煙が上がっているのを見て、首を傾げるイングズ。

 双眼鏡を覗いていたスタッフは、プルプルと足を震わせていた。


「出場者の猫月さんが、観客席の床にめり込んでいます……」


————


※ お読みいただき、ありがとうございます。

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【次週予告】


☆ 「わしが教えたことを忘れたのか——」

突如、観客席に現れ、蒼天を叱咤する白髪の老人。彼は一体——?


☆ 「せめて君たち……“ピア・チェーレ”のメンバーである君たちだけでも、戦いに参加して欲しい!」

 黒髪美少女が、悠木と雪白を連れ去ろうとする! その理由は一体——?


☆「しらばっくれないで。あなたのことは全て調査済みよ、サーシャ」

「……こんなのが出てくるなんて、聞いてませんわ」

 サーシャは何を企んでいるのか?

 それを阻止しようとする、もう1人の美少女の正体とは——。


41.蒼天、大ピンチ

42.師匠も悩む

43.ミルキーウェイ・ガール

44.サーシャと金髪美少女

45.星猫戦隊失踪事件


どうぞ、お楽しみに!

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