38.緊張という強敵


 東側控え室——。

 勝ち抜いた強豪たちが集まったので、雰囲気は第1戦の時よりも、ピリピリとしている。

 優志ミオンが椅子に座って落ち着けようとした時、優志の前の床に大きな影が現れた。


「……ふん。勇者ミオンと当たったか。勇者様の実力、とくと見せてもらおう」


 サミュエル——。

 戦いに慣れているのであろう。落ち着き払った様子である。

 一方優志は、すっかり緊張してしまっていた。

 

 優志には、勝ち抜きで優勝が決まる大会の経験が何度かあった。例えば、ポップスバンドやロックバンドのコンテスト——優勝者にメジャーデビューのチャンスがある、夏フェスなどのビッグステージに出るチャンスがある——などである。しかし勝ち進むにつれ、緊張してしまうことで実力を発揮できなくなり、いつも予選落ちに終わるのであった。

 そのことを思い出してしまった優志はますます緊張し、手汗が止まらなくなってしまっていた。


「サ……サミュエルさん……。何でそんなに冷静でいられるんですか……?」


 座ったまま震える声で優志は尋ねるが、サミュエルは質問には答えず、軽蔑するような目で優志を見下ろした。


「勇者ともあろう者が、そんなことでどうする。その装備も重くて扱いきれていないのではないか?」

「す……すみません」

「誰に謝っているのか……。まあいい。せいぜい楽しませてくれ」


 サミュエルは呆れた様子でフッと短い溜め息をつくと、優志の元を去った。

 歳下に説教され、なんとも情け無い気持ちになる。優志は、“自分に自信が無い”ことに気付かされたのである。


 一方サラーは、いつも通りマイペースに装備を整えている。出店で買った、露出の激しい【ウィッチローブ】を身につけていた。

 優志とサミュエルを除く控え室にいる者の大半が、着替えるサラーにチラチラと視線を注ぐ。だがサラーは全く気にする様子もなく、堂々と素肌を露出させていた。


「皆様、グラウンドへ!」


 チャイムと共にアナウンスが流れる。

 強豪たちが挙ってグラウンドへの扉をくぐる。優志も立ち上がるが、すでに足が震えていて言うことを聞かない。


「ミオン様ー、大丈夫ー?」

「す、すみません……。ありがとうございます」


 サラーに手を貸してもらい、優志はどうにか椅子から立ち上がる。

 不安でいっぱいのまま、優志はグラウンドへと向かった。


 ♢


 グラウンドで、優志はサミュエルと対峙する。

 優志よりサミュエルの方がずっと若いが、身長も体格もサミュエルの方が大きい。

 近づくだけでも気圧されそうな、威風堂々たるそのオーラに、優志は手汗と足の震えが止まらなくなる。

 堂々と構えるサミュエルに対し、優志は緊張により平常心を完全に失ってしまっている——。


 風が吹き、サミュエルの黒髪がなびく。


「Ready……Fight!」


 第2戦の開始を告げるゴングが、グラウンドに鳴り響いた——。

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