37.第2戦に向けて


「やっぱり、ここにいた……。でも、声をかけるのは、ちょっと勇気いるなあ……」


 黒髪の美少女はそうつぶやき、じっと優志ミオンたちの様子を窺う。

 それに気付くはずもない優志たちは、間もなく始まる2戦目の準備に追われていた。


「1戦目を勝ち抜いた戦士たち、まずはおめでとう! 2戦目のチーム分けは……これだ!」


 イングズの声と共に、競技場の電光掲示板に2戦目のチーム分けが表示される。


 チームA——

 ・勇者ミオンVSサミュエル

 ・シオンVSヨイチ

 ・サラーVSベンジャミン

 ・影丸かげまるVSアヤ


 チームB——

 ・ビリーVS蒼天あおぞらソアラ

 ・Mr.タチバナVSマサオ

 ・猫月ねこつきごまVSアルス王子

 ・ゴーレムVSヨシユキ


「サ……サミュエルさんと戦うのですか……!?」


 優志の声に気付いた雪白は、わざわざ優志の前に歩み寄ると、頭を下げた。


「すみません、飛田さん。申し訳ないけど、私は文矢く……いや、サミュエルくんを応援させてもらいます」


 冷静にそう言われた優志は、複雑な気持ちになり、目を背けた。

 一方、サラーと蒼天ソアラは——。


「私も頑張ってきますー。今までの経験があればー、きっと勝ち抜けますよねー!」

「オレ、ワクワクしてきたぜ! 強い奴と真っ正面から戦える機会なんか、滅多に無いからな!」


 気合充分の、サラーと蒼天。

 稲村リュカは出店で買った酒を飲みながら、2人に「頑張れよ!」と声をかける。


「リュカおじさん、また飲んでる」

「没収や。ラデクくん、気づかれんようにお酒持って行くで」


 既に3本買い溜めされていた酒瓶を、ラデクと暁月スピカはそっと持ち去り、バッグの中へ隠すのであった。


「ボクが次に戦うのは……あのヘンテコな性格の王子か」


 第2試合での猫月の対戦相手は、王子アルスである。

 それを知った悠木はすっかり取り乱し、猫月に懇願する。


「ご……ゴマくん!! お願い、手加減して! 修司く……アルスくんを傷つけないで!」

「バカかテメエは!! 手加減なんざするわけねえだろ!」


 猫月は、すがり付く悠木の手を振り払った。


「推しは正しく推せ。ボクに手加減なんざお願いするんじゃなく、アルスの奴が全力出せるよう応援するってのが、筋なんじゃねぇーのか? 愛音あいねよぉ!」


 悠木はハッとし、猫月の顔を見る。そしてキュッと唇を結び、コクリと頷いた。


「うん……そうだね。私、間違ってた! アルスくんが勝てるよう、全力で私の声を届ける!」


 猫月は満足そうに、ニッと笑った。


「……ま、どっちにしろボクが勝つけどな」

「うう……簡単には負けないもん、アルスくんは……!」


 第2試合開始まで、あと10分——。

 チームAの優志とサラーは、仲間たちに見送られ、東側控え室へと向かった。


 ♢


「……まだ動きがない、か。じゃあ僕もちょっとだけ試合を見ていこうかな。いいよね、ロウ」

「ガウ!」


 黒髪の美少女は、ポケットの中でゴソゴソと動く青い毛玉をそっと撫でると、優志たちがいた場所から少し離れた観客席に座った。

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