34.孤高の戦士サミュエル


 天下一武術大会では、剣を使うことができない。

 サミュエルは魔法剣士なので、自身の剣は控え室に置いてきている。しかし、蒼天に負けずとも劣らぬ素早い動きでガルゴを撹乱、一気に距離を詰め、ガルゴの鳩尾みぞおちに拳をねじ込んだ。

 地面に倒れ込むガルゴ。


「……くそ! 立てねえ……」

「試合終了! 勝者、サミュエル!」


 サミュエルは一撃もダメージを受けずに、ガルゴを倒してしまった。

 観客席から大歓声が沸いたが、優志たちのいる場所からは一段と大きく高い声が響く。


「ぎゃーー!! 文矢ぐーん!! がっごいいー!!」


 まるで別人のように熱狂する雪白に、優志ミオン稲村リュカもラデクもサラーも猫月ゴマ暁月スピカも、みんなドン引きである。

 サミュエルが東側控え室へと戻ろうとした時、雪白は奇声を発し続けながら席を飛び出した。すかさず追いかける悠木。

 雪白と悠木は他の観客の注目を浴びながら、東側控え室へと走っていく。


「わ……私たちもいきましょう」

「ああ、ソアラに水持ってってやろう」

「せやな! にしても友莉ちゃんって子、やばいなぁー。あの子が一番まともやと思ってたけどほんまは一番やばいんちゃうか? あ、サラーちゃんたちはどうするん?」

「私たちはー、ここで待ってるわー」


 優志、猫月、暁月も悠木の後を追い、東側控え室へと向かった。


 ♢


「お疲れ様でした、ソアラくん」

「よお、やるじゃねぇかソアラ!」

「さすがやなソアラくんはー! はい、スポーツドリンクや!」


 汗だくの蒼天はタオルで顔を拭きながら、よく冷えたスポーツドリンクを暁月から受け取った。茶色い髪が、すっかりボサボサになってしまっている。


「ありがとよ!! お前らが応援してくれたお陰だぜ! 次も絶対勝利を決めてやる!」


 蒼天は満足げにニコッと笑い、白い歯を見せた。

 その後、猫月、暁月と共に控え室を後にし、観客席へと向かった。

 優志は、次の試合——チームCの第1戦に出場するアルス王子に声をかける。


「アルスさん、次ですね。応援していますよ」

「……えへへ! 勇者ミオン様! 恥ずかしくない戦いを見せるから、ちゃんと見ててね!」


 アルス王子は腕をパタパタさせながら嬉しそうにそう言うと、立ち上がって青いマントの皺を伸ばした。

 アルス王子=北村修司が推しである悠木も彼に応援の言葉を贈りたかったが、雪白が暴走しているので、それどころではない。


「……ふん」


 サミュエルの声が小さく響いた。自販機でスポーツドリンクを買い、控え室に戻ってきたのである。

 その声に雪白が反応、猛然とサミュエルの元へダッシュしようとする。が、悠木が必死に止める。

 それに気づかぬサミュエルは、汗を拭いつつ無言でアルス王子を見送った。


「ゔおおお……文矢ぐんの……汗ダオル……」

「友莉! 目がイッてるよ! 帰ってきて友莉ー!」


 今にも飛び出しそうな雪白。悠木は必死に雪白の腕を掴んでいる。

 いつもは悠木が暴走し、それを止める雪白だが、その図式が真逆になってしまっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る