32.雪白友莉、豹変


「皆さん……ただいま」

「ただいまー。ラデクー、勝ったわよー」


 ラデク、猫月ゴマ暁月スピカ、悠木、雪白のいる観客席に戻ってきた優志ミオンたち。稲村リュカは、いまだにを項垂うなだれている。


「サラー! さっすが! はあ、俺も出たかったなぁ」

「ラデクー、大人になったらまた一緒に出ましょー」

「大人って何年後だよ! もう、それまでにもっともっと強くなってやるんだから。……でもその前に、魔王を倒さなきゃだね……」


 ラデクの言葉を聞いた優志は、その純粋な瞳を見てそっと頷いた。


 この大会で勝つ目的は、優勝賞品である船入手するため。

 魔王の島は、遥か遠くの海上にある。

 優志が持っている地図は“オトヨーク島”の地図なので、海の外がどうなっているかは現状分からない。なので魔王の島がどこにあるかも今のところ不明なのだが、何にせよ船を手に入れないことには、魔王の島に行くことは出来ないのである。


 ラデクとサラーは席につき、優志も水を飲んで腰を下ろす。

 一方、猫月、暁月、悠木、雪白は——。


「今日もギフトとスターいっぱいありがとなー。おかげでランクアップだ。さ、次の試合始まるからそろそろ枠閉じだ。来てくれてありがとな! おつゴマー!」


 “ニャイフォン15フィフティーン”にイヤホンを繋いで、猫月が配信アプリ“IZENAGイゼナグ”で配信をしており、悠木と雪白が夢中で画面に見入っていた。

 暁月も何だかんだで、自分の描いた猫月の立ち絵の動きを見ながら、猫月の配信を楽しんでいたのであった。


「1戦目チームBの組み合わせは、ヨイチVSナツメ、蒼天あおぞらソアラVSケイイチ、ビリーVSサクヤ、ガルゴVSサミュエル」


 アナウンスが会場全体に響く。

 雪白は“サミュエル”の言葉に反応、白線で4つに仕切られたグラウンドで自身のポジションに移動するサミュエルをガン見する。


 サミュエルは、雪白の推し——“埴輪はにわ男子”の“宮元文矢みやもとふみや”そっくりなのである。現時点では本人なのかは不明なのだが、それでも雪白は全力で応援する気満々であった。


「さあ、ソアラくんをみんなで応援しましょう」


 優志は、みんなに呼びかけた。


「おうよ!! ソアラ、一発かましてやれ!」

「せやな! ファイトやー、ソアラ!」

「うん! 頑張れソアラ! 俺の分までやっちゃえ!」

「ソアラくーん、いけいけー頑張れー」

「サラーちゃん……いつか俺のことも応援してね……?」

「ソアラくん、がんばー!! ……ねえ友莉も応援しよ?」


 猫月、暁月、ラデク、サラー、リュカ、悠木は優志の呼びかけに応え、グラウンドに小さく見える蒼天に精一杯声援を送る。


 しかし雪白は——。


「……!! 絶対!! 優勝ーーッッ!!」


 突然発せられた、聞いたことのない雪白の大声に、優志たちはびっくり仰天するのであった

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