31.まずは1勝


「第1戦チームAの勝者……優志勇者ミオン、シオン、サラー、ベンジャミン! ナイスファイトだ!」


 イングズの声が響き渡ると、大歓声がグラウンドじゅうに響き渡る。

 サラーも、見事に第2戦へと勝ち進んだ。


「サラーちゃーん! おめでとうー! 控え室へ癒しに行くぜー!」


 歓声の中、稲村リュカの大きな声がはっきりと聞こえたが、優志とサラーは気付かずに東側控え室へと戻っていく。


「今から10分の休憩だ。次は第1戦チームB! 準備しておけよ!」


 イングズはそう言って、パイプを咥えながら壇を下りた。


 ♢


「サラーちゃああん! ヒール!!」

「ちょっと、いなちゃん!」


 東側控え室の扉を開くや否や、どこで着替えたのか僧侶の装備を身につけたリュカが、サラーに癒しの魔法をかける。


「あらー、ありがとうリュカさんー。気分スッキリしたわー」

「ん? ……あれ、くれないのか?」

「あれー? あれってなあにー?」

「ほら、ラデクにいつもやってるだよ、! 癒したお礼にやってくれよ!」


 とは——?


「あー、ねー。うふふふ、じゃあおいでーリュカさんー」

「よっしゃ! 話が分かって助かるー!」


 リュカがサラーの胸元に自身の顔を預けようとした——その時だった。


「お! 優志にサラー! さすがだな! オレ、触発されちまったよ!」


 チームBとして出場する蒼天ソアラが、大声で優志とサラーに声をかけた。

 サラーが「あらー、ソアラくんー!」と言いながら急に蒼天の方を振り向いたものだから、リュカはバランスを崩し顔面から床に倒れかける。優志はすかさず、リュカを支えた。


「……おのれソアラ、もう少しだったのに……!」

「リュカ、こんなところで何してるんだよ……私は友達として恥ずかしい! せめて人のいないところでやってください!」

「ミオン……分からないのか、この悲しさが……」


 呆れる優志、涙を飲むリュカをよそに、サラーは楽しそうに蒼天と話していた。


「とっても楽しかったわー。うふふ」

「さすがだな! 優志もサラーもな!」


 蒼天は控え室のピリピリした雰囲気を跳ね返すかのように、フン! と鼻息を吐き出す。


「いよいよオレの出番だ! オレが本当の武道ってやつを……見せてやる!」


 サラーは蒼天にパチパチと拍手を送った。優志も遅れて拍手を送るが、リュカは相変わらずしょんぼりとしながら下を見ていた。

 そんな優志たちを、控え室の端から見ていたのは——王子アルスとサミュエル。


「僕はチームDだから第1戦では最後かあ。ドキドキするー……。サム、頑張ってね」

「……思っているほど大した事はなさそうだな。優勝は俺がもらった」


 入場のアナウンスが流れる。


「チームB、入場してください」


 気合充分、蒼天は道着の帯をしっかり締め、扉をくぐってグラウンドへと足を踏み出した。

 アルス王子に励まされたサミュエルも、チームBの最後尾に並び、振り返ることなくグラウンドへの扉をくぐる。


 蒼天を見送った優志とサラーは、暁月や悠木たちがいる観客席へと向かった。

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