30.優志、第1試合

 

 4つのフィールドすべてに審判が来て、準備が整ったのをイングズは確認すると、試合開始のゴングのばちを握った。


「Ready……Fight!」


 カーン! と、ゴングが鳴る。


 観客席から湧き上がる歓声。

 他のフィールドから響いてくる掛け声、怒声。


「勝負あり! 勝者、ベンジャミン!」


 開始3秒で決まったフィールドもあるようだ。

 で、優志はというと——。


「フフフ、かかってこいよ、勇者様。剣が使えないんじゃあ、何もできねえってか。なら……」


 優志の相手は、長身で筋肉隆々のいかにも屈強そうな男、チェン。

 上半身裸に黒いズボンを履き、髪型は辮髪である。


「こっちから行くぜ!」


 チェンは優志目掛けて駆け出したが、優志は——目を細め集中していた。


(私は非力です。ですが……私なりの戦い方があるんです!)


 ♢


 一方、猫月たちがいる観客席では——。


「あれ! 電波通ってるじゃねえか! よっしゃ、配信だ配信! タイトルは……天下一最強武闘大会なう!」


 今までは圏外だったのに何と、電波が通っていたのである。しかも5Gも使用可能、フリーWi-Fiも何種類か飛んでいる。

 猫月ははしゃぎながら、優志とサラーの観戦そっちのけで、配信に使う立ち絵の設定を始めた。


「優志さんがんばれー……ってゴマあんた何してんねんな! 仲間なんやからちゃんと応援せんかい!」

「あ!! コラ! スピカ! ニャイフォン返せ!!」


 グダグダしてる猫月たちをよそに、悠木と雪白は真面目に、優志に向けて声援を送り続けていた。


「飛田さーん!! 前やってた、ドカーンってやつで決めちゃえ!」

「飛田さん……頑張ってください!」


 リュカとラデクは——。


「サラーちゃーん! ケガしたら俺がいつでも治してやるぞー!」

「リュカおじさん! 何でサラーばっか応援するんだよ!」

「いいじゃねえか! 坊主も俺に負けないように応援すりゃいいだろ?」

「うわ! 酒臭! また飲んでるの? それに坊主って呼ぶな!」


 ♢


(みんな応援してくれています……! 行きますよ……!)


「どうした……? 避けてばっかりじゃあ俺には勝てねえぞ?」


 優志は集中しながら、今までの戦いを経験を活かし、チェンの繰り出すパンチを確実に避け続ける。

 チェンの息が少し上がり始めた。優志はそのタイミングを逃さず、を開始する。


「それでは聴いてください。“小鳥の鳴く森で”」


 優志は、少しだけ「あーあー」と声出しをしてから、集中しながらものの数分で作曲したオリジナルソングを、アカペラで歌い始めた。

 場の雰囲気に似合わぬテノールの美声が、グラウンドに響く。


「な……何だ、落ち着いてきちまった。調子狂うぜ……」


 チェンは戦意を喪失し、拳を下げてしまった。


「今です! サンデー!」

「ぐぼぉっ!」


 すかさず放った勇者の魔法“サンデー”が炸裂。たまらずチェンは、白線から外に転がり出た。


「勝負あり! 勝者、優志勇者ミオン!!」


 観客席から湧き上がる歓声。それに紛れて、仲間たちの声が聞こえる。


「やったな優志!」

「おおー! かっこええやん優志さん!」

「飛田さーん! 音楽で敵を倒すなんて、天才ー!!」


 第1戦——まずは勝利である。


————


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【次週予告】


☆ 「リュカ、こんなところで何してるんだよ……私は友達として恥ずかしい! せめて人のいないところでやってください!」

 ついにキレた優志。リュカは一体、何をやらかしたのか——。


☆ 「友莉! 目がイッてるよ! 帰ってきて友莉ー!」

 本気で雪白を心配する悠木。雪白友莉に何があったのか——?


☆ 「へへっ。ルールにはちゃんと魔法は使っていいって書いてあったもんね! それっ! “ビックアイスボール”!」

 アルス王子、ついに実戦! その実力とは——?


31.まずは1勝

32.雪白友莉、豹変

33.蒼天ソアラの実力

34.孤高の戦士サミュエル

35.アルス王子と巨大雪だるま


どうぞ、お楽しみに!

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