29.“天下一武術大会”開幕!


 海賊船長イングズ——非常に分かりやすくドクロマークが描かれた黒い船長帽子を被り、黒と白のスラッとした上下の服の上に、金箔が散りばめられた大きな黒いジャケットを纏っている。

 カールした黒い口髭と顎髭が目立つ、見た目は30代前半の男だ。


「出場者は総勢32名。強そうな奴らばかり集まったな。パンフレットにも書いたが、ルールを改めて説明するから、よく聞いておけ。まずは……」


 イングズは壇上でパイプの煙をくゆらせながら、パンフレットを片手にルール説明を始めた。

 “天下一武術大会”におけるルールとは——。


 相手を殺してはならない。

 円になっている白線から出たら負け。

 刃物は使用禁止。剣、短剣、ナイフなど。

 魔法は使用可能。

 アイテム、変身。パワーアップなどは自由。

 制限時間は10分。

 勝敗は審判の判定。また、白線から出たら負け。ギブアップも可。

 勝ち抜き戦で全5試合。誰と当たるかは、ランダム。

 優勝者には、海賊船をプレゼント。


「では最初の組み合わせの者たちは、控え室で準備してくれ」


 イングズはそう言って煙をフーッと吐くと、ゆっくりと壇を下りた。


 グラウンドが4分割され、それぞれに楕円形の白線によるフィールドが描かれている。そこで、準決勝までは同時に4本試合が行われる。

 準決勝からはグラウンドは2分割し、同時に2本試合が行われる。そして決勝戦では、グラウンドをフルに使うことになる。

 控え室は、西側と東側の2つ。


「あ! 早速、出場です……」

「私もねー。じゃあ、行ってくるわねー」


 グラウンドの奥に設置されている電光掲示板に、出場者のチーム分けが表示された。優志勇者ミオンとサラーは、Aチームであった。Aチームは、この後すぐに試合である。


 2人とも東側控え室へ行くよう指定されているので、共に向かった。


 ♢


 東側控え室にはAチームのメンバーたちが集う。ピリピリとした雰囲気である。

 筋肉隆々の上半身裸の男が、フッフッと息を吐きながらウォーミングアップをする。眉間に皺を寄せながら、両手を光らせる背の低い女もいる。魔力のチェックをしているのだろう。

 そんな中、優志とサラーはお互いに握手をしていた。


「頑張りましょうねー、ミオン様ー!」

「ああ、お互い頑張りましょう」

「あ、あの画面に、組み合わせの表が出ましたよ。私は……チェンという名前の人と戦うみたいです」

「私はー、ドルネロって人かー。んー、全然知らない相手ねぇー」


 ブザーが鳴る。ついに、試合が始まる——。


「頑張ってこい、優志。サラーとやらも、思い切りブチかましてやれ」


 控え室の入り口のドアからは、猫月ゴマが顔を覗かせていた。

 優志とサラーは振り向いて頷き、グラウンドへの扉へと向かった。


 ♢


「さあ始まりました、天下一武術大会! 1戦目チームAの組み合わせは、勇者ミオンVSチェン、シオンVSザイド、サラーVSドルネロ、ベンジャミンVSサスケ」


 白線で4つのフィールドに区切られたグラウンド。優志は控室から出て左手前側のフィールドで戦う。

 西側控え室から優志のいるフィールドに歩いてきたのは、身長が180cmを超えているであろう長身で、上半身裸の筋肉隆々の男“チェン”。不敵な笑みを浮かべ、優志と対峙した。

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