24.オカンスピカ


 結局、全員が寝静まったのは深夜2時30分頃。


 暁月は猫月たちに「ほどほどにしときや」とだけ言うと、さっさと部屋にあるシャワールームでお湯を浴びて寝る支度をした。ラデクにサラーも早々とベッドに入って眠りについた。が、リュカ、猫月、蒼天は奇声と笑い声と上げながら酒パーティーを続け、酔い潰れたまま雑魚寝する始末。

 おまけにリュカの爆音いびきである。

 

「……胃の反射区が痛いです……」


 1人大浴場で疲れを癒し、湯上がりに習慣である足揉みをする優志。親指寄りの土踏まずにある胃を反射区を押すと痛む。やはりストレスで胃をやられていたようである。

 502号室に戻った優志は、胃に穴が空く前にこのグダグダパーティーをまとめる策を練らないとと思ったが、それを考えると不眠症にもなってしまいそうだったので、強制的に思考を停止し気絶するようにベッドに倒れ込むのだった。


 ♢


 翌朝。

 ベランダに出て深呼吸する優志。道路には、行き交う車。横断歩道にある信号機の「カッコー」「ピヨピヨ」と発する音響装置の音。目の前は現実世界とたがわない街中だが、遠くの景色は砂丘地帯が広がるという不思議な光景。

 ホテルのベッドは寝心地が良く、ぐっすりと眠れた優志は、ひとつ大きなあくびをした。


 室内にある電話が鳴る。

 暁月が受話器を取った。


「はーい。ほな今から行きまーす」


 優志が部屋に戻ると、ラデク、サラーも起きて着替えていた。サラーは優志やラデクが目の前にいるにも拘らず着替え始めたため、優志は思わず外を見る。


「みんなー、食堂行くでー。朝ごはんはバイキングなんやって。ほら、酔っ払い3人組も早よ起きや!」


 雑魚寝している酔っ払い3人組——リュカ、猫月、蒼天。未だに目を覚ます気配はない。

 そうこうしているうちに、朝食の時間の9時が迫る。


「皆さん、行きますよ……?」

「もーえーわ、あの3人はほっとこ。優志さん、ラデクくん、サラーちゃん、鍵閉めて行くで」

「お腹すいたー。いいのかな? ほんとに」

「まぁー後から外でも食べられるんだし、行きましょうー」


 結局リュカ、猫月、蒼天は放っておいて、優志たちは食堂へと向かうのだった。


 ♢


 庭園の見える、広々とした食堂。高い天井にはいくつものシャンデリア。

 薄いピンク色のテーブルクロスのかかった長いテーブルの上には、トースト、フランスパン、ジャムパン、ピザトースト、その他菓子パン。別の長テーブルには何種類ものサラダ、そして数々のフルーツを使ったデザート。


「わあー、どれにしよう。俺は朝からいっぱい食べたい派だかりなー」

「ラデクー、育ち盛りなんだからー、いっぱい食べなきゃねー」

「ウチもせっかく人間になれたんやし、色々味わっときたいわぁ」


 楽しげにお喋りしながら皿に盛る3人のそばで、優志は黙々と野菜サラダ、フルーツポンチを盛る。糖質を控えるため、パンは少なめに。


「じゃあ、いただきます」

「「「いただきまーす」」」


 パーティー内のたちがいない朝食タイム。優志は、久しぶりにくつろいだ感覚を味わっていた。


(気が楽です、束の間の天国です……。ソアラくんはまだしも、いなちゃんとゴマくんはちょっとしんどいです……。いなちゃんは酒さえ入らなければ……)


 お腹を満たした4人は、食堂を後にする。

 5階に着き、エレベーターから降りた途端、502号室の方からギャーギャーと喚き声が筒抜けで聞こえてくる。


 鍵を開け扉を開くと、不機嫌な顔をした酔っ払い3人組が優志たちを睨んだ。


「おい! ボクらを置いて豪華な朝飯に行くだなんて酷えじゃねえか!!」

「オレ、腹減って動けねえよ……!」

「頭がいてえ……飛田く……いや勇者ミオン、“ヒール”で俺を癒してくれ……」


 ここで、みんなの、暁月スピカが3人を叱り飛ばすのだった。


「寝坊するあんたらが悪いんやんか! しかも今日は天下一武術大会や。大事な日ぃやんか! 次からは先のこともちゃんと考えて行動すること! ええな!! 分かったらさっさと風呂入ってぃ! あんたら、臭い!!」

「「「わ、分かった……!」」」


 以後しばらくは、猫月、蒼天、リュカは大人しく優志の言うことに従うのだった——。

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