23.酒酒酒


 日もとっぷりと暮れた砂丘地帯。街から近い場所で優志ミオンとリュカは、砂丘地帯の中では比較的弱い魔物——サボテンガールを狩っていた。


 砂丘地帯の魔物は猫月に殲滅されたはずだったが、時間が経つと魔物たちは復活するらしい。

 昼間ほどの暑さはなく、生命の水をボトルに汲んできたこともあり、優志たちはさほど体力を消耗せずにサボテンガールを20体倒すことができた。

 サボテンガールが落としたゴールドは、合計6,000ほど。ついでに、レアアイテムの頑丈な盾“シルバートレイ”を1つゲットした。


「これで充分足りるな。あそこの屋台でメシ食おうぜ」

「屋台……?」


 リュカに誘われ、商店街にいくつか来ている屋台へと向かう。温かな照明に暖簾、赤提灯——現実世界で見られる屋台と全く相違ない。それを見ただけでお酒が飲みたくなったリュカ。


「らっしゃい、らっしゃいー」


 リュカは迷うことなく、屋台の主人に注文する。


「ビール、焼き鳥、それから焼きそば! あと特製豚骨ラーメンも、もらおうかな!」

「あいよ!」

「あ、私は……焼うどんで」


 とても異世界とは思えぬ感覚。この後、何も考えずに、アパートの自室へと帰ってしまいそうな錯覚さえ覚える優志。


「変な感じですね……」

「いいじゃねえか、俺はもうこの世界、慣れたよ。ほら、俺が奢るからお前はもっと食え。もっと食って太れ!」

「あのリュカ……、ゴールドはパーティーみんなで持つって話じゃ……?」


 結局屋台で2,000G使ってしまい、手元に残ったのはホテル代をギリギリ払えるぐらいであった。


「ウィ〜……ヒック……。このシルバートレイ、売るか?」

「いえ……、スピカさんに差し上げようと思う。装備が重そうでしたからね」

「そーか、それもいいな……ゲフッ! ああ、2軒目行きてえ……」

「リュカ、明日は天下一武術大会だからちゃんと休もうよ……。あ、ホテルはこっち!」


 時刻は22時を回ろうとしている。

 優志は、足取りが怪しいリュカをどうにか連れて、ホテルに戻った。


 ♢


「おう、オッサン2人、戻ったか。ゲフッ」

「あ! 何かええ盾持ってるやん!」

「よおー! 人間が飲む“酒”とやら、なかなかいいもんだな! ヒック!」


 502号室に入ると、すでに出来上がった猫人間たちの姿が優志とリュカの目に入る。

 テレビのある畳の部屋はすでに、入居して半年以上経った学生の一人暮らしの部屋の如く、空き缶やお菓子の袋、汁の残ったカップ麺などが床に散らかり放題である。誰も見ていないつけっぱなしのテレビからは、バラエティ番組の笑い声。


「あの……ゴマくんたち? てっきり明日に備えて寝ていると思ってたんですが……」

「おうー、お前らも飲んでたか! 俺も混ぜろー! 2軒目じゃ2軒目ー! がはは!」


 床にへたり込む優志、ノリノリで猫月たちに混ざるリュカ——。

 優志は、今度は胃の調子が悪くなりそうである。

 ちなみに暁月は、ニャガルタにおいては未成年扱いなので酒は飲んでないが、“雰囲気酔い”してしまっていた。


 仕方なしに優志は1人で、破れかけの“天下一武術大会”のチラシを見て、集合時間を確認する。

 予約は不要、当日エントリー。

 チーム戦ではなく個人戦。


(個人戦ですか。なら、代表で強い人を……ゴマくんかな?)


 猫月の方を見る優志。酎ハイの缶を片手に、大きな声で笑い声を上げる猫月。代表はやはり別の誰かにすべきかと、思い直すのであった。

 少し休もうと、優志はベッドルームに移動する。


「あれ……ラデクくんと、サラーさんは……?」


 ベッドルームには、誰もいない。

 畳の部屋から猫月の声が返ってくる。


「ああ、ラデクはサラー姉ちゃんと風呂行ったぞ。一緒に入るってよ」

「なるほどです。サラーさんと一緒に……ええ!?」


 現実世界なら、ラデクの年齢で女湯に男子を連れ込むのは禁止のはず。まだその点については、夢の世界と現実世界が1つになる影響が出ていないのであった——。

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