22.ウキョー到着


 聳え立つ双子山の麓の街、“ウキョー”。

 その光景は、今まで夢の世界で冒険してきた街のそれとは一線を画すものであった。


 アスファルトで舗装された道路。立ち並ぶ電信柱にLEDの街灯。時刻と天気予報が表示された電光掲示板。

 行き交う四輪駆動車、小型のバス、軽トラ。

 2階建てで駐車場つきのスーパーマーケット。高さ30メートルほどのマンション。

 まるで現代の日本にある、小さな町のようであった。


 唖然としながら街に足を踏み入れると、紺色の制服を着た黒髪ロングヘアの女性が優志ミオンたちに声をかける。


「双子山の湧き水を、どうぞ」


 受け取ったグラス1杯の水。それは、乳白色を帯びていた。

 そう、この水は——。


「これは、【生命の水】……!」

「ほんとだ! “生命の巨塔”から噴き出してたやつと同じのじゃん!」

「みんなー、早く飲みましょー。元気出るわよー」


 かつて、破壊された“生命の巨塔”を直した時に、塔の上部から噴き出していた乳白色の水——“生命の水”と同じものであった。


 猫月、暁月、蒼天も、生命の水を一気に飲み干す。


「うお! うめえなコレ」

「ほんまや、生き返ったわ」

「すげえな! 疲れがいっぺんに吹っ飛んだぜ!」


 街を見下ろす双子山——アタゴ山、ヒエイ山からは、“生命の水”が湧き出ていたのである。

 それを日常的に飲んでいるウキョーの住民は皆、健康体である。邪竜パン=デ=ミールが襲来した時ですら、新型ウイルスに罹る者は誰一人いなかった。

 だからこそ、魔王ゴディーヴァは双子山に目をつけ、サーシャを向かわせた訳だが——優志たちは、そのことにまだ気づいてはいない。


「あ、ちょうどあそこに小さなホテルがあるぞ。あそこに泊まろう!」


 リュカの提案で、商店街を出たT字路の横断歩道を渡ったすぐ先にある、高さ20メートルほどの建物を指差した。看板には、“みやこINN”と書かれている。

 “みやこINN”は、現実世界における全国チェーンのホテルであった。


 横断歩道を渡り、“みやこINN”へ向かう。

 到着し自動ドアを通ると、フロントでは制服を着た係の人が、何の疑問を持つことなく当たり前のように業務をこなしていた。


「いらっしゃいませ」


 優志とリュカは、受付でチェックインをする。

 その間ラデクとサラーは、シャンデリアの吊るされた天井や、煌々と灯る照明、大理石で造られた床や壁を見て、感激の言葉を口にせずにいられないでいる。


「何だここ、すげー! いつの間にこんなすげえ宿屋が出来たんだ?」

「すごーい。黒い階段がー、動いてるー!」


 猫月たちは、ロビーの端にあるゲームセンターへ行き、物珍しげにクレーンゲームを眺めていた。

 受付を済ませた優志とリュカが戻ってくると、ラデクや猫月たちもロビーに集合した。


「皆さん、聞いてください。ホテル代が足りませんので、私とリュカは砂丘地帯へ戻って魔物狩りをします。皆さんに鍵を渡しますから、先にお部屋でくつろいでいてください」

「メシの時間になったら館内の食堂に行くよう電話がかかってくるからな。俺たちは外で食ってくるから。……くれぐれもホテルの備品壊したりすんなよ。特に猫月ゴマ、お前な」


 猫月はわざと口笛を吹き、視線を高い天井へと向ける。


「てことで、一旦解散です。お部屋へは、エレベーターで行ってください。5階の、502号室です。ではでは」

「ちょっと待てミオン」

「いなちゃ……リュカ、どうした?」

「あいつら、エレベーターの使い方分かんないんじゃないか? 俺が先に部屋に案内してくるから、ミオンはそこで待っててくれ」


 ラデク、サラー、猫月、暁月、蒼天は、リュカに案内され、エレベーターの中へと入っていった。


 優志は自動販売機でボトルのカフェオレを1つ購入し、ロビーのソファに腰掛けながらため息をつきながら独りごちた。


「大丈夫……ですよね。きっとうまくやれます」

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