21.酷暑の砂丘地帯
太陽の光が照りつける砂丘地帯。
サボテンが所々に生えた、高低差のある砂地が一面に続くだけである。そんな同じ景色に飽き飽きしてしまうことも、パーティーの疲労の蓄積に拍車をかけている。
「もうお水、半分も飲んじゃったよ……」
「心配すんなラデクとやら。またミランダに頼んで出してもらえりゃいいんじゃねえか?」
「ゴマー、ミランダちゃんは便利屋やないねんで」
優志は若い頃のような体力もなく、ヒーヒー言いながら先頭を歩く。言葉を発する気力も無い。それに加えあまりの暑さに、プラチナ製の装備も外してしまっている。
仕方なしに、他のメンバーは優志の歩くペースに合わせていた。
額から滝のように流れ出る汗が、目に入る。ぼんやりとした視界に映ったのは——動き回るサボテン。
「み、皆さん、気をつけてください! あのサボテン、動いてます。きっと魔物です!」
まんまるとした形のサボテンたちが、ボールのように転がったり跳ね回ったりしている。
クリンクリンとした2つの黒い目があり、リボンのような形の真っ赤な花が咲いている。
「あれは、【サボテンガール】だ! 木属性だから、炎で燃やしちゃえ!」
ラデクは指差しながら言う。彼は勇者とともに旅立つために、魔物や属性についてよく勉強していたのである。久しぶりの、“指揮官”ラデクの登場である。
「任せてー。“ウィザードスタッフ”ー!」
サラーは、飛び跳ねながら向かってくるサボテンガールの群れに向けてウィザードスタッフを掲げる。
すると杖の先が赤く光りだし、そこから無数の火球がサボテンガールに向かい勢いよく飛んでいく。瞬く間に火だるまになるサボテンガールたち。
だが——。
「回復しやがったな! 面倒だぜ!」
蒼天が声を上げた。
黒焦げになったサボテンガールたちが、エメラルドグリーンの光に包まれる。【ヒール】の魔法を使ったのである。
「もっと火力のある技が必要だな……」
「ラデクくん、私に任せてください! 【エクスプロージョン】」
以前の戦いでも大いに役立った優志の得意技、“エクスプロージョン”が放たれる。
轟音と共に巨大な爆炎と黒煙が上がり、サボテンガールたちは一瞬にして炎に飲み込まれていった。
後に残ったのは、黒く焦げた砂地のみ。
「さっすが勇者ミオン様だ!」
「強くなったのねえー! 私も負けてられないわあー!」
ラデクとサラーに賞賛され、少し得意になりながらグイッとミネラルウォーターを飲み干す優志。
だが、砂丘地帯の敵はサボテンガールだけではない。
「あそこにいるのは、【大サソリ】と【アイアンコブラ】だ。どっちも金属性だから、もっかい火属性でいけばいい。ゴマくんたち、行けるかい?」
「ボクにも指図するのか? テメエ!」
「ゴーマー! ただでさえ暑くてかなわんのに、喧嘩して無駄に気ぃ遣わさんといてぇや!」
「
暁月と蒼天に言われ、それならばと猫月は空高くジャンプする。
「この先の進路の敵、殲滅してやる! 【ホワイト・バーン】、【デス・アースクエイク!】」
凄まじい熱波が発生し、進路上にいる敵は瞬時にして灰と化す。同時に幅が約20メートルにも及ぶ地割れが数百メートルにわたって発生。熱波を逃れた敵たちは一匹残らず、奈落の底へと放り込まれてしまった。
ほどなくして地割れは、元の砂地に戻っていく。
想像を絶する光景と、猫月の強さに圧倒され、ラデクとサラーはその場にへたり込んでしまった。
「どうだ。ボクにかかりゃあこんなもんよ。夢の世界とやらも、大したこたぁねえな。魔王なんざ、ボクが一発でのしてやらぁ」
「さすがだな相棒、確かにお前は強い! だが、慢心しちゃダメだぜ!」
「フン、ボクに怖えモンなんざ無えよ! ってことでラデク、ボクの強さ、分かったろ?」
優志はあまりの暑さに、猫月が暴走していることにすら気づかない有様である。
見かねた
「お前はもう少し体力をつけろ。俺よりも若いんだからさ。“ヒール”!」
「……あ、ありがとう、いなちゃん」
「リュカだ! しっかりしろよ、勇者さま」
そうこうしているうちに、双子山が目の前に迫る。
高さ1000メートル近くはあるだろうか。ひとつは緑に覆われた自然豊かな山“アタゴ山”、ひとつは急峻な崖が目立つ岩肌のゴツゴツとした地形の山“ヒエイ山”。
砂地が段々と草地となり、双子山の麓の街“ウキョー”が見えてきた。
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