20.砂丘地帯へ
「それを売るなんて、とんでもない!」
レジの若き男性は首を横に振り、拒絶した。
額に汗を滲ませながら、男性店員は続ける。
「勇者ミオン様……ですよね。その装備は、いつかあなたを助けてくれる時があるはずです!」
なぜ、見ず知らずの男性店員にそんなことが分かるのか。優志は首を傾げたが、後ろには他のお客さんたちの列が出来上がってしまっている。
「ミ……ミランダさん……この獅子の剣と獅子の兜、獅子の鎧に獅子の盾、預かってください……」
『え、ええいいけど。預かるというか、優志くんの家にワープさせておくわ……』
突然現れた虹色の光に、目を丸くする店員と後ろの列の人々。
ミランダが光の中に去ると、優志は何事もなかったかのように、店員に【フレイムソード】、【ブリザードソード】、プラチナシールド、シルバーメイル、プラチナヘッドを注文した。
フレイムソード、ブリザードソードは、その名の通り火属性、水属性の斬撃が可能で、攻撃力もワンランク上である。
長い列になったお客さんを待たせぬよう、店員はレジから離れ、いそいそと優志が注文した装備を取りに行く。
「はあ、はあ……18,000ゴールドになります」
「ありがとうございます」
精算を済ませた優志は、外で待っている仲間たちと合流する。持ち金は、ほぼスッカラカンになってしまった。
優志は、少し心配であった。
今のところ、オトヨーク島の通貨【
(いずれは通貨も現実世界とごっちゃになってしまうのでしょうか。そうなると、ややこしいことになってしまうのでは……)
そう思い、残り少なくなった貨幣を握りしめるのであった。
♢
全員が装備を装着し、大型武器量販店を後にする。
ついでに近くの自販機で、おにぎり10数個とミネラルウォーターを数本購入。自販機は現実世界と同じように、金貨や銀貨を入れれば買うことができ、お釣りもちゃんと出てくる。
「着替え終わりましたね。これ、重いですね……。では、行きますか」
優志とラデクは、重いプラチナ製の装備になかなか慣れないようである。移動するだけで息が切れる。
サラーは、胸の谷間と腰のくびれが強調された上半身部分と、足下まで丈がある紫色のスカートが美しいプリンセスローブを身につけ、エメラルドのような宝石があしらわれたウィザードスタッフを右手に持つ。
それをチラチラと見ているリュカは、深緑色の長いエプロンのついた聖者の法衣を身につけ、縦に長い緑色とオレンジ色の神官帽をかぶる。より、僧侶らしくなった。
暁月は、やはりプラチナ製の盾が重いらしく、額に汗を滲ませていた。「もうちょい軽いやつにしたらよかったわぁ」とこぼしていた。
蒼天が身につける拳法着は、以前着ていたものと比べ軽量で、より動きやすくなった。鋼の爪は、猫だった頃の感覚も相俟って、すぐに扱い慣れそうである。
猫月は、オシャレになった皆を見て「ボクも何か1つくらい買えば良かったな……」とこぼすのだった。
「さあ、ウキョーへ向かいましょう!」
優志たちはいよいよ、双子山の麓の街【ウキョー】へと向かい始める。
地図によればウキョーは南東方向で、砂丘地帯を通らなければならない。
砂丘地帯は、地平線が見えるほど広大で、緑が少なく、気温もやや高くなっている。おおよそ28℃〜33℃くらいだろうか。おまけに湿度も高いので、優志やラデクのような重装備で歩いていくにはかなりの体力が必要になる。
なお遠くに双子山——【アタゴ山】と【ヒエイ山】が聳えているため、進行方向に迷うことがないのは救いである。
一行はニジョー城下町を後にし、砂丘地帯へと足を進めた。
————
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【次週予告】
☆ 「これは、生命の水……!」「ほんとだ! “生命の巨塔”から噴き出してたやつと同じのじゃん!」
街の入り口でもらった生命の水は、どこから湧き出しているのか?
☆ 「おう、オッサン2人、戻ったか。ゲフッ」「あ! 何かええ盾持ってるやん!」「よおー! 人間が飲む“酒”とやら、なかなかいいもんだな! ヒック!」
宿泊代稼ぎのため魔物討伐に出かけ、帰ってきた優志とリュカが、部屋で見た光景とは——。
☆ピア・チェーレの2人と合流! その後、どういう訳か悠木の推しが優志たちの前に姿を現す。話しかけに行く悠木だが——?
21.酷暑の砂丘地帯
22.ウキョー到着
23.酒酒酒
24.オカンスピカ
25.優志、アルス王子と再び出会う
どうぞ、お楽しみに!
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