19.武器マーケット


 以前と変わらない光景の、ニジョー城下町。

 だが街道沿いに、一際目立つ、平べったくて大きなコンクリート製の建物が建っているのを優志ミオンたちは発見する。

 その建物は武器屋と防具屋が一体になったお店だったが、それを見た優志とリュカは己の目を疑った。


「な……」

「そんなバカな!?」


 何と、その建物の見た目は、現実世界における大型の日用品店に、とても似ていたのである。

 左右に開閉するガラス製の

 お客さんが会計をしている場所に見えるのは——いわゆるレジである。


「まさかこれは……」

「なあ、変だよなあ? 前まで某ドラゴンをハントするRPGみたいな世界だったのに、いきなりこんな現代風なモンが現れるだなんて」


 優志とリュカが目を丸くしているそばで、ラデクとサラーも物珍しげに建物を見ながら店内へと向かっていく。その後を、何も知らない猫月、暁月、蒼天が追う。


「おーいオッサンたち、置いてくぜ!」

「あ、すみません」

「誰がオッサンだー!」


 LEDライトで照らされた店内に、数多くの武器、防具が陳列されている。その一つ一つに、値札が貼られていた。

 壁にあるデジタル時計には、10:32と表示されている。

 

「……にしてもよぉ、せっかくRPGの世界を冒険してたのに、急に現実っぽい感じが出てきて、何か興醒めというか、夢から覚めた気分だぜ、なあミオン」

「いなちゃ……リュカ、私は君の気楽さが羨ましいよ」

「何を下向いてんだミオン。さ、早く何買うか決めようぜ」


 優志は気付いていた。魔王ゴディーヴァの力で、現実世界と夢の世界がどんどん一体化している影響で、この不可思議な現象が起きていることを——。


 各々20分ほど迷って、購入を決めた武器、防具を、レジに持っていった。

 現実世界と同じようにフォーマルな制服を身につけた20代ほどの男女が、慣れた手つきでレジを打っている。


 ラデクが購入したのは——。

 【プラチナソード】、【プラチナシールド】、【シルバーメイル】、【プラチナヘッド】。

 いずれもワンランク上の攻撃力、防御力である。


 サラーが購入したのは——。

 【ウィザードスタッフ】、【プリンセスローブ】。

 ウィザードスタッフは、魔力消費無しで、火、水、木、土、金属性の魔法攻撃が可能。


 僧侶リュカが購入したのは——。

 【ホーリーランス】、【聖者の法衣】。

 ホーリーランスは光属性の物理攻撃が可能、聖女の法衣は回復魔力を増幅させる。


 暁月スピカが購入したのは——。

 プラチナシールド、シルバーメイル。ラデクと同じである。

 剣は、以前から使用する【聖剣・ニャリバー】を使い続けるようである。


 蒼天ソアラが購入したのは——。

 【鋼の爪】、【拳法着】。

 拳攻撃をさらに強化すべく、装着式の鋼の爪を購入。元々持っていた拳法着はボロボロなので、新品を買うことにした。


 猫月ごまは——。


「ボクは要らねえ。【魔剣・ニャインライヴ】、【メタル・メタモルバックル】がありゃあ充分だ。ボクが買わねえぶんのカネ、使え使え!」


 さすがは最強猫勇者。未知なる世界、未知なる敵がこれから立ち塞がろうとしていようとも、何も怖くはないといった様子だ。頼もしい限りである。


 優志勇者ミオンは——。


「あの、この獅子の剣など……重たいので買い取っていただけませんか……?」


 新しい装備に買い替えるため、かつての勇者【マイルス】に貰った獅子の装備一式を売ろうとしていたのである。

 しかし——。

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