26.王子と魔法戦士


 悠木が話していたのは、現実世界におけるアイドルグループ“ジョーカー&プリンセス”の、北村修司似の男。


「修司くん! 修司くんだよね! いつも応援してます!! 一緒に写真撮ってください!」

「えっと……、君は? 僕はアルスだけど」

「あるす? え? 人違い……?」


 北村修司は、悠木の最推しである。こんな所で感動の対面を果たしたと思い込む悠木。

 しかし男は、自らをアルスと名乗る。彼こそがリベル王子の子息、アルス王子だったのだ。


 一方雪白は、アルスと行動を共にしていたもう1人の男に話しかけていた。

 その時の雪白はというと、普段とは違ってすっかり落ち着きをなくしてしまっていたのである。


埴輪男子はにわだんしの……宮元みやもと文矢ふみやくんですよね? ですよね!? あの、あの! サインお願いできませんか!?」

「誰だそれは? 俺はサミュエルだ」

「え?」


 179cmの長身、金のメッシュが入った艶のある黒髪、右耳につけられた2つのピアス、見た目は20代前半——その姿は、雪白の推しである——現実世界におけるアイドルグループ“埴輪男子”の宮元文矢そのものだった。

 しかし、彼の名は【サミュエル】。

 茶色のマントを身につけ、魔力を帯びた剣とドラゴンの顔が彫られた盾を持った、【魔法剣士】である。


 優志ミオンは駆けつけ、リベル王に頼まれた通り、早速アルス王子を仲間にしようと声を掛ける。


「あなたがアルス様ですね。私が勇者ミオンです。早速ですが、リベル王様よりアルス様を仲間にするように頼まれましたので……どうか仲間になってもらえませんか?」


 そう言ってアルス王子と目を合わせる優志。

 しかしアルスは目線を逸らし、サミュエルに話を振る。


「えー……。僕たちは気楽に旅がしたいんだよねぇ。次はヒエイ山に登ろうと考えてたとこなんだ。ね、サム」

「何言ってるんだアルス、この後、天下一武術大会に出るんじゃないのか? 船を手に入れて海外に行く話だったろう」

「あ、そういえばそうだった。……ってことでゴメンね、勇者ミオン様」


 あっさり振られた優志は、俯きながらリュカたちのところへ戻ってきた。悠木も同じように、残念そうに俯いている。


「いきなり声かけてもダメだと思うよ」

「後で改めて声かけましょー。諦めないでー、ミオン様ー」

「そ、そうですね……」


 ラデクとサラーに励まされ、再び顔を上げる優志だった。


「すみません、そこのコンビニでお手洗い行ってきます」


 優志はトイレに行くフリをして、先程気になったことをミランダに尋ねることにした。

 何が気になっていたかというと、アルス王子とサミュエルが現実世界の北村修司、宮元文矢そっくりだったこと。

 話しているとどうやら、優志やリュカと違い、現実世界にいる間の記憶が飛んでしまっている感じがしたのである。


 トイレの中でミランダを呼び、優志はそのことを尋ねた。


『あたしの予想なんだけど、夢の世界へ行く時、優志くんや稲村くんみたいに記憶を持ったまま行く人と、修司くんみたいに記憶をなくして行く人がいるのかも』

「なるほど。もし、このまま夢の世界と現実世界が1つになってしまったら、どうなるんでしょう」

『分からない。もしかしたら、夢と現実のどっちかの記憶が消えちゃう可能性もあるわ』

「そうですか……だとしたら大変ですね。ありがとうございました」


 トイレから出た優志は、コンビニの窓から外を見る。するとそこには、先に行ったはずのアルス王子が、今度は猫月たちと話していた。


「その……猫ちゃんのコスプレかい? んー、可愛いねぇー!」

「コスプレ? んな訳ねえだろ……あれ!?」


 猫月、暁月、蒼天の頭には猫の耳、お尻からは猫の尻尾がピョコンと出ていたのである。

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