14.宿屋にて


「あら、お帰りなさい。たくさんお仲間が増えたのですね」


 宿屋に入ると、受付にいたラデクの母親メルルが、優志に声をかけた。

 時計の針は、午後7時を指そうとしている。


「はい。おかげさまで、助かっていますよ」

「あの、飛田さん」


 雪白が優志に声をかける。


「あ、はい雪白さん。どうされました?」

「私たち、そろそろ家に帰らなきゃです。愛音、忘れ物ないか確かめて」

「ええー、帰るのー? もっとみんなといたーい! お部屋で大富豪とかしようよー!」


 悠木と雪白は、まだ中学2年生。遅くまで出歩くのはよろしくない。

 優志はミランダを呼ぶため「ちょっと失礼します」と言って、悠木と雪白を連れて宿屋の玄関を出た。


 夢の世界での時間は、現実世界の時間とリンクしているわけではないし、夢の世界において未成年は夜中に出歩いてはいけないという法律は無い。

 が、やはり夜の間は家に帰してあげた方が本人たちのためだと優志は判断した。


『はいはーい。愛音ちゃんと友莉ちゃんを家に送るのね。それっ』


 悠木が駄々をこねるのを見越してか、ミランダは悠木と雪白の足元にワープゲートを出現させたため、否応なしに2人はそれぞれの家の前へとワープさせられることとなった。

 悠木と雪白が家に帰ったのは、夢の世界に出発したその日のちょうど夕方5時頃であった。


 無事ワープが済み、ワープゲートが消えたのを確かめたミランダは、優志の耳元に飛んでいき、小声で伝えた。


『あのね、今はまだ夢の世界と現実世界の時間はズレてるけど、だんだん同じ時間の進み方になってきてるの。どんどん夢と現実が1つになろうとしてるからよ』

「分かりました。また何かあったら教えてください、ミランダさん」

『あ、あとね! 夢の世界で一晩寝て起きたら現実世界に戻ってた、みたいなことは多分もう無いと思うわ。これも夢と現実が1つになってきてるからなんだけど……。まあもし起きてから現実世界に戻ってたら、またあたしを呼んで。……まだ何が起こるか分からない。くれぐれも気をつけてね!』

「はい! ありがとうございます!」


 宿屋の扉を開けようとした時、『あ、ごめん優志くん! あと1つ、ゴマくんたちに伝言!』とミランダの声が優志の耳に入った。


『ゴマくんたちが人間になってる間は、人間の食べ物を食べても平気だから!』

「ネギとかチョコレートなんかも食べられる……ということでしょうか?」

『うん! もし食べた後に時は、食べたものはお腹の中で消えてなくなっちゃうから安心して。じゃあね!』

「分かりました。伝えておきます」


 再び宿屋の扉を開けると、猫月たちはすでに2階の部屋に移動していた。

 優志も、靴を脱いで階段へ向かおうとする。

 その時——。


「おーい、飛田く……勇者ミオン!」


 2階から姿を見せたのは、僧侶リュカ——稲村誠司であった。


「いなちゃ……リュカ! やっぱり来てたのか!」

「やっと来たか! 何やら賑やかになったじゃないか。さあ、早く部屋に来い。トランプでもして遊ぼうじゃないか。サラーちゃんがいないのは残念だが、今夜は飲みながら新しい仲間と、パーッと盛り上がろうぜぃ!」

「か……勘弁してよ、いなちゃん。あ、リュカ……。私は疲れてるんだよ……」


 すでに軽く出来上がっていたリュカに手を引かれ、優志は猫月たちがすでに大富豪で盛り上がっている大部屋に入った。

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