15.サーシャ、アルス王子と出会う


 その頃。

 魔王軍三幹部で唯一生き残った、魔王ゴディーヴァの娘サーシャは——。


「ここが、双子山……ですわね。思っていたより高い山ですわね」


 魔王ゴディーヴァの命令通り、【双子山】から湧き出す【生命の水】を奪いに、山のふもとまで来ていた。

 深夜であり、明かりもなく周りは真っ暗である。


 サーシャは、何度も夢に見た自身の悲惨な運命を変えるべく奮闘していたが、その自分勝手な行動ゆえ、魔王軍を内部から分裂させる結果となってしまった。

 だが運命通りに事が運べば、魔王軍三幹部のヴィット、サクビー、サーシャは同時に優志=勇者ミオンのパーティーと戦い、三幹部は全員そこで死ぬことになっていたのである。

 

 魔王ゴディーヴァに事情を正直に話したサーシャは、ゴディーヴァに命じられ、ヴィット、サクビーと別行動を取ることとなったのである。

 その結果、ヴィットとサクビーは死んでしまったがサーシャは生き残り、運命を変えることに成功したのである。


 魔王ゴディーヴァはサーシャに、こう伝えたのだった——。


「オトヨーク島の東部にある双子山——【アタゴ山】と【ヒエイ山】から湧き出す【生命の水】を奪える限り奪って来るのだ。【生命の巨塔】の破壊は成功し、パン=デ=ミールの力でオトヨーク島の民の大半は病に侵された。だが、島に生命の水がある限り、病が治る機会を与えてしまう。その機会を、根こそぎ奪い去るのだ」


 サーシャは、鬱蒼と茂る双子山の麓の森の中で、簡易テントを張って、ひと休みしていた。

 木々の隙間からは、赤く光る大きな三日月が見える。

 人に見つかってはいけないので、焚き火をするわけにもいかない。サーシャは、真っ暗な森を抜き足差し足で歩き、周りに人がいないかを確かめる。


「……あら?」


 魔物の悲鳴と、剣戟の音。

 深夜に山道で、魔物と戦っている者がいる。

 サーシャは足音を立てないよう近づき、太い木の幹に隠れながら、その様子を見た。

 サーシャの目に入った、魔物と戦っている者の正体は、サーシャがずっと追いかけていた男——【アルス王子】であった。


 青いマントを翻しながら、1メートルほどの体長を持つ蛇の魔物“ナーガ”と戦っている。

 剣を振るたび、ふわふわとした茶色い髪が揺れる。


「我が愛しのダーリン……アルス様! こんな所でお会いできるだなんて、ラッキーですわ!」


 思わず声を出してしまい、一瞬振り向くアルス王子。

 サーシャは「はっ! いけませんわ!」と小声で言うとすぐに木の陰に身を隠した。


 翌々日開催の【天下一武術大会】に出場することを決めている、アルス王子。

 じっとしていられぬ性格で、父であるリベル王の承諾も得ずに王城を飛び出し、道中1人で魔物を倒し、天下一武術大会が開催される街【ウキョー】へと向かった。

 早々とウキョーに到着したアルス王子はやはりじっとしておれず、近くのアタゴ山を探索していたのである。


「アルス様……いつまでもあなたのお姿を見ていたいですわ……。ああ、しかしワタクシには大事なお仕事が……面倒ですわ。暗いうちに、山頂まで行かねばなりません」


 サーシャは、木々の隙間から魔物と戦うアルス王子の方を何度も振り向きながら、アタゴ山の山道を登って行くのだった。


 だが。

 サーシャがアタゴ山へ向かうところは——既に見られていたのである。


「いた。あいつだね。僕が攻撃を仕掛けるから、君はサポートお願いね」

「ふん、分かってるわよ。私を誰だと思ってるの」


 長い黒髪のサイドテール、セーラー服と膝上まで上げたスカートを身につけた美少女。

 金髪ツインテールにオレンジ色のワンピース姿の美少女。

 謎の美少女2人組は、息を潜めながらサーシャの後を追っていた——。


————


※ お読みいただき、ありがとうございます。

謎の美少女たちは一体何者なのか——?

優志たちはアルス王子を無事に仲間にできるのか——?

楽しんでいただけましたら、

★評価、フォローをお願い致します。



【次週予告】


☆「あの……静かにしてください」

ドタバタなパーティーに、ついに優志がキレた!?


☆ 「ラデクくん、カセットコンロが、この世界にあるんですか?」

「お母さんが、モヤマで買ってきたんだって。最近できたってとこって言ってた」

 夢の世界に、家電量販店——?


☆突如現れた大型武器量販店で装備を整えた優志たちは、天下一武術大会が開かれるウキョーへと向かうべく、灼熱の砂丘地帯を越える——。


16.優志、大敗

17.ドタバタな朝

18.改めて、魔王討伐の旅へ

19.武器マーケット

20.砂丘地帯へ


どうぞ、お楽しみに!

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