16.優志、大敗


「よぉし、また俺の勝ちだ!」

「ぬああ……! 誠司のオッサン、強えな!」


 ラデクの実家の宿屋。

 大部屋では、優志=勇者ミオン、稲村誠司=僧侶リュカ、猫月ごま、暁月スピカ、蒼天ソアラが、大富豪で盛り上がっていた。

 ちなみにラデクは、別室で早々と寝てしまっていた。


「ゴマ、俺のことはリュカと呼びな! ってか、俺ん家の猫がまさか人間になって喋ってただなんて、さすがは夢の世界だな! いい名前だな、猫月ごまくん! ハハハ!」

「ビックリしたのはこっちもだぜ。こんなとこで誠司のオッサ……いや、リュカか。あんたと会えるとは思わなかったぞ。愛美姉ちゃんは元気なのか?」

「グビグビ……プハァーッ! ああ、最近はずっと家でオンライン授業受けてるな。新型ウイルスとやらが流行ってるからな」


 大富豪、富豪となったリュカと猫月が盛り上がる中、暁月、蒼天、優志ミオンは床に並べられたトランプを睨みながら真剣勝負をしている。

 程なくして、暁月の手札が無くなり、あがり。平民となる。ターンは巡り、蒼天が「クソー!」と言って手札を叩きつけ、あがり。貧民に終わる。

 ということは——。


「また負けました……。も、もう一回やりましょう! このままじゃ終われません……」


 優志、大貧民。しかも3回勝負中、3回ともである。

 腕をジタバタさせて悔しがる優志だったが、「明日は朝早くから出発なんだ、そろそろ休まなきゃな! ワハハハ」と顔を赤くしたリュカに言われてしまう。同意した暁月がトランプを片付け始めた。


「いなちゃん……勝ち逃げなんてずるいですよ……」

「ゲフゥッ! じゃあ寝る支度だー!」


 暁月は別室に移動し、リュカ、猫月、蒼天は用意されていた寝間着に着替え始める。

 優志は不満感を抑え、そろそろと着替え始めた。


 優志たちがベッドに横になったのを確かめたリュカは、ランプの灯りを消した。


「天下一武術大会なんて、オレのためにあるようなもんだな! 気合い入ってきたぜー!」


 蒼天は天井を見つめながら、声を上げる。


「ソアラ、まだ早えぜ。今から気合い入れてたら眠れねえだろ」

「なあゴマ、いつになったらオレのこと、相棒と呼んでくれるんだ!?」

「うるせえ、さっさと寝ろ! 10年早えっつってんだよ!」

「あの……静かにしてください。私の方が眠れません」


 珍しく怒りを露わにする優志。大富豪で負けて、やや機嫌が悪いのである。


「「す、すまねえ」」


 冷静にキレる勇者の言葉に、猫月と蒼天は気圧けおされてしまった。その後2人はすぐに眠りについた。

 だが入れ替わるように、リュカのイビキがボリュームアップする。


「グォォォオオオオオオン……グガァアアアアア」


(まるで魔物じゃないですか……ああ、私を安眠させてください!)


 優志、大ピンチである。

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