12.始まりの村、コハータ村へ


「アルスさん、どんな人なんだろうー! ってかこの世界、ほんとに別世界みたい! 夢の中なんだもんね! 色んなとこ行きたいなー!」

「愛音、落ち着きなさいよ。遊びに来てるんじゃないんだから。……でも、まるでゲームの世界にいるみたいで、ちょっと楽しいかも」


 ニジョー城下町の中で、悠木ははしゃぎ回り、雪白も物珍しげに街中を見て回る。


「ふぁー、よく寝たみゅー。久しぶりにオトヨーク島の空気だみゅー!」

「何か色々と懐かしいぴのね……」


 ひょっこりと、悠木と雪白のバッグから顔を出すミューズ、ピノ。


 その近くでは、猫月が相も変わらず暴走し、暁月と蒼天に止められている。

 そんなグダグダパーティーをまとめ上げなければならない優志。


「皆さん、あの……!」


 優志が呼びかけても、振り向いたのは雪白と蒼天だけ。

 雪白がパンパンと手を打って初めて、ようやく全員が優志の方に向き直る始末である。


「あの……、ウキョーに向かう前に、一度【コハータ村】へ戻ろうと思うんです。ラデクくん、サラーさん、そしてもし居たらいなちゃ……いや、僧侶リュカも迎えてからウキョーに行こうかと……」


 優志は提案したが、ここにいる優志以外の者は夢の世界グランアースに来るのは初めてである。なので、コハータ村が何処なのかも、ラデクとサラーとリュカが誰なのかも、分かるはずがない。

 猫月は首を傾げる。


「何言ってんのか分かんねえが、寄り道するってことか?」

「優志さんの仲間を迎えるってことやろ? ウチはええけど、そのコハータ村までは遠いん?」


 暁月に尋ねられると、優志は得意げに返事する。


「ミランダさんに頼むんですよ! ……出てきてください、ミランダさん!」


 すぐさま、虹色の光の中からミランダが現れる。ミランダは何を頼まれるかを察すると、優志たちに謝り始める。


『ごめんね。あたし、この世界のことはよく知らないの。今まであたしが行った場所なら確実にワープゲートを繋げられるけど、行ったことない場所は、ちゃんと繋げられないかも知れないの』


 それだけ伝えると、ミランダは再び虹色の光の中へと消えて行った。


「そ……そうですか。なら歩いて行くしかありませんね……」

「歩いて行くって、どんぐらいかかるんだ?」


 猫月はあからさまに不機嫌な顔をして、優志に尋ねる。

 優志は、以前にマーカスからもらったオトヨーク島の地図を鞄の底から出した。鞄の中の整理が出来ておらず、地図はぐしゃぐしゃになり、少し破れかかっている。


「その……結構距離があります。歩くと2時間ほどでしょうか。途中で魔物も出ますし……」

「おいふざけんじゃねえ! そんなことしてる間に魔王とやらに街が襲われたりしたらどーすんだ!」

「ええー、そんなに歩けないよおー」


 猫月は不満をぶちまけ、悠木も露骨に嫌な顔をして地面にへたり込む。

 優志は「うーん」と言いながら鞄の中を探っていると、何やら小さな玉がいくつか入っていることに気付く。


「こ、これは。確か、【ワープゲートの素】です!」


 ワープゲートの素——地面に投げつけると玉が割れワープゲートが出現し、今まで行ったことのある街や村であれば、一瞬でワープできる便利アイテムである。

 優志はコハータ村に行ったことがあるので、これを使えば一瞬でコハータ村に行くことが出来る。


「皆さん! 歩く必要はなくなりました。……それっ! コハータ村に繋いでください!」


 優志はそう言って地面にワープゲートの素を投げると、玉がパカリと割れ、ミランダが出すものと同じような、虹色に輝くワープゲートが出現した。


「おおー、すげぇなそれ! それをくぐればコハータ村とやらに行けるんだな!?」

「ソアラくん、その通りです。じゃあ皆さん、ワープゲートに入ってください」


 優志たちはワープゲートに入り、虹色の光に包まれた。


 ♢


 光が晴れるとそこは、コハータ村の門の前であった。

 

「うわっ……! 眩しっ! ……あ、勇者ミオン様!」


 聞き覚えのある、しかし少し声変わりがして低くなった少年の声——ラデクの声が、優志の耳に入った。

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