11.アルス王子を追え!


 リベル王は優志勇者ミオンたちの緊張をほぐそうとしてか表情を緩ませ、言葉を続けた。


「最近、邪竜による流行り病で多くの人が倒れ、亡くなった……。じゃが、ある日を境に流行り病はピタリとおさまった。やはり、勇者ミオンが邪竜を倒したおかげだな?」

「あ……はい! 無事、邪竜は退治致しました……」

「おい優志! テメエだけでやった訳じゃねえだろ! なあジイさん、ボクも一緒に邪竜とやらを始末つぶしたんだぜ!」


 猫月は我慢できず、口を挟む。

 暁月と蒼天はすぐさま同時に手を出し、猫月の口を塞いだ。


相棒ゴマ! 王様に何て口聞くんだ!」

「さっきウチ、注意したばっかやのに!」

「もごもご……もがぁ!」


 だが、リベル王もカイ大臣もフフフッと声を出し笑っている。無礼な態度など、全く気にしていないようだった。


「見事。さすがは勇者ミオンじゃ。おかげでこの島も落ち着きを取り戻した。この調子で、魔王も倒してくれよ」

「は……はい! 精一杯働かせていただきます! 何なりとお申し付け下さいませ!」


 優志に色々とツッコミたい猫月、暁月、蒼天だったが、リベル王はそんな事は全く気にもせず、話題を変える。


「ところで、双子山の麓の町【ウキョー】で開催される【天下一武術大会】を知っておるか? 我が息子、【アルス】も出場するために、ウキョーへと旅に出たところじゃ。そこで頼みなんじゃが……」


 リベル王は、優志の前に歩み寄り王冠を右手で取ると、頭を下げつつ優志の目を見ながら言う。


「よければ、我が息子アルスも、勇者ミオンと共に旅をさせてやってはくれまいか?」

「アルスさん……あっ!」


 以前、優志が、繁華街モヤマの宿屋の食堂で見かけた——現実世界における男性アイドルグループ“ジョーカー&プリンセス”の【北村修司】似の、青いタキシードを身につけた人物。

 ラデクに、「あの人は王子アルス様だよ。オトヨーク島を治めるリベル王の御子息だよ」と教えてもらったことを思い出した。


 ちなみに北村修司は——悠木の最推しである。


「分かりました。私たちもちょうど、天下一武術大会……ですっけ……、それに出場しようと思っているんです。アルス様をお見かけしましたら、声を掛けさせていただきます」

「うむ、よろしく頼んだぞ。勇者ミオンよ、これを渡そう」


 リベル王はカイ大臣に何かを命じる。

 カイ大臣は、何やら魔法の呪文を唱えると、優志たちの目の前に、黄金色の光と共に宝箱が2つ出現した。


「リベル王様、これは……?」

「心ばかりの贈り物じゃ。旅に役立ててくれ」

「開けても……?」

「良いぞ」


 優志は宝箱を開けようとするが、さっきまで興味深そうに宝箱を見ていた猫月が優志を押し退け、宝箱をこじ開けた。


「うお! 金貨じゃねぇーか! なあジイさん、ボクにはマグロくれよ、マグロ!」

「「いい加減にしろー!!」」


 猫月は、暁月に口を塞がれ、蒼天に後ろから羽交い締めにされる。唖然とする悠木、興味なさげに圏外のスマホをいじる雪白。

 その様子を見てリベル王とカイ大臣は、またも笑みをこぼすのであった。


 金貨袋に入っているのは、100,000ゴールドである。


「リベル王様、ありがとうございます。こちらも開けさせていただきますね」


 もう1つの宝箱には、【上級薬草】が50枚、袋詰めになったものが入っていた。


 優志はリベル王からの贈り物を大切にしまうと、暴れる猫月を何とかなだめる。そして全員整列し、リベル王とカイ大臣に向かい深々とお辞儀をした。


「ありがとうございました! この勇者ミオン、必ず魔王ゴディーヴァを倒し、無事に帰ってきます!」

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