9.グダグダパーティー


 ニジョー城の城門に着いたところで、猫月はポケットから小さなカードのようなものを取り出す。


「……にゃんだこりゃ!? ニャイフォン15が元のサイズのままじゃねえか! ミランダ、サイズをデカくしてくれ!」


 猫月の隣に、光と共にミランダが現れる。


『それ、ここでも使うの? 多分、圏外になってると思うけど……一応、使えるサイズにするわね』


 ミランダの杖から虹色の光が放たれ、ニャイフォン15を包み込むと、ニャイフォン15は一般的なスマホと同じ大きさになった。

 それを確認したミランダは、すぐに姿を消した。


「っしゃ。IZENAGで急遽ゲリラ配信だ。“夢の世界からこんゴマ”ってタイトルでいいかな……って、バカな! 電波が無え!」

「あんたなあ、こんなとこ来てまで何してんねんな」

「いいじゃねえかスピカ! 今は初見さんにいっぱいフォローしてもらいてえんだよ! ……どっか、電波ある場所ねえかな」

「何か、電波どころか電気すら使われてなさそうな世界やで、ここ」


 露骨に残念そうな顔をし、俯く猫月。

 優志は慰めようとし、声をかける。


「私もゴマくんの配信見ましたが、楽しかったですよ。まだこれからなんですから、焦らなくても大丈夫ですよ」

「ん? 優志お前、ボクの枠に来てたのかよ。いつ来てたんだ? 何て名前で来てた?」

「いやその……“あ”っていう名前です……」


 猫月は数秒考え込むと、ハッとして優志の方へ振り向く。


「“あ”ってアイツか! ボクが喋ってる時に全然関係ねえ話題で自語りばっかしてた奴! あのな優志、覚えとけ! 枠ん中ではなぁ、枠主が主役なんだよ! 枠主の話題に沿ったコメントするのがマナーだ! ってかその前に、名前とプロフ画像ちゃんと登録しろ! 何だよ“あ”って! 危うくブロックしちまうとこだったんだぞ!」

「……す、すみません。まだ今ひとつIZENAGのルールが分かってなくて……」


 捲し立てる猫月の頬っぺたを、猫月の彼女である暁月スピカがグイーッと引っ張る。


「ゴマ、あんたなぁ! 来てもろてるんなからお礼くらいは言うたらどうなん!? それに立ち絵依頼料の10,000ミャオン、まだ払ってもろてへんねんけど!?」

「いてて……ああ、それはそうだな。言いすぎた、すまねえ優志。来てくれてありがとな。スピカ、立ち絵代はまた今度払うから勘弁してくれ! ってか彼氏からもカネ取るんだな!」

「当たり前や! 彼氏やからとか友達やからタダでやってみたいなんはお断りやって、最初に言うたやん?」


 城門の前でいつまでもグダグダと話している猫月たちの後ろで、悠木と雪白は退屈そうにしていた。

 夢の世界では、スマホも当然圏外である。スマホ中毒である雪白は圏外であることを忘れ、癖のように何度もスマホを見てはポケットにしまっていた。

 蒼天ソアラは茶色い髪を風になびかせながら、悠木と雪白に声をかける。


「悪りーな、相棒ゴマの奴、いっつもあんな感じで周りを巻き込んじまうんだ! お前らも文句あったらガツンと言ってやれ!」


 雪白はスマホに繋げたイヤホンで、ダウンロードした音楽を聴いており、ソアラに声をかけられたことに気付いていない。

 そして、悠木は——。


「いーなー! 私もライバーやろっかな! でもVじゃなくて普通に顔出しで! さっそくアプリさがそー……って圏外じゃん!!」


 全然、蒼天の話を聞いていなかった。


「だぁー! お前ら、相棒ゴマ以上に人の話聞かねぇーな! このメンツ、先が思いやられるぜ……! おいお前らみんな! 何やってんださっきから! 時間が無えんじゃなかったのかよ!? さっさと城ん中行くぞ!!」


 蒼天の一喝で、優志たちはハッとする。

 優志たちはようやく、ニジョー城門をくぐったのであった。

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