64.獅子奮迅
(ヴィットとサクビーを倒すと、邪竜パン=デ=ミールのバリアが消えます。私はその瞬間を狙います。信じていますよ、ゴマくん、ソアラくん——)
邪竜パン=デ=ミールは、脈打つエメラルドグリーンの
巨大砂時計の深緑色に染まった砂は、少しずつ少しずつ落ちていく——。
(ゴマくん……!)
互角の強さでぶつかり合う、神の祝福を受けし
互いに決め手がなく、勝負は一進一退だ。
凄まじい攻撃の応酬により、周囲の地面はクレーターまみれと化している。
「ハア、ハア……。諦めやがれニセモノ! テメエにはボクを倒せねえ!」
「いや……別に貴様を倒せなくても良いのだ。貴様らがパン=デ=ミールを攻撃出来ぬよう、足止めさえできれば良い。……あの砂時計の砂が落ち切るまでな」
「何だと……!?」
巨大砂時計の上部にある砂の残りは、もう僅かだった。
「砂時計の砂が落ち切ったその時……新型ウイルスは最凶の変異株となり、この場にいる魔族以外の者に即座に感染するだろう。そうすればゴマ……貴様も、貴様らの仲間も、そして勇者ミオンも……そこで死ぬのだ! クッフフフ……! クハハハハァッ!!」
——それでも、信じるしかない。
ゴマくんなら、必ずやってくれる。
飛田は視線の方向を変えた。その先では、熱き思いを持ったライバル同士が、戦いの火花を散らしていた。
「はぁ、はぁ……! サクビー……! オレは絶対、お前を倒す!」
「ソアラ……! 残された時間は後少しだビー……。ヘンテコなウイルスなんかに、お前は殺させないビー! お前を殺すのは! この、僕ちゃんだビー! 絶対、ここで決めてやるビー!」
「やってみやがれッッ! ……うおおおおーーーーッッ!!」
「行くビー! ウオオアアーーーーッッ!!」
ソアラの拳と蹴りによる猛攻。だが、全ての攻撃はサクビーの左手にある“クリスタルボウル”により防御され続ける。
一方サクビーも、すばしっこく走り回るソアラに鋼鉄の右拳を当てることができず、防戦一方だ。
そうこうしている間に、砂時計の残りの砂が、後僅かになってしまっていた。
「59、58、57——」
邪竜パン=デ=ミールは、飛行を続けながらカウントダウンを始めた——。
♠︎♤♠︎♤
「45、44、43、42——」
「鎧野郎、甘いぜ。ボクにはまだ……」
ゴマはヴィットから距離を置くと、ニヤリと笑った。
「切り札があるんだ」
「何……?」
ゴマは、腰のベルトの前部にある円形のバックルに、右前脚で触れた。バックルがギラリと輝きを放つ。
「……この光は一体……? 何をする気だ!」
あまりの眩しさに目を隠そうとするヴィットをゴマは睨みつけながら、サッと1枚の銀色に輝くメダルを取り出した。そして、バックルにメダルを装着。
ゴマが青白い光に包まれ始めた。ゆっくりと両前脚を回すように、ポーズを取る。
「“トランスフォーメーション”」
青白い光は、メカニックな兜、アーマー、ウィング、シールド、ブーツに変形し、装着されていく——。
星猫戦隊コスモレンジャーの仲間たちにも知らせていない、ゴマの切り札。
ゴマはグルルと、喉を鳴らした。超星機神グランガイアに避難しているソールたちも、驚きながら見ているに違いない——。
「見たか。【ゴマ
ゴマは、猫耳のついた
「31、30——」
邪竜の禍々しい声による、カウントダウンが響く。
残り、30秒を切った——。
♣︎♧♣︎♧
「29、28、27——」
サクビーが、僅かな隙を見せる。
(今だ——!)
ソアラは右拳に、空色に輝くエネルギーを溜めながら大きく跳び上がり、サクビーに狙いを定めた。
歯を食いしばったサクビーが、“クリスタルボウル”を構え、その下に隠れた。
「“300万馬力・猫パァーンチ”!!」
防御の隙を与えてしまった。だがアンタレス師匠の元で鍛えた必殺の剛拳で、今度こそ“クリスタルボウル”を打ち砕いてやる——!
ソアラは迷わず躊躇わず、拳を唸らせ突っ込んで行った。
「フン! その技は見切ってるビー!!」
鈍い音が荒野に響き渡った。
やはり、“300万馬力・猫パンチ”は、“クリスタルボウル”にしっかりと受け止められ、完全に防御されてしまったのだ。
咄嗟に、鋼鉄の右拳を構えるサクビー——。
「24、23、22——」
「これで僕ちゃんの勝ちだビー! 【ハイカカオ・ボンバーナックル】!! ……ん!?」
——が。
間髪入れずソアラが繰り出したのは、オレンジ色に輝く左パンチ——。
「!? そんな……ガハアッ!?」
粉々に破砕される“クリスタルボウル”。
ソアラは、その勢いのままサクビーに突っ込み、オレンジ色に燃え盛る300万馬力の左拳でサクビーの体を貫き、打ち砕く。
「さらば——!」
「グワアアア……あ……あの世で……待ってるビー! 絶対……リベンジしてやるビー! グフゥッ!!」
「——
サクビーを粉塵へと変えたソアラは、拳を構えながら荒野に立った。
ソアラの後ろで、
♢♦︎♢♦︎
「19、18、17——」
「よし、やりました! 後はヴィットだけです、ゴマくん……!」
飛田はゴマを信じながら、飛び回る邪竜に狙いを定め、じっとしていた。
変身したゴマ——“ゴマWWW-CT50-3194”は、さらに強化された攻撃で、絶え間なく剣技を繰り出す。
「クッ……おのれ!」
ヴィットは、ゴマWWW(略称)の攻撃をかわすので精一杯のようだ。
魔のオーブ“ソティーン”の力でも、ゴマWWWの姿を真似ることまでは出来ないようだ。
だがそれでもヴィットは、簡単には負けなさそうだ。
「15、14——」
もう、時間が無い。
鼓動が段々と速くなる。
(ゴマくん……! 早く——)
額から背中から、汗が滝のように流れ出る。
「クフフフ! 当てずっぽうか! 変身したところで、先程と変わらぬではないか! このままカウントダウンが終わるまで、耐え忍んでやろう!」
「ぬおおああああーー!!」
その時だ。
半ばヤケクソに見えるゴマWWWの剣技が、たまたま近くにあった大岩を砕いた。
すると岩の破片が、ヴィットの腰に装着されていた“ソティーン”を貫く——。
「何……馬鹿な!」
粉々に破壊される“ソティーン”——。
ヴィットの変身が解けてしまい、元のヴィットの姿へと戻った。
「へ……へっ! 運の良さも、最強の勇者にとっちゃあ大事な要素なんだぜ!」
そう言うゴマは装備をガチャガチャいわせていて、落ち着きのない様子だ。さすがのゴマも焦っているのだろう。
「お……のれ……」
「さあ、行くぜ!! “魔剣ニャインライヴ”!!」
ヴィットを倒すチャンスだ。
遠くから、微かに声援が聞こえる。
超星機神グランガイアからだ。
「よし! このまま決めるんだ、ゴマくん!」
「ゴマぁ! やっぱお前は最強だ!!」
「信じていますよ、ゴマ」
「チャンスやでー! やったりやー!」
残り、あと10秒——。
「9、8——」
「ゴマァァァァ……! ヌォォォアアアーーーー!!」
“魔剣ザルツ・ブルガー”を振り翳し、ゴマに向かっていくヴィット。
「ウォォアアアアーーーー!!」
“魔剣ニャインライヴ”を振り上げ、ヴィットに向かっていくゴマWWW。
「7、6——」
「【ギガ・ダークブレイク】!」
当然、ゴマWWWの一撃の方が速かった。
ヴィットは咄嗟に“魔剣ザルツ・ブルガー”を横向けに構え、ゴマWWWの渾身の斬撃を防ごうとした。が、魔剣ザルツ・ブルガーは真っ二つに折られてしまい——“ギガ・ダークブレイク”がヴィットの身体に直撃。
「ああああああああ!! 魔王ゴディーヴァ様ァァァァッ——!! グフゥ!!」
ヴィットは火花を散らしながらその身体を崩壊させ、火柱を上げながら爆散、死亡した。
飛田は間髪入れず、渾身の大声を荒野に響かせた。
「邪竜のバリアが消えました! ゴマくん、ソアラくん、早く私の元へ!」
「「おうよ!」」
ゴマWWWがガシャガシャと足音を鳴らし、駆け付けてきた。
ソアラも猛然とダッシュし、向かって来る。
残り4秒——。
「“
飛田が叫ぶと、超星機神グランガイアの全身からエメラルドグリーンの光線が放たれ、飛田たちの元へと向かって来た。
獅子の剣、獅子の鎧、獅子の兜、獅子の盾が輝きを放ち、エネルギーを溜め始める。
「3、2——」
飛田のもとに到着したゴマとソアラは、飛田を挟んで左右にしゃがみ込む。
飛田、ゴマ、ソアラがエメラルドグリーンの光に包まれた刹那、光は太陽のような眩しさを放ちながら大きく破裂。
飛田、ゴマ、ソアラは、1つの翠色に輝く光の弾丸となって飛び立った。そして流星の如く、邪竜の胸部目掛けて飛んで行く——!
「【
「1——グブォオアア!?」
流星は、邪竜パン=デ=ミールの胴体を貫通した。
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