65.新型ウイルス感染症
腹部を貫かれた邪竜パン=デ=ミールは、失速し、雷鳴の如き地響きを立てながら激しい土煙を上げ、荒野へと墜落した。
同時に、緑色の砂時計も消滅。
「終わった……のでしょうか」
ゴマ、ソアラと共に着地した
ゴマとソアラは、声のトーンを上げる。
「ああ、ボクらの勝利だぜ! 言ってる間に死ぬだろ、あのドラゴン」
「やったぜ! オレたち、とうとう勝ったんだな!」
ニャーニャーと歓声を上げるゴマとソアラを他所に飛田は、苦しげに深緑色の血反吐を吐く邪竜パン=デ=ミールの様子を見ていた。
何かを、訴えかけているように見える。
邪竜の周囲にあった禍々しいオーラは消えていた。
「みゅー! もう大丈夫だみゅ! この辺りのウイルスは全部死滅したみゅー!」
遠くから、ミューズの声が聞こえてくる。
大破した超星機神グランガイアの中からソールたちが出てきて、邪竜パン=デ=ミールの元へと駆けて行った。
「ゴマくん、ソアラくん。私たちも行きましょう」
飛田たちも、ソールたちと合流する。
悠木と雪白も、怪我などはしていないようだ。飛田はホッとして、彼女たちに小さく手を振る。
「飛田さーん! カッコよかったよ——」
「シッ、愛音」
雪白が、大声を上げる悠木を静かにさせる。
耳を澄ませると、地面に横たわった巨竜の口から、重く低い声が放たれていた。
「……我は、何ということをしてしまったのだ。邪悪なる意思に操られ、滅びの種を世界に撒いてしまっ……たの……か」
星猫戦隊の面々は何も言わず、苦しげに声を絞り出す巨竜を、ただじっと見ていた。
邪悪な意思から解放されたパン=デ=ミールは、今にも力尽きてしまいそうだ。
「ガイアドラゴン……。
最後の力を振り絞っているのだろうか。
パン=デ=ミールは震えながら、自身を纏う消えかかった薄緑色のオーラを、流し込むように放った。
放たれたオーラは、大破した超星機神グランガイアへ流れ込んで行く。
直後、パン=デ=ミールはドスンと頭部を大地に落とし、大きな羽も力なく閉じられた。
「パン=デ=ミール!!」
ソールが叫んだ直後、超星機神グランガイアの方から眩い光が放たれ始めた。
「パン=デ=ミール……。正気ヲ取リ戻シタカ」
超星機神グランガイアの声だ——。
振り向いた飛田の目に入ったのは、切断された首が完全に修復され、粉々に砕かれたパーツも全て元に戻り復活した、超星機神グランガイアの姿だった。
「……ガイアドラゴン……。我は神に
「分カッテイル。次ナル代ノ者ニ託シ、世界ヲ立テ直ソウ。サラバ、同胞ヨ」
超星機神グランガイアは、自身を構成する全ての砲身を、地に伏せ動かなくなったパン=デ=ミールに向けた。
「待ってくれ、グランガイア! 折角、パン=デ=ミールが正気を取り戻したのに!」
「せや! 反省してるんやし、殺さんでもええんちゃう!? 操られてただけやろ!?」
ソールたちが超星機神グランガイアを止めようと、声を上げる。
飛田はすかさず超星機神グランガイアの方へ走り出し、訴えかけた。
「そんな、やり直せるならやり直しましょうよ!」
「
「オレ……! 見てらんねえ!!」
ゴマに止められている間に、無数の砲撃音が荒野に響き渡った——。
超星機神グランガイアの全ての砲台から容赦なく放たれた、流星群の如きレーザーや弾丸の数々——。
それらは瞬く間に、パン=デ=ミールの全身を穿った。
「「パン=デ=ミールーッッ……!!」」
白い光の中に、崩れ行く竜の影。
残ったのは、骨の欠片も残らぬほどに大きく抉られた地面と、立ち昇る白煙。
——と、割れた大きな卵だった。
「あれは卵ですか……? あ! 中で何か動いてます!」
「あ、待つんだ優志くん!」
ソールの制止を振り切り、飛田は卵の方へと駆け寄る。
割れた卵の中にいたのは——。
黄緑色の体色の、小さな羽が生えた、竜の赤ちゃんの姿。元気に身体を動かしていた。
「邪念ハ滅ベド、新型ウイルスハ更ニ力ヲ増シ、猛威ヲ振ルイ続ケルダロウ。次ナル使命ヲ持ツ竜ノ子ヨ……。次コソハ、新シキ平穏ナ世界ヲ創ルノダ」
荒野に、「ミューイ!」と、可愛らしい鳴き声が響き渡った。
「【ミール】……という名はどうでしょう」
「ミュイッ!」
「お、気に入ったみたいだぞ。優志くん」
パン=デ=ミールが遺した卵から生まれた、小さな小さなドラゴン。
竜の子“ミール”は、飛田の掌の中で元気に動き回っている。生まれたばかりだが、ずしりと重い。
「でもソールさん、どうしましょう……。親はもういないですから、誰かが代わりに育てなければいけませんね」
「なら、僕が預かろう!」
ソールが言うと、ミールは「ピュイ!」と嬉しそうに鳴き声を上げた。
ミールをソールに預けた飛田は、戦場となった荒野を見渡す。しみじみと戦いの終わりを噛み締めていた時、ゴマとソアラが、地面に黒く焦げついた2つの痕跡の方へと駆けて行った。
「臭っせ! コイツらも、チョコレートだったようだな」
ついて行くと、その黒い焦げつきは、ヴィットとサクビーが倒された痕跡のようだった。
そこからは、ほんのりと甘く苦い匂いが漂っていた。
「サクビー……お前は強かった! お前は敵だったが、お前のおかげでオレは本当の強さを知ることができたんだ! じゃあな、サクビー……!」
ソアラはしみじみと、黒い痕跡に向かい言葉をかけていた。
だが飛田には、その痕跡から漂う甘い匂いにどこか覚えがあり——。
「……これは有名ブランドの高級チョコの匂いです。勿体ないですね……。こっちはビスケットの匂いもしますね。値段にしたら数千円はするでしょう」
飛田は、匂いによる利きチョコを始めてしまった——。
パン=デ=ミールの最後の力により超星機神グランガイアは復活を果たしたものの、エンジンなどの故障までは直すことは出来なかったらしい。そのため超星機神グランガイアは、【プルート】という名のニャンバラに住む科学者に預けることになった。
超星機神グランガイアが完全に直り次第、星猫戦隊コスモレンジャーは活動を再開する方針となった。
風が吹き荒ぶ荒野の真ん中で、飛田たちは円になるように並んだ。
飛田は全員に尋ねる。
「とりあえず、世界のピンチは救えたということでよろしいでしょうか……?」
「ああ。みんなよく頑張ってくれた。こんな場所だが、少しだけ勝利のお祝いしようじゃないか」
ソールの言葉で、全員の緊張が緩む。
「ばんざーい! ばんざーい!」
「「「にゃあおおおーー!!」」」
パン=デ=ミールの邪念が消えても、新型ウイルス感染症は続くと、超星機神グランガイアは言っていた。
まだまだ問題は山積みだが、飛田は仲間たちと共に、束の間の勝利の喜びに浸った。
飛田はミランダに頼み、ワープゲートで悠木と雪白を無事に家へと帰した。
次に、マイルスから貰った重たい“獅子の剣”などの装備を、ミランダに頼んでアパートの自室へと送り届けてもらった。
そして今度はワープゲートの行き先を“ねずみの世界”に設定してもらい、飛田は虹色の光の渦に飛び込んだ。
ねずみの医師ハールヤの医院——“
受付に顔を出していたハールヤに、飛田は話しかけた。
「ハールヤさん、お久しぶりです。玉城さんはどんな様子ですか?」
「おや、飛田様、お久しぶりです。玉城様は、そこの待合室におられますよ。ちょうど退院手続きが終わったところです」
「……え!? ひ、人違いでは……?」
飛田の目に映ったのは、すっかりスリムになってしまった玉城だった。
見違える、などというレベルではない。
婚約者である塚腰は、ニコニコ笑いながら玉城の汗を拭っている。
そして、玉城たちの隣に座っていたのは、これまた見違えるほどに毛並みが綺麗になった、不摂生若者猫のダスティだ。
「……いやー、玉城っち、あんたもすっかり痩せたねー! 俺っちももーすぐ退院だー。一緒にジョギングしたりして楽しかったな!」
飛田は改めて、ハールヤの名医っぷりを知ることとなった。
玉城と塚腰を迎えた飛田は、
その後、飛田は玉城と塚腰も連れ、チップたち9匹のねずみの家族の住むコナラの家に顔を出した。勝利の報告をすると共に、玉城と塚腰も一緒に、ねずみたちが作る美味しい料理——人間も食べられる手作りのヘルシーな料理——を味わった。
そしてミランダを呼び、ようやく元の世界へと帰ったのだった。玉城と塚腰も無事、家へと帰っていった。
(さて、私も部屋へと帰りますか。しばらく、のんびりしましょう)
アパートに到着し、慣れた手つきで鍵を開け、扉を開く。キイと扉の音が鳴ると、埃臭く薄暗い部屋が、戦いを終えた飛田を迎えた。
電灯を点けた時に目に入ったのは、出発前に装備をぶつけて空けてしまった、床の穴——。
「ああああ……修理代が……折角のギャラがぁぁぁ……」
♢
〜STAGE2.Revenge.猫戦士たちと共に、新型ウイルスのパンデミックを阻止せよ〜——Cleared!
Next Stage——
〜STAGE3.天下一武術大会を制覇し、船を手に入れよ〜
————————
※ここまでお読みいただき、ありがとうございます。
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