63.ゴマくんが2匹!?
「だ……ダメ! 全然通じない……!」
「どうなってやがんだ! 何なんだあの変な球は!」
星猫戦隊コスモレンジャーのメンバーたち——スピカ、ポコ、デネブ、リゲル、フォボス、ダイモス、ライム——も続けて持ち技を放つが、やはり全てオレンジ色のオーラに跳ね返されてしまった。
ヴィットは魔剣ザルツ・ブルガーを一振りした。すると、天高く渦巻く竜巻が発生。唸り声のような風の音を上げながら、
「皆さん、伏せてくだ……うわああッ!」
想像を遥かに上回る、威力。
巨大な竜巻の直撃を受けた飛田たちは、遠く吹き飛ばされ、荒野に投げ出されてしまった。
「クッフフフ! 勇者ミオンめ! 貴様など、怖くはない!」
「……はぁ、はぁ……。強過ぎます。どうすればいいんですか……」
言っている間に、ヴィットは姿を消していた。
「……上ですか!」
ヴィットの姿は、空高くにあった。
「気をつけて! 来るよ!」
ヴィットは空中から、魔剣ザルツ・ブルガーを地面に向けて投げつけた。
荒野に突き刺さる魔剣。
瞬時に、波状の衝撃波が巻き起こり、広がり、飛田たちを襲った。
「「「うわああ……ッ!!」」」
その威力は、かつて戦ったノワル中尉の、爆発攻撃の比ではない——。
衝撃波に巻き込まれた星猫戦隊コスモレンジャーの殆どのメンバーは、またも転身が解けてしまった。
ピア・チェーレの2人も変身が解け、砂地に倒れ伏していた。
「……悠木さん! 雪白さん! しっかりしてください……!」
「う……飛田……さん……」
「……」
悠木と雪白は奇跡的にというべきか、擦り傷程度で済んでいた。
変身していたお陰で致命傷は免れたのだろうが、彼女たちが次にヴィットの攻撃を喰らうと——。
飛田の額に、冷たい汗が流れた。
「みんな、退避しろぉ!」
ソアラの叫びが聞こえた。ソアラは辛うじて、転身をキープしていた。
転身が解けたソールたちは続々と、大破した超星機神グランガイアの内部へと、避難していく。
「悠木さん、雪白さん。歩けますか……? 今はグランガイアの中へ急ぎましょう」
「うん……。飛田さんの役に立たずごめん……」
「愛音、仕方ないわよ。それよりも急ぎましょ」
悠木と雪白をどうにか避難させた飛田は、すぐにゴマとソアラの元へと駆けて行った。
マイルスから受け取った新たな装備により、飛田は大ダメージを免れた。
最強猫勇者のゴマは言うまでもなく無傷であり、ソアラも辛うじて転身を保っていたので、まだ戦闘続行可能である。
しかし、ヴィットとサクバーが持つオレンジ色の球体“ソティーン”の力はどれほどの物なのか分からない。油断は出来ない。
「
ソアラが呼びかけるが、ゴマは首を横に振った。
「ソアラ……。鎧野郎はボクだけで十分だ。テメエはテメエの勝負をしろ」
「……けどよ!」
飛田は思い出すのだった。
ゴマは、あの時の約束——ソアラとサクビーが交わした、男同士の決戦の誓いを、守ってもらいたいのだろう。
「ソアラ! 僕ちゃんと勝負しろ!」
「サクビー……!」
サクビーは、ソアラの真っ正面に立った。
自身の盾“クリスタルボウル”に装着していたはずの“ソティーン”を何故か外し、右手に握りしめている。
(……サクビーは敵ではありますが……。ここはソアラくんと……是非真剣勝負を……!)
飛田がそう考えていた時、ソアラはフッと笑い、視線をサクビーに向けた。
「サクビー! オレと勝負だ!」
「待っていたビー! 行くビー……!」
男と男の戦いの幕開けを見届けた飛田は、ゴマの元へと駆け出した。
「ゴマくん! 共に、ヴィットを撃破しましょう!」
ゴマと合流した飛田は、すかさずヴィットに狙いをつけた。
だが、その時だった。
ヴィットが声を上げる。
「サクビー! 先にゴマを潰せ! 勝手なことをするな!!」
鎧の音を響かせながら、ヴィットがサクビーの方へ向かって行く。
ヴィットは、男と男の戦いに——ソアラとサクビーの真剣勝負に、またも水を差そうとしている!
ゴマの舌打ちが聞こえた。
「鎧野郎が! 野暮なマネしてんじゃねぇーー!!」
ゴマが、ヴィットに斬りかかった時。大きな声が荒野に響き渡った。
「ヴィット! 邪魔するんじゃないビー! これは男と男の勝負なんだビー! ……こんなもの、要らないビー!」
サクビーは何と、右手に握っていた“ソティーン”を地面に投げつけたのだ。粉々に砕け散る“ソティーン”。
サクビーの周囲から、オレンジ色のオーラが消える。
ゴマのフッという笑い声が、飛田の耳に入った。
「僕ちゃんは正々堂々、ソアラと勝負するビー!」
「サクビー……貴様ァァッ!」
頭に血を昇らせたヴィットが、サクビーに襲い掛かろうとした時。
「うぐ……!?」
ゴマの一撃が、ヴィットの膝を捉えていた。たまらずヴィットは転倒する。
「ゲス鎧野郎。テメエの相手はボクだ」
「……こうなったら、一気に潰してやる。ゴマ、貴様に負けぬ秘策がある。見てろ」
ヴィットは震えながら立ち上がり、“ソティーン”を掲げる。
すると——。
「……な、何をする気ですか!」
「チッ。あの変な
ヴィットが、怪しげな黄色がかった煙に包まれていく。煙の中の影が、少しずつ変形する。
「……な、何してやがんだ鎧野郎!?」
黄色い煙が晴れた。
そこにいたのは——ゴマだった。
「ゴ、ゴマくん……? え、ええ!? ゴマくんが……2匹います!」
否。ゴマに変身したヴィットである。
白黒模様に、鋭い目つき。黒い鎧、青色のマント。刀身の長い剣。転身したゴマが、目の前に2匹。
飛田はうろたえたが、本物の方のゴマはヘラッとした表情を見せていた。
「まさかボクに変身するとはな。だが変身したところで、ボクには勝てねえよ!」
「クッフフ……。勝てるとも。これで俺は貴様と同じ強さを得た。だがそれだけではない……」
「だから何だってんだ! 喰らえッ! “ギガ・ダークブラスト”!!」
本物のゴマが繰り出した必殺技を、いとも容易く避けたもう1匹のゴマ。
「貴様は確かに強いが、頭は悪い。どれほど威力があれど、そんな当てずっぽうで俺が喰らう筈はない」
「クソッタレ! ならもう1発だ……!」
さらにゴマは追撃したが、やはりあっさりとかわされる。その後1秒も経たず、偽ゴマはゴマの持ち技、“ギガ・ダークブラスト”を放った。
「ぐああ! バカな!!」
「ゴマくん! しっかり!」
弾き飛ばされた本物のゴマは、悔しげに偽物を睨みつける。
「貴様と同じ強さで、頭は俺の方が良い……つまり、俺の方が強いということ……」
流石の最強猫勇者ゴマも、同じ強さの自分自身に攻撃されては、たまらないだろう。
今ここで、自分が何とかしなければならない。飛田は“獅子の剣”を構えたが、自身の身体が震えていることに気付いた。
(……流石に、ゴマくんと同じ強さの敵と戦うのは……。分が悪すぎます……!)
どうすべきなのだ。
ゴマが戦うのを、安全な場所から補助するのが良いのか。
考えていた時、少し離れた場所からソアラとサクビーの声が響いてきた。
「サクビー……勝負だ! 見てやがれ、修行してパワーアップしたオレを! うおおおおおーーッ!!」
「かかってくるビー! うぉぉおおーー!!」
残された時間も少ない。
ふと、飛田は空を見上げる。
どこかから、メッセージが聞こえたような気がしたのだ。
「仲間を、信じろ……ですか……! 分かりました!」
仲間を信じろ。
誰の声かは定かではないが、飛田はそのメッセージに従うことにした。
飛田は、クラウチングスタートの構えを取り、飛び回る邪竜パン=デ=ミールに狙いをつけた。
(ゴマくん、ソアラくん。頼みますよ。必ずヴィット、サクビーを倒し、邪竜パン=デ=ミールのバリアを打ち消して下さい! それが出来たら、あとは私が——)
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