生活習慣病治療中のおっさんは異世界で勇者となり、魔王を倒す旅に出る

６２．星猫戦隊復活、だが——。

　飛田（とびた）はヴィットとサクビーに向け、勇者の魔法“サンデー”を放とうと、“獅子の剣”を構えた。

　だがヴィットとサクビーは、まるで飛田を無視するかのように、視線を別の方向へと向けている。

「今までの俺だと思うなよ。ゴマ、貴様はここで潰す！」

　ヴィットは、禍々しく光る魔剣を抜いて構える。赤く光る眼が狙っているのは、飛田ではなく、ゴマだ。

　一方のサクビーもその場を動かず、じっとソアラの方だけを見ている。

「何をしている、サクビー。まずはゴマを潰せとの命令だったのを忘れたか！」

「……ソアラ……約束の勝負の時だビー！」

　サクビーはヴィットの声を無視し、ソアラの元へ駆け出した。

　だがソアラは首を横に振り、ゴマの隣に立つ。

「今大事なのは、オレの勝負より……みんなを守ることだ！」

　サクビーの足が止まった。

　ゴマの方に目を向けると、彼は満足げに頷いていた。

「おう、よく言ったソアラ。ボクはどうにか気合いで転身できているが、グランガイアが大破したせいで、お前もソールさんたちも、もう転身できねえ。ここはボクと優志（まさし）に任せて、まずはソールさんたちを避難させろ」

「分かったぜ！」

　駆け出したソアラに、飛田（とびた）は声をかけた。

「時間がありません。急いで避難するように伝えてください！」

「任せとけ！　優志ィ！」

　飛田は再び、“サンデー”を放つべく獅子の剣を構える。が、その時、ミューズの叫び声が後方から聞こえた。

「ダメみゅー！　ウイルスのパワーが強くなり過ぎて、“ミューズプロテクト”では防御しきれなくなりそうだみゅー！　急いであのドラゴンを止めなきゃ、ここで全滅だみゅー！」

　急がなければ、まずい。

　邪竜パン＝デ＝ミールを倒すには、まずはヴィットとサクビーを倒さねばならない。

「喰らいやがれ！！」

　轟音と共に、ゴマがヴィットに斬りかかる。

　飛田はすかさず獅子の剣を、サクビーに向けた。

　しかし、すぐに気付かれてしまう。

　サクビーはあの頑丈な盾、“クリスタルボウル”を構えながら声を上げた。

「ぼくちゃんの邪魔をするなビー、勇者ミオン！　ぼくちゃんは、ソアラと……！！」

　サクビーの目力に、飛田は思わず腕を下ろす。「ソアラと戦いたい」と、強く訴えかけてくるように感じられたのだ。

「みんな！　グランガイアの中に避難しろ！」

　そのソアラの必死の叫びが、飛田の耳に届いた。

　振り向いて見てみたが——。

「世界が救えるかどうかは、私たちにかかってる！　ね、フレンズ！」

「ああ、ラヴィング。何もしないでじっとしているわけにはいかない！」

　悠木（ピア・ラヴィング）、雪白（ピア・フレンズ）は恐れることなく、共に立ち向かおうとしてくれていた。

　それを目にした飛田は、考えるよりも先に口が動いていた。

「猫の皆さん……！　諦めないで下さい！　どんなにピンチでも、希望を持ち続ければ、道はきっと拓けます！！」

　強気の一言が、星猫戦隊たちに届く。

　超星機神グランガイアに避難しようとしていたソールたちは、飛田の方へと向き直った。

「……そうだな。我々はどんなピンチも乗り越えてきたんだ！　星猫戦隊コスモレンジャー、もう一度戦うぞ！　超星機神グランガイア！　頼む！　我々に力を……！」

　ソールが剣を掲げる。

　すると、大破した超星機神グランガイアに、７色に輝く光が集まっていく。それはまるで天上界の如き幻想的な光景のようで、飛田は言葉を失った。

　やがて虹色の煌めきは、１匹１匹の猫戦士たちを包み込んでいく。

「この光は……！　みんな、転身出来るぞ！　もう一度、転身だ！」

「おう！」

　再び転身を開始する、猫戦士たち——。

「太陽神の力を受けし聖騎士、ソール！」

「輝ける望月（もちづき）の大魔導、ムーン！」

「滾（たぎ）る熱情のソードマスター、マーズ！」

「命凍れる極寒（ごっかん）の上忍、マーキュリー！」

「美しき女神の祝福を受けしヒーラー、ヴィーナス！」

「愛に目覚めし暁光の勇者、スピカ！」

「大彗星の勇者、ポコ！」

「白熱の剣聖、デネブ」

「大海の大魔導士、リゲル」

「知恵のバトルマスター、フォボス！」

「力のバトルマスター、ダイモス！」

「業火の魔神猫、ライム」

　そしてソアラも笑みを浮かべ、転身した。

「……待たせたな相棒（ゴマ）！　不撓不屈（ふとうふくつ）の熱血武闘家、ソアラ！　行くぜ！！」

　飛田は再びヴィット、サクビーの方へと振り向き、獅子の剣を構えた。

　だがその時。

　ヴィットとサクビーはそれぞれ、何かを懐から取り出し、手の上に乗せた。

　それは、オレンジ色に輝く球体だった。

「これは魔王ゴディーヴァ様から賜った、魔のオーブ“ソティーン”だ。クフフフ……！　これで、貴様らもおしまいだ」

「こうなったら、一気に潰すしかないビー！」

　２つの“ソティーン”は、脈打つように赤橙色の輝きを放っている。

「な、何をする気ですか……！？」

「野郎、ソティーンだと？　何だ、そいつは？」

「気をつけろゴマ（相棒）！　嫌な気配を感じる！」

　ヴィットは、ソティーンを腰のベルトに装着した。サクビーは、ソティーンを自身の盾“クリスタルボウル”の中心部にはめ込んだ。

　すると、ヴィットとサクビーは共に赤橙色のオーラに包まれ、彼らの近くで激しい旋風が渦巻き始める。

「迷っている時間は無いぞ！　ムーン、マーズ、マーキュリー！　必殺技を放つんだ！　……【メロディ・オブ・クリサンサマム】！」

「【グレート・ブラックマジック】」

「【炎翼斬（フェニックスラッシュ）】！」

「【忍法・氷獄蝶（ひょうごくちょう）降臨】！」

　乱反射する太陽の如き閃光、流星のように降り注ぐ紫紺色の魔弾、不死鳥の如き炎の翼を剣に纏わせた一撃、瞬時に形作られた巨大な氷の蝶が放つ冷気——。

　それぞれの技が矢継ぎ早に、ヴィットとサクビーを襲う！

「このまま一気に行きます！　“サンデー”！　“エクスプロード”！！」

「「輝け！　愛と友情の力！　“フラタニティ・フラッシュ”！」」

　飛田の渾身の魔法と、ピア・チェーレの２人の技による追撃で、ヴィットとサクビーの周囲に凄まじい爆発が巻き起こった。

　地響きを上げながら、遥か彼方まで爆発音はこだました——。

　煙が晴れた。

　ヴィットとサクビーはオレンジ色のオーラに守られ、全くの無傷で立っていたのだ。

「そ、そんな……！」

　言葉を失う飛田たちを見たヴィットが、勝ち誇ったような笑い声を上げる。

「クッフフフフ！　そんなヘナチョコ技など、俺たちには効かん！　貴様らは、ここで死ぬのだ！　さあ、この“魔剣ザルツ・ブルガー”で、貴様らを葬ってくれる！！」

　“魔剣ザルツ・ブルガー”を構えたヴィットは、燃えるようなオーラを放ちながら攻撃態勢に入った。

　砂時計の残りの砂は、半分ほどとなっていた。砂が全部落ち切ってしまうと、新型ウイルスが、感染すると即死する変異種となってしまう——。