61.魔王ゴディーヴァの懐


「……サーシャは何をしようとしてたんだビー?」

「……サクビー、そんなことより時間が無い。魔王様から頂いたこのたまを信じるぞ。行くぞ!」

「分かったビー! 待ってろ、ソアラ!」


 扉の外から、ヴィットとサクビーの声が聞こえてくる。

 “弱体化魔法”が、魔将フランツによって阻止されてしまったので、ヴィットとサクビーは万全の状態でニャンバラへと出撃してしまった——。


 サーシャは魔将フランツに引き摺られ、魔王ゴディーヴァの前へと連行された。


「サーシャ。正直に申せ。何をしようとしていた?」


 穏やかな口調で、魔王ゴディーヴァが尋ねてくる。

 すぐ後ろでは魔将フランツが、大剣を構えていた。

 観念したサーシャは、本心をぼそりと口にした。


「……ワタクシは、運命を変えたいのです」

「運命?」

「ええ。ワタクシは何度も、この世界の運命を見て参りました。運命の流れに任せますと、ヴィット、サクビー、そしてワタクシが同時に勇者ミオンたちと戦った末……全員が殺されてしまうのです。なので、先にヴィット、サクビーに死んでもらうことで……運命の流れを変えようとしておりました。そうでもしなければ……。じきにお父様もまた、勇者に殺される運命でしたから」


 言った直後、激しい音と共に衝撃が全身に走った。


「きゃあっ!!」


 フランツが大剣を床に叩きつけたのだ。周囲に火柱が上がり、責めるように熱気が迫る。


「何を言うかサーシャ!」

「待て、フランツ」


 父、魔王ゴディーヴァの落ち着いた声が、後ろにいる魔将を跪かせる。

 揺らめく視界に、父の穏やかな表情が映った。


「サーシャ……ならばワシも力を貸そう。運命を変えねば、ワシが敗れ去るというのならば……」


 父は一切の感情の乱れを見せず、淡々と言葉を連ねた。


「サーシャ。お前はヴィット、サクビーとは別に行動し、オトヨーク島の東部にある双子山——【アタゴさん】と【ヒエイざん】へ向かうのだ。オトヨーク島に流通する“生命の水”は、主にアタゴ山とヒエイ山の頂上に湧き出し、そこで汲み取られている事が分かった。そこでお前は知恵と魔力を駆使し、湧き出す“生命の水”を、全て枯渇させてしまうのだ」

「……分かりましたわ。今度こそは、成功してみせますわ」

「“生命の巨塔”の破壊は成功し、さらにパン=デ=ミールの力でオトヨーク島の民の大半は病に侵された。だが、島に“生命の水”が存在する限り、病が治る機会を与えてしまう。お前の力で、島じゅうの“生命の水”を枯渇させ、病が治る機会を根こそぎ奪い去るのだ。やれるな?」

「……必ずや。お父様、お許しいただき、ありがとうございます」


 魔王城に、けたたましく雷鳴が響き渡る。


「陛下! このフランツめも、共に双子山へと向かいます!」

「……ワシを一人にするつもりか? フランツよ」

「陛下……! とんでもないことです! 私は……!」


 空気を読んだサーシャは俯きながら立ち上がり、魔王の間を後にした。

 そっと、巨大な扉を閉じる。


「もっと近う寄れ……その美しき顔を見せよ、フランツ……」


 父の儚げな声が扉に遮られ聞こえなくなると、サーシャは一目散に部屋へと駆け出した。

 父、魔王ゴディーヴァに、思いを話すことができた。そして理解を得られた。


(必ず、運命を変えてみせますわ……!)


 ♢♦︎♢♦︎


「……あ! い、いましたよ! ヴィットとサクビーです!」


 飛田とびたが指さした先には、腕を組むヴィットと、真ん丸い体で堂々と立つサクビーの姿。


「……出やがったな、ゲス鎧野郎。まさかそっちから出てくるとはな」

「……サクビー……! オレは待ってたぜ! この時を!!」


 赤茶けた荒野に、ゴマとソアラの声が響く。

 飛田は、ピア・チェーレ、星猫戦隊コスモレンジャーのメンバーたちと共に、大破した超星機神グランガイアの脚元で、今後の作戦を練っていたところだった。


 上空には邪竜パン=デ=ミールが飛び回り、巨大な砂時計は無情にも死のカウントダウンを進めていた。

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