60.作戦瓦解


 魔王城、サーシャの部屋にて——。



「サーシャよ、どこへ行っておったのだ。もう身体は大丈夫なのか」


 部屋の扉をそっと開け、入ってきたのはサーシャの父、魔王ゴディーヴァ。

 魔王の島に実る魔界のフルーツの盛り合わせを、筋肉質な太い両腕に抱えている。


「お父様……。はい、もう大丈夫かと。それより、パン=デ=ミールの魔法防御膜バリアが、ゴマによって破られてしまいましたわ」

「何だと? 確かなのか、サーシャよ」

「ええ。ゴマという名の猫、勇者ミオン以上に厄介かもしれませんわね」

「猫ごときに手こずらされるワシではない。ヴィット、サクビーを行かせよう。サーシャ、お前は……」


 ゴホン、とサーシャはひとつ咳き込む。


「お父様……。まだ少し、身体が辛いですわ……」

「そうか。ならば仕方ない、しばらくは休んでおけ。もし出歩くなら、次からはワシに言うのだぞ」


 魔王ゴディーヴァが部屋を出て行き、扉を閉めたことを確かめたサーシャは、魔界のフルーツを口にしながらほくそ笑んだ。

 作戦通り——。

 後は、出撃に向かうヴィットとサクビーに、弱体化魔法をかけるだけだ。


 ♤♠︎♤♠︎


「ゴディーヴァ様! 本当ですか!」

「ビー!? パン=デ=ミールは無敵になったんじゃなかったんですビー!?」


 焦りを見せる部下たち——ヴィットとサクビーを落ち着かせるように、魔王ゴディーヴァはゆっくりとした口調で語りかける。


「ゴマという名の猫によって、パン=デ=ミールの魔法防御膜バリアが破られてしまったようだ。だが焦ることはない。早めに叩き潰しておけば、作戦は継続できる。ヴィット、サクビー。全力を尽くし、ゴマを潰してくるのだ」


 ヴィットとサクビーは落ち着くどころか、さらに動揺を見せる。


「魔王ゴディーヴァ様! お言葉ですが、もしゴマを倒す前に俺たちが死んでしまえば、パン=デ=ミールの魔法防御膜バリアは完全に消えてしまいます! 何か他の手立ては無いのでしょうか……?」

「ヴィット! 何を弱気になってるんだビー! 僕ちゃんは絶対死なないビー!」


 ヴィットとサクビーが言い合っている間、魔王ゴディーヴァはマントで身体を隠し、無言で下半身をまさぐった。

 ヴィットとサクビーが、ゴマに負けないほどの力を得るアイテムがあるのだ——。


「これを持って行け」

 

 その球体のアイテムを2つ握り締め、マントの中から手を出す。

 てのひらの上に、2つのオレンジ色に光る球体を乗せながら前方へ差し出した。

 すると2つの球体は、それぞれヴィットとサクビーの方へと流星の如く飛んで行く。


「ゴディーヴァ様、これは……?」

「何ですかビー?」

「魔のオーブ、【ソティーン】だ。それは、お前たちの戦闘能力を何倍にも跳ね上げる力がある。持っていれば、ゴマに負けることは絶対にない筈だ。さあ、行け!」


 魔力を秘めた2つの球体“ソティーン”——。

 それを1つずつ受け取ったヴィットとサクビーは、揃って跪いた。

 その時、魔王の間の扉が開く。


「お父様……」


 サーシャだ。

 ワープして出撃しようとしていたヴィット、サクビーが振り返る。


「お父様。ワタクシは以前出向いた際、ゴマを観察し、弱点を探っておりました。出撃前に、ゴマの弱点をヴィットとサクビーに伝えたいのです」

「ならば手早く伝えるのだ、サーシャ」

「ありがとうございます。さあヴィット、サクビー、こちらに」


 廊下へと向かうサーシャに、ヴィットとサクビーはついて行った。

 魔王ゴディーヴァの側にいた魔将フランツは、目を光らせながらその様子を眺めていた。


 ♡❤︎♡❤︎


「あのゴマにも弱点があるのか。早く聞かせろ、サーシャ」

「僕ちゃんは早くソアラと決着をつけに行きたいビー! さっさとするビー!」


 サーシャは、ふうと息を吐きながら、高鳴る鼓動を落ち着かせる。

 雷鳴が鳴り響く魔王城の廊下に、ヴィットとサクビーを呼び出すことに成功した。

 あとは、“弱体化魔法”をかけるだけ。

 自身の杖、“ロリータ・ホワイトステッキ”を体の後ろに隠し、“弱体化魔法”の魔力を溜めながら、口を開いた。


「ゴマの弱点、それは……」


 鼓動が加速していく。

 ゴマの弱点を知っているなど、もちろん大嘘だ。


「それは……」


 “弱体化魔法”の魔力は充分に溜まった。そっと杖を前に出す。


(今ですわ、魔力解放——!)


 その時だった。


「何をしている! サーシャ!!」

「!?」


 突然、サーシャは何者かに羽交い締めにされてしまった。


「今、何をしようとしていた?」

「い、いえ……フランツ様……ワタクシは何も……」


 最悪のタイミングだ。

 魔将フランツに、見つかってしまった——。


「嘘を吐いても、私には判るぞ。サーシャ、来い! 貴様は魔王ゴディーヴァ様に反逆した。断じて許さぬ!」

「いやあああっ!!」


 魔将フランツに引き摺られ、サーシャは魔王の間へと連行されて行ってしまった。


————


※ お読みいただき、ありがとうございます。


次週、いよいよ決着!

第3章が完結します!


楽しんでいただけましたら、

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【次週予告】


☆サーシャ、魔王軍解雇か——?


☆ソアラVSサクビー、決着——。


☆ゴマくんが変身!? 


☆飛田優志、流星となり邪竜を貫く! そして——。


61.魔王ゴディーヴァの懐

62.星猫戦隊復活、だが——?

63.ゴマくんが2匹!?

64.獅子奮迅

65.新型ウイルス感染症


どうぞ、お楽しみに!

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