56.邪竜、夢の世界へ
「……! こ、ここは! ……あ、ラデクくん、サラーさん!」
「ミオン様! どこに行ってたの!? 装備つけたままで寝ちゃって!」
「もうー。今、街は大変なのよー」
ここはオトヨーク島——繁華街モヤマの宿屋。
ベッドの側で、目覚めた
もういつぶりだろうか。飛田は久々に、夢を見たのである。
「す、すみません。……うわあっ!?」
突如、部屋の中がガタガタと揺れる。直後に突風が吹き、けたたましい音が鳴り響いた。
窓ガラスが割れたのだ。
本棚にある本が、バタバタと床に落下する。
「グォオオオン……!」
窓の外から聞こえてきたのは、咆哮。
割れた窓ガラスから外を見れば、竜巻がいくつも巻き起こり、大地がユサユサと揺れ木々や建物が大きく揺さぶられていた。
「……く……! すごい咆哮だ! ミオン様、さっきから巨大なドラゴンが上空を飛んでいるんだ! あんなドラゴン、僕は見たことないよ!」
飛田は、その咆哮に聞き覚えがあった。
「……邪竜、パン=デ=ミールです……」
「邪竜パン=デ=ミール!? 聞いたことないよ、そんなドラゴン!」
「知ってるのー? ミオン様ー?」
尚も激しく地面は揺れ、ラデクもサラーも立っているだけでやっとだ。
「ひとまず、1階に行きましょう!」
フロントを見ると、宿屋の主人が苦しそうに咳き込んでいる。
待合スペースにいる他の宿泊客も、顔を真っ赤にしながらテーブルに突っ伏して苦しそうにしていた。
「あのドラゴンが現れてからー、街のみんながー、病気になってしまったのー」
「僕たちも、いつああなるか分かんないよね……! クソ、何なんだあのドラゴン!」
「ラデクくん、サラーさん! これをつけてください!」
間違いなく、新型ウイルスによる症状だ。
マスクを装着することでどこまでウイルスの防御出来るかは分からないが、無いよりはマシだ。
宿屋の外に出ると、上空に邪竜パン=デ=ミールが飛び回っていた。巨大な影が、街中を滑るように走る。
モヤマの街中は、苦しげに地面をのたうち回る者、嘔吐して気を失っている者、既に息絶えている者で溢れていた。
以前の活気に満ちた繁華街が嘘であるかように、地獄のような光景と変わり果てていた。
「グォォォオオオオオオン……。我はニャガルタに帰る……! 次は現実世界における地底の猫族を、根絶やしにする……」
邪竜パン=デ=ミールは
「喋った!?」
「……と思ったら消えちゃったわねー。ひとまず安心ってとこかしらー」
「いえ、安心ではありません! 地底の猫族、ニャガルタ……! コスモレンジャーのみんなが危ないです!」
「……そういえば」
ふと、モヤマにはかつての勇者——マイルスが住んでいることを思い出す。
「マイルスさん、大丈夫でしょうか……! マイルスさんの所を訪ねていいですか?」
「そうだね! 行こう!」
「マイルスさんー! こんにちは! 飛田優志……ではなく、勇者ミオンです! 大丈夫ですかー!?」
玄関の扉を強めにノックすると、10秒経たずに、背筋がピンとさせたマイルスが姿を現した。
病に冒されるどころか、むしろ以前より元気そうである。
「よく来た。待っていたぞ。私は大丈夫だ。長年、風邪すらも引いてはおらぬ。鍛えているからな。それより勇者ミオン……お前に渡すものがある」
囲炉裏のある部屋に入れられると、床には——大剣、鎧、兜、そして盾が整然と並べられていた。いずれも、
それぞれがまるで、
「マイルスさん、これは一体……?」
「【獅子の
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