18.白黒の毛玉

 

 飛田とびた、悠木と雪白、そして玉城と塚腰は、ワープゲートをくぐり、ねずみの世界の大都市——“Chutopiaチュートピア2120にいいちにいぜろ”へとワープしてきた。

 ワープゲートから出ると、飛田たちは自動的に、ねずみサイズとなっていた。

 周囲には飛田たちとほぼ同じ背丈の、服を着て言葉を話すねずみたちがいる。

 そして、同サイズで二足歩行の、服を着て言葉を話す猫たちも。


「すごいすごーい! ねずみさんと猫さんが仲良く暮らす街だー!!」

「凄い……ねずみの世界って聞いたけど、猫もいるのね……」


 悠木ははしゃぎ回り、雪白は口をポカンと開けて周りの風景を見渡している。

 この街に通い慣れている飛田は、落ち着き払って2人に説明する。


「この街には元々ねずみさんだけが住んでたんですが、少し前に、地底世界に住む猫さんたちが移住してきたみたいなんです。私たちも猫さんたちも、この世界に来るとみんなねずみサイズになっちゃうんですよね。不思議ですね。さて皆さん、念のためマスクは付けていきましょう。この世界でも新型ウイルスが流行っているかも知れませんから」

「へぇー! あたし、ねずみさんとも猫さんともお話してみたーい! ハロー! ネズミサーン! ナイストゥミーチュー! チューチュー!!」

「こら、愛音あいね、待ちなさい! ちゃんとマスクつけて!」


 暴走する悠木を、雪白は追って行ってしまった。

 一方、玉城と塚腰も、最初は眼前に広がる別世界に驚いた様子だった。だが玉城は、夏休みに入ったばかりの小学生の如くはしゃぎ始める。


「この世界にも美味しいものぉ、あるかなぁ? あぁ! いい匂いがするよぉ!」

「あなた、また食べることばかり考えて……。あ、こら! 待ちなさーい! そもそも人間が食べて大丈夫な物かどうか分からないでしょ!」


 甘い匂いがする店の方へと玉城は走って行き、塚腰が慌てて追いかけて行く。


「ち……ちょっと、皆さん! はぐれないでくださいよ……! まずはねずみのお医者さんに行くという話ですから……!」


 ねずみの世界は、今は春だ。近くの公園には、飛田たちよりも背丈が高いたくさんの野草が、色とりどりの花を咲かせている。少し暑いぐらいの陽射しが降り注ぐ。

 飛田はじわりと滲む汗を拭いつつ、4人の後を追った。


 ◯●◯●


 何者かが、飛田たちの後を追いかけている——。


「ワープゲート潜入成功だみゅ! 急ぐみゅー! 見失っちゃうみゅー!」

「はぁ、はぁ……分かってるぴの……! みんな足速いぴの……! でも勇者ミオンに見つかるわけにはいかないぴの……!」


 ピョンピョンと飛び跳ねながら飛田たちを追いかけているのは——小さな白いモフモフと黒いモフモフ。

 不思議そうに見てくる、ねずみや猫たちの視線を掻い潜りながら、ひたすらに追いかける。


 モフモフたちは飛田たちを追いかけているのだが、飛田勇者ミオンには見つかってはいけない——。

 つまり、モフモフたちの目的は飛田ではなく、別の何かなのだ——。

 

 ◯●◯●


「はぁ、やっと追いつきました……。では、玉城さんに紹介するねずみのお医者さんの所へ行きましょう」

「愛音、勝手な行動はしないの。飛田さんに謝りなさい」

「浩司、あなたもいい歳してはしゃがないの!」

「「ふぁーい……ごめんなさぁい……」」


 悠木は雪白に叱られ、玉城は塚腰に叱られる。2人はシュンとして飛田に頭を下げる。


「いえ……お気になさらず。まあ、夢みたいな世界ですからはしゃぎたい気持ちは分かりますよ、あはは……」

「あ! あの!」

「はい、悠木さん、どうされました?」

「何か、あたしたち、に後をつけられてる気がするー!」

「ぴょんぴょんしてる変な生き物……ですか?」


 飛田たちは後ろを振り返った。が、そこには歩道を行き交う、服を着た二足歩行のねずみと猫たちしかいない。

 の姿など無い。


「いませんね……」

「ほんとにいたんだもん!」

「……じゃあ、探してみますか?」


 歩いてきた歩道上にあるベンチ、街灯、置かれた荷物の陰などを飛田たちは見て回ったが、それらしき生き物の姿は見つからない。

 それでも10分ほど探し続けていると、雪白はため息をつきながら言う。


「……気のせいでしょ、愛音。それよりも急がなきゃ、夕方になっちゃうよ。早く帰るって約束でしょ?」

「……そっかー、気のせいかー。じゃ、行こ! 飛田さんっ!」

「……切り替えが早いですね。では行きましょう。玉城さんに塚腰さん、待たせてしまいすみません」


 飛田たちは少し足を早め、ねずみの医師ハールヤの医院“Chutopiaチュートピア厚生医院こうせいいいん”へと向かった。

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