19.玉城、ねずみの病院へ入院

 

 飛田とびたたちは、ねずみの医師ハールヤのいる“Chutopiaチュートピア厚生医院”へと到着した。


「人間様お1人、玉城たましろ浩司こうじ様ですね。すぐお呼びしますので、待合室でお待ちください」


 ねずみの受付嬢にカードを手渡された飛田は、悠木たちを手招きし、待合室へと向かった。


「ふーっ! やっと着いたね。ねえ友莉ゆうり、お腹すかないー?」

「ドーナツ屋さん、寄れば良かったわね。私たちが食べられる物が分からないけど、美味しそうな匂いだったもんね」

「ねえ邦子くにこぉー、ねずみのお医者さん……どんなお医者さんなんだろー」

「ここまで来て言うのもなんだけど、ちょっと不安よね……」


 飛田、悠木と雪白、そして玉城と塚腰は、待合室のふかふかのソファに腰を下ろした。

 

 待合室には、川のせせらぎと鳥の声に混じってうっすらとオルゴールの音が流れており、空気もまるで森の中のように澄んでいる。


「……すごく、居心地がいいですね。ここにいるだけで体調が良くなったかも? 肩も全然凝ってないし」


 塚腰が肩を押さえながら言う。

 はしゃぎ回っていた悠木も今は落ち着いているし、悠木のせいで苛立っていた雪白も今はホッとしている様子だ。


 音楽が流れているスピーカーの下に目をやると、“1/fエフぶんのいちゆらぎ”と書かれたプラスチックボードが貼られていた。

 “1/fエフぶんのいちゆらぎ”とは、自然界のリズムと同じゆらぎであり、これを含む音楽は、リラクゼーション効果があると言われている——というのを、飛田はどこかで聞いたことがあった。


玉城浩司たましろこうじ様、診察室へどうぞ」


 その“1/fエフぶんのいちゆらぎ”の音楽がボリュームダウンし、ハールヤの声でアナウンスが流れた。


「では玉城さんと塚腰さんを案内しますから、悠木さんと雪白さんはここで待ってていただけますか?」

「うん! 終わったらまたねずみさんたちの街を探検しようね!」

「はい、本でも読んで待ってます」


 悠木と雪白は待合室で診察が終わるのを待つことになり、飛田は玉城、塚腰を診察室へと案内した。



「はじめまして、玉城浩司様。私は院長のハールヤと申します」


 ねずみの医師ハールヤが大袈裟なほどに深々と頭を下げると、玉城と塚腰は思わず後退りする。


「玉城さん、ハールヤ先生は病人が来たら必ず手をついて頭を下げられるんですよ。私の時もそうでした。気にせず、ハールヤさんにお悩みを話して下さい」


 玉城にそう伝えた飛田は、少し離れて椅子に腰を下ろした。


「は……はぁいぃ。あのぅ、僕ぅ……太りすぎなんですぅ」

「あはは……見れば分かりますよ。あ、マスクは外して頂いて結構ですよ」


 玉城がマスクを外し、荷物を塚腰に渡している間に、飛田はハールヤに質問を投げかけた。


「ねずみさんの世界では、新型ウイルスは流行してないのですか?」

「新型ウイルスですか。風邪が少し流行っているくらいで、その他の特定のウイルスが流行する兆候はありません。心配はいりませんよ」

(……ということは、まだねずみさんの世界は魔王の力が及んでいない、ということですか。でもいずれはこの世界も……。早く戦線復帰しなければいけませんね)


 玉城の診察が終わって全員を元の世界に帰したら、すぐにミランダに頼んで地底の猫の街ニャンバラに行き、星猫戦隊コスモレンジャーと合流することに決めた。


「では玉城様、少し背中を触診してよろしいでしょうか」

「は、はぁいぃ」


 玉城は上着を脱ぎ、ブヨブヨにたるんだ脂肪たっぷりの背中をハールヤに見せていた。

 ハールヤは指で玉城の背中の何箇所かをグッと押さえ、触診する。


「ツボに……入らないですね。まずは脂肪を落としてもらわないと……」


 普通とは違う診察方法に、玉城は戸惑った様子だ。

 首周り、肩などをひととおり触診し終えたハールヤは、ふうと息をつく。


「肝臓の機能が著しく下がっており、膵臓にも炎症があります。体内の脂肪量がとても多いですね……これは少々手強そうです」

「ええー! 触っただけでどこが悪いか分かるんですかぁ!?」

「ツボを押さえた時の感覚で分かりますよ。玉城様には、しばらく入院していただきたいと思います。人間様用のダイエット食をご用意致しますので」

「にゅぅ……入院……」

「異世界の病院に入院ですって!? さすがにそれは……」


 玉城と塚腰は、ハールヤの提案を受け入れることを渋っている。

 飛田は2人にどう言おうかと悩んでいたが、その時、診察室の扉が乱暴に開かれた。


「ハールヤのじーさん、今日だいぶ体調いいんだ。ちょっと美味いもん食いに行っていいか?」


 以前、不摂生のあまりハールヤに呆れられていた、元ニャンバラの民であるトラネコの若者、ダスティだ。

 飛田が以前見た時は毛並みに艶が無かったが、今はフワフワとした毛並みになり、表情も生き生きとしている。


「ダスティ様、まだしばらくは病院食での食事療法が必要ですよ。退院まであと数日ですから、ここは欲望をグッと抑えてこのまま治してしまいましょう」

「ちぇー」


 ハールヤの答えを聞き、ダスティは残念そうに斜め上を向く。

 玉城と塚腰は唖然としていたが、構わず飛田はダスティに話しかけた。


「ダスティさん……ですか。この間はどうも。ダスティさんも入院なさってたんですね」

「ああ。あの日から入院させられちまった。そこのゴツい人間も入院するんだろ? ハールヤんとこでの入院生活、なかなかいいもんだぜ。どんなもんか、教えてやろうか?」


 飛田たちが返事をする前に、ダスティは勝手に自身の入院生活について話しはじめた。


 Chutopiaチュートピア厚生医院での、入院生活の内容とは——。

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