17.超肥満男子とアイドルの卵、異世界へ
「
笑う外園に、
「あ! こないだのおじちゃん!」
「お兄さんでしょ、
「「よろしくお願いします、飛田さん!」」
「こちらこそよろしくお願いします。……いやあ、いい子たちですね、マスター」
「ああ。この子たちの未来への道を、俺たちが作るんだ。ウイルス
作曲依頼の話も終わり、飛田たちがロビーに出ようとした、その時——。
「マスターぁ、パスタ下さいぃ! 5人前ぇ!」
体重100キログラムはゆうに超えているであろう太っちょの青年と、スタイルの良い茶髪ポニーテールの女性が、エントランスから入ってきた。
「もう、
「いいじゃないかぁ
2人はエントランスの前で言い合っている。浩司という名の男性がとにかくデカいため、出入り口が完全に塞がれてしまっている。
「ほらほら、2人ともそんなとこで言い合ってないでとにかくテーブルのとこ行って座れ。もう今から店閉めようと思ったんだが……まあいいか。15分程待ってね。
渋々、外園は厨房へと入って行った。
飛田、悠木、雪白も、ちゃっかり便乗してパスタを注文していた。
飛田は、隣のテーブルに座った邦子という名の茶髪ポニーテールの女性に話しかけられる。
「お見苦しいところをお見せしてごめんなさい。彼は【
塚腰は、飛田たちに向かい軽く頭を下げる。彼女は20代半ばほどだろう。
隣に座る大男、玉城はマイペースな性格なのか、じーっと厨房でパスタを作る
「なるほど、食欲が抑えられずに肝炎が悪化して……」
半ば愚痴にも近い塚腰の話に、飛田は耳を傾ける。
玉城と塚腰は、“OFFBEAT”の常連らしい。
2人は結婚を控えているが、玉城は肝炎と診断され、医師から食事制限を言い渡されているらしい。
塚腰はそんな玉城に「これ以上太っちゃ嫌!」と言い続けているが、彼の体重は日に日に増えるばかりだという。
「お医者さんが口を酸っぱくして言っても、食べ続けるんです。全く……」
「だってさぁ、美味しいもの食べてる時って幸せじゃぁんかぁ」
玉城は子供のように頬を膨らませる。元々大きな顔が、さらに大きく見えてしまう。
玉城も塚腰も28歳だという。
このまま結婚したとしても、旦那さんは病気のまま。もし子供が育つ頃に旦那さんが入院生活になったとしたら、奥さんはたまったもんではないだろう。
2人の問題を解決するための、いい手段はないだろうか——。
考えていると、飛田の脳内で電球がピカリと光り輝く。
「そういうことなら! いいお医者さんを紹介しますよ」
ポンと手を打った飛田は、塚腰の目を見る。
「いいお医者さんですか? これまで病院を転々としたんですけど、どこ行ってもダメで……」
塚腰はため息をつく。
しかし飛田は、自信満々に言い放った。
「異世界にある、ねずみさんのお医者さんです!」
——OFFBEATの店内に響く音が、パスタを油で炒める音だけとなった。
飛田の背に、冷や汗が1つタラリと垂れる。
(しまった、勢いに任せて言ってしまいました……。バカだと思われたかも知れないです。玉城さんにも塚腰さんにも、悠木さんにも雪白さんにも……)
「ふぁっ!? ねずみさんの国ですかぁ!? 是非行ってみたいですよぉ!」
ところが、さっきまで厨房をじっと見ていた玉城が、目を輝かせながら飛田の方に向き直った。
さらに。
「異世界!? ねずみさん!? 楽しそうー!! ね、一緒に行こ、友莉!」
悠木も嬉しそうに、雪白の肩をバンバン叩いてはしゃぎ始めた。
雪白は悠木に叩かれ続けながら、呆然としつつ視線を塚腰に送る。塚腰も半笑いになりながら雪白と視線を合わせていた。
飛田は、しどろもどろになってしまう。
「あ……あの、この後でその世界に案内しますから……あ、パスタが出来たようですよ」
「はい、お待ちどう」
タイミング良くパスタができ、飛田は胸を撫で下ろす。
外園は、和風パスタ5人分を、順次テーブルに載せていく。
その後は外園も入れて、6人は和気藹々と軽食の時間を楽しむのだった。
1分経たずに完食しようとする玉城は、「よく噛んで食べなさい」と塚腰に叱られ続けていた。
♢
OFFBEATを後にした飛田、悠木、雪白、玉城、塚腰は、近くにある、誰も居ない公園へと移動した。
「こうやって……ミランダさん、来てください!」
木陰で、飛田は風の精霊ミランダを呼び出す。その様子を、4人はポカンとして見ている。
やがてミランダが、7色の光に包まれながら姿を現した。
「久しぶりね、
「キャーッ! 本物の妖精さんだぁー! ねえ、触っていい?」
大はしゃぎする悠木に驚いたミランダは、弧を描いて逃げる。
「ちょ……ちょっと君! 急に大声出さないでよ……」
「ごめーん! えへへ。わぁ、妖精さんとお話しできちゃった!」
雪白が「こーらー、愛音!」と言いながら悠木をミランダから引き離す。
その間に飛田は、懸念していた事をミランダに尋ねる。
「ミランダさん、ワープゲートへ干渉している魔王の力の影響は、どうですか……?」
「大丈夫! 精霊界の女王様の力で、魔王の力はもう完全に防げたから! ただ、まだ完全復旧は出来てなくて、時間調整はまだ出来ないの。でも安全は保証するわ!」
「分かりました。なら大丈夫ですね」
飛田は、待っている4人の方へと振り返る。
「風の精霊ミランダさんです。今からミランダさんに、ワープゲートを出してもらいます。そこをくぐれば……言葉を話すねずみさんたちの世界です。……行きますか?」
「行くー! わーい! 何か夢みたい!」
「行こう行こうぅ。わぁーいぃ」
悠木と玉城は即答だった。
悠木に腕を引っ張られる雪白と、はしゃぐ28歳男を見てため息をつく塚腰も、渋々了承する。
「じゃあミランダさん、お願いします!」
飛田の言葉を合図に、ミランダは呪文の詠唱を開始。
虹色の光が集まっていき、公園の地面に光の円が現れる。
「はい、ここの上に乗ったらワープを開始するわ。さっきも言ったように時間調整が出来ないから、アイネちゃんとユーリちゃん……だっけ? 2人はすぐに帰るって約束ね!」
「はーい! ありがと、ミランダちゃんッ! 行こ、友莉!」
「ちゃんと約束守るのよ、愛音!」
「わぁー、ねずみさんの世界ぃ、ワクワクだぁ」
「まるで夢見てるみたいね……」
こうして飛田、悠木、雪白、玉城、塚腰は、ねずみたちの世界へと旅立つことになった——。
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