11.セルフ手術レッスン


「胆石のある胆嚢たんのうの反射区は……ここです!」


 ハールヤは、飛田とびたの右足裏の土踏まず、小指寄りの位置にある、胆嚢の反射区をグイと押した。


「ひぎぃ!! ……んぎょぴぴーーーーッッ!?」


 大袈裟ではなく、飛田は人生で体験した痛みの中で、最大の痛みを味わった。


「はーるやざん……がんべんじでぐだざいぃ……」

「大丈夫ですよ。強敵は倒したので、あとは消化試合みたいなものです」


 鼻水を垂らして震える飛田の右足裏全体を、ハールヤは丁寧にほぐしていく。


 既に揉み終わった左足は——痛みの後のご褒美なのか、足全体がぽかぽかと温かく、心地よい感覚になってきていた。

 仕上げに、両脚の膝上まで丁寧に揉み上げられる。


「はい。これで終わりです。飛田様、いかがですか?」


 “手術”は、無事成功に終わったようだ。


「あ……ありがとうございました……。あの……、ものすごく痛かったですが……何だか体全体がスッと楽になった感じです。すごく息がしやすいです」

「良かったです。さあ、白湯さゆをお飲みになって下さい。揉み出して流れた足裏の沈殿物を、尿と一緒に出してしまうのです」

「ありがとうございます、いただきます。……水とかジュースではダメなのですか?」

「水だと、体を冷やしてしまいます。ジュースなどよりも、純粋な水分を摂るのがベターですね」


 飛田は白湯を冷ましながら少しずつ飲みつつ、ハールヤに質問する。


「手術というと、全身麻酔で感覚を麻痺させ、メスで切開し、臓器を切り取ったり血管を縫い合わせたりだとか、そういうものだと思ってました。このねずみの世界でもそういう手術を、したりするんでしょうか?」


 ハールヤは首を横に振る。


「私どもの世界では、そのようなことは致しません。体の1つ1つの器官、臓器は、神様が下さったもの。どれ1つ、不必要な器官はありません。例えば臓器を何か1つ切り取ってしまうと、その分、他の臓器に負担がかかってしまいます。それでも足りないところを補おうと、体はバランスを取りますがね……。体の知性は偉大です。でも、原則として体の器官を切り取るようなことは致しません」

「そうなのですね……。私も、そういう手術はとても嫌でした。血を見るのも嫌ですし、体の中の臓器なんて見るだけで失神しそうです。まして自分の体が切り開かれるだなんて……。グロテスクじゃないですか」

「何故、グロテスクに感じるか……。それは、体の中というのは本来、見るべきものじゃないからなんですよ」


 何となく、納得した飛田だった。

 ただ、一部に、血や臓器を見たがる趣味を持つ人たちがいることは否定できないが。


「本当の意味のが、私どもの言う“”なのです」


 麻酔もメスも、要らない手術。

 だが、ものすごく痛い手術。


 この手術は、現代医学の手術とは違い即効性はないが、何度も繰り返し続ける事で蓄積した沈殿物が流れ、血流が改善され、自然治癒力が活性化されるという。


「胆石も老廃物の蓄積ですから、この手術を続け、正しい食事と運動をしていけば、排出されるはずですよ」

「分かりました。痛いですが、またお願いしたいです」

「いつでもどうぞ。ただ、時間がある時にはご自分で手術されると良いですよ。今から、やり方をお伝えしましょう」


 引き続き、飛田はハールヤから“セルフ手術”の方法を伝授してもらうのであった。

 足の“反射区図表”を手渡され、痛みに耐えながら順番に自分自身の手で足を揉みほぐしていく。


「親指の腹や握り拳でグッと押しながら、沈殿物を崩すように揉みます。痛い場所と対応している臓器が、弱っている臓器です。ですが、痛む場所だけではなく、。臓器と臓器は繋がっています。どこか悪ければ、他の臓器も悪くなる。逆にどこかが治れば、他も治る。以前も言ったように、病変部だけを見て治すのではなく、体全体を見るのが大切なのです」

「分かりました。痛いところばかり治そうと、焦ってはいけないんですね」

「その通りです。毎日揉んでいるうちに、痛くなくなり、気持ち良いと感じられるようになれば、健康に近づいたというサインだと思って頂ければ良いでしょう。砂利道を裸足で歩いてご覧なさい。健康ならば、痛くはないはずです。元々人間さんは、裸足で外を走り回っていたのですから。また、この手術は食後1時間経ってから行うこと、術後には白湯を飲むことをお忘れなく……」


 ハールヤの情熱溢れる“セルフ手術”レッスンは、約1時間にも及んだ。

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