10.ハールヤの“手術”


 手術着に着替えることもなく、飛田とびたは直行で“手術室”へと案内されてしまった。

 扉には、手書きで“手術室”と書かれた張り紙が貼られている。


 しかしその手術室は——。

 9帖ほどの部屋に、ベッドが1つ、ハールヤが座るであろう椅子が1つ、観葉植物が1つあるだけの、ごく普通の部屋だった。

 窓があり、日除け越しに外が見える。


 そう、そこは以前飛田が、ハールヤからマッサージを受けた部屋と同じ部屋だったのだ。


「では飛田様、ストレッチをして体の凝りをほぐしてから、ベッドに横になってください。その間に私は爪を切りますから」


 看護師の3匹のねずみは退室し、静かになった部屋にハールヤの爪を切る音だけが響く。


(手術って、まさか……)


 爪を切り終えたハールヤは、お湯が入った風呂桶のような容器を持って来た。


「飛田様、両足をお湯に浸してもらえますか?」

「あ、はい……」


 靴下を脱ぎ、両足をお湯に浸す。

 氷のように冷えていた足先が、じんわりと温かくなってゆく。


(足を……。ま、まさか……)


 2分ほど経ったのち、ハールヤはニッコリ微笑んで言ったのだった。


「では、を始めさせていただきます。飛田様、左足を私の膝のところに出して頂けますか?」


(まさか……まさかまさかまさか。ハールヤさんが仰る“手術”というのは、ものすごーく痛いという、アレのことでしょうか……?)


 恐る恐る、左足をハールヤに預ける。

 ハールヤは飛田の左足を支えると、指の腹で足裏の真ん中をグッと押し込んだ。


「ぎょぇぇーーーーッッ!?」


 魔物の断末魔の如き、叫びを上げてしまった。

 飛田の予感は的中。ハールヤの言う“手術”とは、足ツボマッサージのことだったのである。


「やはり痛いですか……。少し加減しましょう」


 ハールヤは湯気の上がる温かいタオルで、飛田の左足裏を温めてから、再び指圧を開始した。


「ふんぎょおおおーーーー!?」


 それでも痛みのあまり、叫び声を上げて腕をばたつかせてしまう。


「はあ、はあ……勘弁……してください……」

「これはなかなかの老廃物の溜まり具合ですねえ……」

「老廃物って、足に溜まるんですか……?」

「はい。私どもが言う、“足の反射区療法はんしゃくりょうほう”がなぜ効くかといいますと……」


 足ツボマッサージ——正確には、“足の反射区療法はんしゃくりょうほう”。

 足には、身体全体の器官、臓器と繋がる神経が集まっている。例えば足裏の中心には腎臓、土踏まずのかかと寄りの場所には小腸や大腸、くるぶしにはリンパ節、——というふうに場所毎に繋がる器官が決まっているとされ、反射区と呼ばれている。


 反射区を刺激すると、反射区と繋がる器官も刺激され、血流が良くなりその器官の本来の機能が発揮される。それで各部位の不調が改善されることも多いのだが——。


 現代の人間は靴を履き、さらに歩くことが少なくなったため——本来血流に乗って流れるはずの老廃物が足裏に溜まっていき、沈澱してしまっている場合が多いという。

 

 その場合、足の反射区を押すと——沈殿物が神経に触れ、激痛が伴うのである。


 しかし沈殿物を溜めたままにすると、その部位と対応する器官も悪くなってしまう。

 そのため、多少の痛みを忍んで足を揉み、沈殿物を静脈に乗せて流さなければならないというのである。

 沈殿物を流し、同時に反射区を刺激することで、体の不調を解消させるのが——この“手術”の目的だというのだ。


————


※ お読みいただき、ありがとうございます。


足ツボ、痛いよね……

飛田さん、どうか耐えてくれ!

ハールヤさんおいこらwww


と思ってくださいましたら、

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