44.ボクTUEEEEッッ!!


 そうこうしている間に、巨大ヴィットは再び魔剣を構えた。

 黒い稲妻が、魔剣の周囲でバチバチと音を立てている。


「もう1発来ます! 逃げて下さい!」

「なあに、ボクに任せろ!」


 躍り出たのは、最強猫勇者——“神の祝福を受けし暁闇ぎょうあんの勇者、ゴマ”。

 ゴマは瞬時に、紫色のオーラを纏う。そして崩れた地面を蹴り、砂煙を巻き上げながら巨大ヴィットの足元へと駆けていく。


「喰らえ、デカブツ!」

「何だ……小癪な猫め!」


 ゴマは、自身の身体の数十倍もの高さまでジャンプをすると、“魔剣ニャインライヴ”を構え、巨大ヴィットの腹部に狙いを定めた。


「【ギガ・ダークブラスト——回転斬りローリングアタック】!」


 紫色の光に包まれたゴマは、魔剣を構えたまま独楽のように空中で高速回転し、突撃。巨大ヴィットの腹部を切り裂いた。

 巨大ヴィットの鎧が砕け、破片が飛び散る。


「グフッ……! 何だ……コイツは……!? こんな奴がいるとは聞いてない!」


 たまらず巨大ヴィットは膝を折り、倒れ伏す。地響きと共に、土埃が舞い上がった。


「オラァ! 観念しろ、鎧野郎!」

「おのれ、チビ猫ごときにこの俺が……覚えていろ!」


 巨大ヴィットは倒れたまま、苦し紛れの声で捨て台詞を吐くと、紫色の光に包まれ姿を消した。

 飛田とびたはしばし唖然としていたが、得意げに帰ってくるゴマを見て思わず声をかけた。


「ゴマくん……。すごく強いのですね……」

「ニャハハハ! 当たり前だ!」


 自分の体よりもずっと大きい相手にも恐れず立ち向かい、圧倒したゴマの強さ。最強猫勇者の名は、伊達ではなかった。


 別の場所では、巨大サクビーが大暴れしている。

 ソールが剣から光線を、ムーンが杖から魔法弾を、マーズが剣から火炎を発射し、巨大サクビーに浴びせようとしていた。だが、全ての攻撃は、青白く輝く巨大な丸い盾で防がれてしまっている。

 その様子を見て駆けつけたのは、最強猫勇者ゴマに触発された、“不撓不屈ふとうふくつの熱血武闘家、ソアラ”だった。

 ソアラは右前脚にそら色の光を纏わせると、ゴマに負けないほど高く高くジャンプした。


「オレに任せろッ! オレの拳を防げた奴は、誰もいねえッ!」


 ソアラに気づいた巨大サクビーは、クリスタルのように輝く盾を構え身を守った。

 ソアラの渾身の一撃がヒットする——!


「“200万馬力・猫パーンチ”!!」


 ところが——。

 鈍い金属音が響き渡ると同時に、サクビーは盾の陰から余裕の笑みを見せたのだった。クリクリとした目が、漫画のキャラクターのように笑う。

 巨大サクビーの盾は、どんな物でも打ち砕くという“200万馬力・猫パンチ”をも完全に防いだのだ。


「痛ってぇー!! そ、そんなバカな!」

「ギャハハハ! そんな技、僕ちゃんの“クリスタルボウル”には通用しないビー! 喰らえビー! 【カカオスマッシュ】!」

「ぬわあっ!?」


 巨大サクビーの鋼鉄のような右拳が、ソアラを潰そうとする——。


「ソアラくんっ……!」


 飛田は声を上げ、呼びかけた。間一髪、ソアラは攻撃を避けるが、バランスを崩し地面に転がった。ソアラを捉え損ねた巨大サクビーの拳は地面を抉り、地割れを巻き起こす。


「ソアラくん! 大丈夫ですか!?」


 駆けつけた飛田は盾を構え、飛んでくる小石を防いでソアラを守った。


「僕ちゃんのクリスタルボウルは、どんな攻撃だって防げるビー! お前らに勝ち目は無いビー! ギャハハハ……ん?」

「うるっせェ、このちんちくりんが! “ギガ・ダークブラストォォォ! 回転斬りローリングアタック”!!」


 またも、ゴマの声が耳に入る。

 見ると、再び紫色の光に包まれたゴマが、“魔剣ニャインライヴ”による高速回転斬りで巨大サクビーに突撃していた!

 だが、激しく金属がこすれる音が繰り返し鳴り響くだけで、サクビーの体にも“クリスタルボウル”にも、傷一つつかない。“クリスタルボウル”は最強猫勇者ゴマの攻撃すらも、防いでしまったのだ。

 だが、それでもゴマは空中回転斬り攻撃を継続、ゴリ押しする!


「な、何だコイツは……ビー!!」


 回転しながら迫るゴマの勢いに押され、とうとう巨大サクビーはクリスタルボウルごと、近くの断崖に激突、転倒した。


「オラァッ! 大人しく降参しやがれ!」

「クッソゥ……やるなビー! ここは一旦退いてやるビー!」


 自力で立ち上がれなくなった巨大サクビーは、そのまま紫色の光に包まれ、姿を消した。

 ゴマの強さに感心していると、今度は飛田の後方から爆発音が聞こえた。

 高熱の爆風が吹き込んでくる。


「うわあ!」

優志まさしィ! 大丈夫か!」


 駆けつけたゴマが盾で防いでくれたおかげで、爆風によるダメージは免れた。

 振り向くと、そこにいたのは「オホホホ」と高笑いする巨大サーシャ。長くて真っ白い杖から、爆発魔法を放ったようだ。

 挑発しようとしたためか、わざと攻撃を外したらしい。

 飛田は反撃しようと、剣を構えた。


「“サンデー”! “バースト”!」


 必死で、剣の先から魔法を連発する。

 しかし巨大サーシャは、杖から放った虹色の光で、飛田の繰り出した魔法を跳ね返してしまった。


「オーホホホ! そんな技、ワタクシの“ロリータ・ホワイトステッキ”で跳ね返して差し上げましてよ! 無駄な抵抗はやめて、ワタクシの愛する王子アルス様の居場所を教えなさい、勇者ミオン!」

「一体、何のことですか……!」


 アルス王子と、一体何の関係が——?

 そんな事より、今は身を守らなければならない。

 跳ね返された“サンデー”と、爆発寸前のエネルギー弾“バースト”が、飛田に迫る!


「そんな……跳ね返されるなんて……!?」

「オホホホ! 勇者ミオン自身の魔法で、自滅なさい!」


 ところが——。


「……と見せかけて、実は私はもう1つ、魔法を覚えていたのです! 【リターン】!」


 飛田は剣をかざす。すると前方に、オレンジ色に輝く板状のバリアが張られた。

 戻ってきた“サンデー”と“バースト”が、オレンジ色のバリアによって、さらに跳ね返される!


「……何ですって!? きゃあああああッ!!」


 油断した巨大サーシャに、“サンデー”と“バースト”が同時に炸裂! 爆炎と黒煙が巨大サーシャを包み込んだ。

 激しい爆発が起こり、空気を揺るがす。

 煙が晴れると、そこには黒焦げとなった巨大サーシャが地面に倒れ伏していた。右半分が黄色、左半分がピンク色の、艶のあるロングヘアが、むなしくもチリチリに縮れてしまっている。


「フ……フン……。生意気な、チビ勇者ですこと……!」

「誰がチビですか! 元々のサイズなら、あなたは私より背が低いではないですか!」

「こ……の……。ぐぬぬぬ……。オ……オホホホ……。お、覚えてなさい!!」


 サーシャは口元をピクピクと震わせながら負け惜しみを言うと、地面に這いつくばったまま紫色の光に包まれ、姿を消した。


 ちなみに腕をジタバタさせながら「誰がチビですか!」と言った時。「か……可愛い……」とマーキュリーがこぼしたのを、飛田は聞き逃さなかった——。

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