38.指揮官ラデク


 ラデクとサラーが、助けに来てくれた。


 “バニースーツ”に代わり、何故か【メイド服】を身につけたサラーが、“マグマの杖”を掲げながらウインクする。

 飛田ミオンと同じく“銀の胸当て”を身につけ、援護してくれたラデク。彼は眉毛を逆ハの字にしながら稲村リュカに声をかけた。


「そこの僧侶のおっちゃん! サイクロプスは“土”属性だから、“水”属性の“ウンディーネの羽衣”をつけてちゃダメ! “水”は“土”に弱いんだよ!」

「お、おう……。俺はリュカって言うんだ。そうなのか、俺、何も知らなかったよ。教えてくれてありがとな、坊っちゃん」

「坊っちゃんじゃないやい! 僕はラデク。覚えてよ!」


 ラデクに散々言われ、稲村リュカは頭を掻く。


「ミオン様ー、リュカさんー。また魔物ですよー。次も、力を合わせて戦いましょー」


 サラーの声にハッとして周りを見ると、今度は3匹の新たな魔物に取り囲まれていた。休んでいる暇などない。


「【魔術師】と【スタグビートル】、【ウッドボーイ】だ! ミオン様、やるよ!」


 “魔術師”——紫色のとんがり帽子とローブを身につけた、人型の魔物。

 “スタグビートル”——身長1メートルもの、巨大なクワガタ。

 “ウッドボーイ”——枝と根を手足のように動かす、樹木の魔物。


「ミオン様は“ドルチェ”で魔術師を攻撃して! “ドルチェ”は“光”属性だから、“闇”属性の魔術師に効くはず! サラーは“プチファイア”か“マグマの杖”で、ウッドボーイを攻撃するんだ! “木”属性は“火”に弱いから!」

「分かりました、ラデクくん! ……“ドルチェ”ッ!」

「任せてー! “マグマの杖”ー!」


 ラデクの指示通り、飛田ミオンは“ドルチェ”を魔術師に放った。だが動かれたせいで綺麗には当たらなかったので、さほどダメージは入らなかったようだ。

 サラーは“マグマの杖”を振りかざし、放たれた火炎放射でウッドボーイを黒焦げにしていた。


 魔術師は“闇”属性の魔弾を放つ。飛田ミオンは咄嗟に鉄の盾で防いだが、衝撃で転倒。


「くっ……」


 膝を激しくぶつけたためジンジンと痛み、思うように脚が動かない。頬と両足に擦り傷も負い、大きな隙を作ってしまう。


優志ミオン、俺に任せろ! “ヒール”!」


 間髪入れず、稲村リュカが傷を癒してくれた。瞬く間に傷が塞がり、心地よい冷感が全身を覆う。


「いなちゃん、ありがとうございます! 行きますよ、“ドルチェ”ッ!」


 2発目の“ドルチェ”。今度は魔術師にしっかりとヒット。

 魔術師は地面に倒れ伏し、光となって天に昇っていった。

 思わず、ふうとため息をつく。


「サラー! スタグビートルは“かね”属性で“火”属性に弱いから、また“マグマの杖”で弱らせて!」


 スタグビートルと戦闘中のラデクが指示すると、サラーは“マグマの杖”を再び振りかざす。高熱の炎が杖から放たれる。

 炎が迫るギリギリのタイミングでラデクがスタグビートルの近くからダッシュで離れると、炎はそのままスタグビートルに直撃。


「ミオン様、行くよ!」


 スタグビートルが火だるまになったところで、ラデクに声をかけられる。


「はい!」


 燃え上がるスタグビートルめがけ、ラデクと共に剣を構え突撃。ラデクが一撃を加えると、矢継ぎ早に飛田ミオンも敵の腹部を斬りつけた。

 火の粉が舞い散ると、スタグビートルの体はバラバラになり、やがて光となって昇天した。


「凄いな、坊っちゃ……いや、ラデク! 子供なのに戦い慣れてるじゃないか!」


 駆けつけた稲村リュカがラデクの頭にポンと手を乗せるが、ラデクは頬を膨らませる。


「このぐらい当たり前だよ! 僕は一流の剣士になって、ミオン様と一緒に魔王を倒すんだから! 作戦とか魔物についてとか、いっぱい勉強したんだ!」

「おお、そうかそうか! 偉いな、ワハハ!」

「ああもう、わしゃわしゃしないでよ!」


 なかなかのチームワークだった——。

 飛田ミオンは今の戦いで、確かな手応えを感じていた。

 仲間たちと力を合わせれば、どんな困難も乗り越えられる——。


 グゥー……。


 飛田ミオンの、腹の虫が鳴る。


「あ……お腹空きました……」


 食欲不振に悩まされていた飛田ミオンだったが、久しぶりに“お腹が空いた”という感覚になれた。

 症状というのは、知らぬ間に治ることが多いものだと、飛田ミオンは実感する。


「じゃ、宿屋に戻ってみんなでメシでも食うか!」

「さんせーい」


 稲村リュカの提案で、飛田ミオンたちのパーティーはモヤマの宿屋へと向かうのであった。



 腹を満たした飛田ミオンは、急激な眠気に襲われ、宿屋の一室で一眠りすることにした。

 食後の急激な眠気は、血糖値の急上昇が原因の一つである可能性があるので、早食いをやめて、なるべくゆっくり食べる方が良い——健康診断の時に言われたことを思い出し、次からは気をつけようと思いながら飛田ミオンはベッドに入った。



 そして目を覚ます。

 飛田とびたがいた場所は——。


 地底都市“ニャンバラ”にある、星猫戦隊コスモレンジャーの基地の一室だった。

 けたたましく鳴り響く、警報音のような目覚ましアラームの電子音。


 夢から覚めたのである。

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