36.いたずらタヌキ現る


 突如知らされた、飛田ミオンについているという守護神の存在。

 守護神、“夢幻獅子むげんじし”とは——。


「“夢幻獅子”とは……オトヨーク島より遥か西にある大陸——【チャイ大陸】に棲む伝説の生き物だ。その偉大なる力が、今の勇者ミオンのオーラから感じられる」

「全く、気付きませんでした。その……守護神さんは一体、どのようなことをしてくれるのでしょうか……?」

「もしもお主が窮地に陥った時、“夢幻獅子”がお主の元へと駆けつけ、力を貸してくれるであろう」


 飛田ミオンは目を瞑り、心の中で守護神・“夢幻獅子”の存在を感じようと試みた。だが、全くそのような気配は感じない。


(マイルスさんの言う通り、ピンチにならないと助けてくれないのでしょうか。……そういえば星猫戦隊コスモレンジャーの猫さんたちには、みんな守護神がいるという話でした。もしや、私も星猫戦隊コスモレンジャーに仲間入りしたから、守護神さんがついてくれたのでしょうか……?)


「あの、俺にはその守護神ってのは、ついてくれてないんですか!?」


 稲村リュカの大きな声で、飛田ミオンはハッとする。


「リュカ、お主はこの“夢の世界”に来たばかりだ。お主の力がこの世界の神々に示されれば……縁はあるかも知れぬ」

「そうですか……。なら、気張ってかなきゃな! なあ、勇者ミオン!」


 やはり、稲村いなむらからは勇者ミオンと呼ばれ慣れない。飛田ミオンはただ苦笑いをしながら頷くだけだった。


「それからお主らが戦うべき魔族は……死ぬと、が残るはずじゃ。覚えておくが良い」

「分かりました。色々とありがとうございます。また伺いますね」


 マイルスの家を後にした飛田ミオン稲村リュカは、モヤマの噴水公園へ行き、今後どう動くかを話すことにした。



「リュカって呼び慣れないですよ……」

「ほら、こういうのはしっかり成り切らなきゃ。世界を救う勇者ミオン様だろ!? もっと胸張って堂々としろよ、ガハハハ」


 飛田ミオン稲村リュカは、公園のベンチに座り、商店で買ったポテトスナックを口にしながら話していた。


「そうですね。でも……色々と不安なんですよね……」


 そうこぼして青く染まる空を見上げた時——。また、謎の幻聴が聴こえてきたのだった。


『お前には無理無理。世界は魔王に支配され、破滅するポン』


 飛田ミオンはハッとして、すぐに目を瞑り、自分の心に集中した。


「ん? どうした、ミオン」

「シッ。リュカ、静かにしててください」


 首を傾げる稲村リュカを気にも留めず、再び目を瞑ると——飛田とびたが小学生低学年の頃、一緒にサッカーをしていたクラスメイトに「飛田には無理無理。お前がシュートしたら絶対失敗するから」と言われたことを、鮮明に思い出し始めた。


(それです……!)


 幻聴の原因を突き止めた、その時——。

 頭の中から何か出て来るような感覚がして、思わず目を開ける。


「チッ、見つかったか! ポンポコリン!!」


 何と、飛田ミオンの頭の中から灰色のもやが出てきた。その靄は瞬く間に、おでこに葉っぱをくっつけた身長50センチメートルほどの、二足で立つへと姿を変えたのだ。


「……タヌキさんですか!?」

「……逃げるポン」

「む……逃がしません……!」


 呆気に取られている稲村リュカを他所に、飛田ミオンは逃げようとするタヌキを両手でふん捕まえた。


「ど、どうですか! 捕まえましたよ! 観念してください!」

「ヘヘッ、オイラは、【ポンタ】。お前を化かして本心を見えなくして、悩むお前を見るのを楽しんでるんだポン。お前に世界を救うのは、無理と言ったら無理だポン……」


 捕まってもなお余裕そうなそのタヌキ——“ポンタ”の表情が、小学生の頃の飛田に嫌がらせを繰り返したクラスメイトの顔、そっくりであった。


「お前はドジだから見てて面白いポン。この後、お前は犬のウ◯コ踏むポン。ポンポコリン!」


 当時の悔しさと悲しみが思い出され、溢れ出して抑えきれない。


「やめてください!」

「うがっ!?」


 バチン、と痛々しい音が響く。

 飛田ミオンはポンタの首根っこを掴み、ポンタの頬に1発、ビンタをかましたのだ。


「な、殴ったポン、暴力反対ポンー!」


 ポンタは涙目になりながら、草叢の中へとそそくさと逃げて行ってしまった。

 飛田ミオンはしばらく息を弾ませていたが、心の中が早朝の青空のように、スッキリと澄み渡ったのを感じていた。

 

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