35.飛田の守護神


 【僧侶リュカ】となった、親友の稲村いなむら誠司せいじ

 何で、この男がここにいるんだろう。

 体を起こし、軽く深呼吸をして落ち着きを取り戻した飛田ミオンは、稲村リュカに尋ねた。


「いなちゃ……いや、リュカ。前に電話した時に話してた異世界の夢というのは……やはり私と同じ夢だったんですね」

「ああ。実は何度も夢を見るうち、ここモヤマで何度かお前を見かけていたんだ。やっと合流できたな、“勇者ミオン様”」


 しつこいぐらいに“勇者ミオン”呼びを繰り返される。弾むような口調で。

 稲村リュカは嬉しげに目を細め、口角を上げている。


「……もしや私と一緒に、魔王討伐の旅についてきてくれるのですか?」

「ああもちろんだ。回復役、必要だろう?」

「ありがとう、いな……リュカ。なら、まずら一緒にかつての勇者、マイルスさんのところへ行きませんか? これから何をすべきかについて、詳しく聞きましょう」


 飛田ミオンは、稲村リュカとともにモヤマの宿屋で軽く朝食を済ませ、水筒に“生命の水”を補充してから、かつての勇者マイルスの家へと向かうことにした。


 ゴマとムーン——稲村いなむらの家で飼われている猫たち——と共に、猫たちの暮らす地底世界において“邪竜パン=デ=ミール”を見つけ出すことになった話については、現時点では稲村リュカには黙っておくことにした。

 

 ♢


「魔王ゴディーヴァをはじめとする魔族たちは……世界を滅ぼそうとする神の意思の残滓ざんしに、人間の心の闇から生み出されたエネルギーが宿り、魔族として具現化した存在だ……という説がある」


 マイルスの家に招き入れられた飛田ミオン稲村リュカは、以前と同じように囲炉裏の周りに座ってお茶を飲みながら、反対側に座るマイルスの話に耳を傾けていた。


「魔族たちは、世界中に病気や戦争を引き起こすことで人間を滅ぼそうとしている。さらに、現実世界と夢の世界を統合して新世界を築き上げ、その世界を魔族の天下にしようとしておる」

「だから、現実世界でも新型ウイルスが……? マイルスさん! “邪竜パン=デ=ミール”はご存知ですか?」


 少し前のめりになりながら、飛田ミオンはマイルスに質問した。


「邪竜……。現実世界における存在か?」

「はい。地底世界に眠る、邪悪なドラゴンです。そのドラゴンが原因で新型のウイルスが発生して、それによる感染症が世界中で流行しているのです。私も、最初はこの事は信じられませんでしたが……」


 隣で稲村リュカが目を見開きながら何か言いかけたが、それを遮るように飛田ミオンは言葉を続ける。


「夢の世界と現実の世界が統合され、境目が無くなりつつある、というお話でしたよね。もしかしたら、“邪竜パン=デ=ミール”も、魔王に操られているのでしょうか……? 世界中で流行っている新型ウイルス感染症も、魔王ゴディーヴァのせいなんでしょうか!?」

「その可能性は高い」


 答え、ぐいっとお茶を飲み干すマイルス。


「ちょっと待ってくれよ。ミオン、お前何でそんなこと知ってるんだ? 新型ウイルスの原因がドラゴン? 地底世界? 夢と現実の境目? もう訳わかんねえよ」

「いなちゃ……リュカ、詳しくはまた後で話しますから、今はマイルスさんの話を聞きましょう」


 マイルスは目を瞑りながら、稲村リュカが落ち着きを取り戻すのを待っていた。

 2人とも話を聞く態勢が整ったところで、マイルスは飛田ミオンの目を見据え、ゆっくりと言葉を紡ぐ。


「勇者ミオンよ……。そなたには守護神、【夢幻獅子むげんじし】がついておる」


 突然の、マイルスからの宣告。

 守護神、夢幻獅子とは一体——?

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