34.僧侶リュカ


「必ず“邪竜パン=デ=ミール”を正気に戻そう! 明日から早速、森の奥地にある地下洞窟への探索を開始する。いいか?」


 ソールの質問に、メンバーはそれぞれ「ニャー!」と声を上げる。同意のサインだろう。


「では、これにて解散! みんな、今日はよく休んでくれ」


 ソールの言葉で、会議は締め括られた。


 基地で仮眠を取り、翌日の8時に再び集合。星猫戦隊コスモレンジャーは、“邪竜パン=デ=ミール”の棲む洞窟へと向かうこととなった。


「私も、ここに泊まって良いのでしょうか?」

優志まさしくんの寝室も用意させてもらった。地底では昼夜のサイクルが、地上とはズレているんだ。外は明るいままだが、消灯時間になったらシャッターを下ろすなどして、気にせず寝てくれ。集合30分前になったらアラームが鳴るから、起きたらすぐに支度してくれ。それじゃあ宜しく!」

「分かりました、お手数おかけしてすみません。あ、ソールさん! 少しの間でいいですから、この地底世界のことをざっくり教えてもらってもいいですか……?」


 ソールの説明によると、地球は実は、中が大きな空洞になっており、猫だけが暮らす地底世界は、地上世界のにあるという。

 つまり、地球の重力の中心は地殻にあり、今、飛田たちは、地上の裏側に重力でくっついているというのだ。


 そして、空洞となっている地球の中心に、地底世界における小さな太陽【セントラル・サン】が浮かんでいる。

 つまり、地底世界においての空の上が地球の中心であり、そこにもう1つの太陽が存在するのだ。


 “セントラル・サン”は、以前は24時間周期で明るくなったり暗くなったりを繰り返す——つまり、地上と同じサイクルで昼夜が訪れていた。しかし近年、天変地異が起きた影響により、そのサイクルが7日周期まで延びてしまったらしい。地底の生態系や、猫たちの健康状態への影響も小さいものではないだろう。

 要は、昼と夜がそれぞれ1週間続くというわけだが、日数のカウントは、地上と同じ24時間とされており、地上世界と同じようにカレンダーや時計を見て猫たちは生活を営んでいるという。


 話を済ませ、部屋に案内された飛田は、既に疲れ切っていた。

 壁にかけられているカレンダーと、そばにあるアナログ時計を見る。

 猫たちとの話は日本語で通じたが、カレンダーなどに書かれている文字は全く読めなかった。

 猫の世界での時間は24時間周期なので、アナログ時計の仕様も地上のそれと同じらしい。時計の針はちょうど11時を指していた。


(この世界では今は23時、ということですか……。でも地上とは多少ズレていますから、私たちの世界では何時ごろになるんでしょう……? 何にしても、若い時みたいに無理はできないですから、すぐに寝ることにしましょう)


 部屋にあるシャワーを浴びると、飛田はすぐにベッドに横になった。

 

 ♢


「……い、おーい! 起きてくれ! 勇者ミオン!」


 の名を呼ぶ、聞き覚えのある声。


 飛田優志勇者ミオン目を覚まし、体を起こす。視界に入った光景は——コハータ村の隣街、モヤマの宿屋の一室だった。


 つまり、ここは“夢の世界”。


 ラデク、サラーとまた会えるのだ。


 しかし、その聞き覚えがある声はラデクやサラーではない。

 ベッドから出て、呼び声がする方に目を向ける。するとそこにいたのは、意外な人物だった。


「い、いなちゃん!?」


 黒々とした短髪。低く豪快な大声。ほんのり匂う酒臭さ。180センチメートルはある身長。はちきれんばかりの脂肪を蓄えた巨体が、かろうじて留められたチェックのワイシャツのボタンを今にもはじいてしまいそうである。


 飛田のことを声を掛けていたのは——親友の、稲村いなむら誠司せいじだったのである。

 半開きの扉の向こうから部屋に入り、歩み寄って来た稲村は、スカした顔をして言葉を返した。


「ノーノー。ここでは俺は【リュカ】と呼んで欲しいな、“勇者ミオン様”」


 悪戯っぽく口角を上げる稲村は、十字のマークがついたコバルトブルーの帽子をかぶってみせた。

 そしてバッグから帽子と同じ色の、十時のマークの描かれたエプロンを取り出し、身につける。

 首には、ロザリオのネックレスが金色に輝いていた。

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