32.猫の武闘家、ソアラ登場!
「
さっきまでの凛々しさはどこへやら。飛田は安堵感から全身の力が抜け、その場にへたり込んでしまった。
「……クソォ! ソール、もう1回、もう1回だ! 俺がこんなに
「マーズ、これは君のプライドのための勝負じゃないんだ。頭を冷やすんだ!」
地団駄を踏むマーズを、ソールは必死に落ち着かせている。
(私は負けると言ってきた幻聴は、ハールヤ先生の仰る通り、嘘でした……)
飛田はふうと息を吐き、桃色に染まる地底の空を見上げた。
その時突然——。
「おう! やるじゃねぇーか! 人間!」
ガラガラ声の何者かが現れ、声をかけてきた。
見ると——声の主は、白の空手着に黒帯を身に付けた、水色の体毛の猫だった。もちろん二足歩行の、である。
彼は軽々とステップを踏みながら目の前に駆け寄り、水色のマスクを外して自己紹介をする。
「オレは【ソアラ】だ! よろしくな、人間!」
「あ、はい。私は
「ああ! 最近仲間入りしたんだぜ! 今日はちょっと寝坊しちまって、来るのが遅くなっちまった! それにしても優志、お前強いな! オレも同じようにマーズさんに腕試しされたんだぜー! ま、オレの必殺
テンションの高いその猫は、前足をスッと差し出してきた。
戸惑いながら、握手をする。肉球がぷにっと触れる。
「ソアラくんは、最近星猫戦隊コスモレンジャーに加入した武闘家だよ。素早い身のこなしが彼の特技だ。強くて頼りになるんだ。……さあみんな、新しい仲間も加わったことだし、お昼ご飯にしよう!」
ソールの号令で、一同は基地の中へと戻っていった。
こうして、飛田は正式に星猫戦隊コスモレンジャーへの加入が決定した。
基地の中から焼き魚の匂いが漂ってくる。急な空腹感に襲われた飛田は、駆け足で猫たちの後をついて行った。
「飯が出来たぞ。人間も来たって聞いたから、人間も食える魚料理だ。おかわりはたっぷりある」
「待ってました、ライムさん!」
“ライム”——かつてゴマたちの飼い主、
飛田は、彼女に声を掛ける。
「あ、ライムさん。海岸で話した時ぶりですね。無事に愛美さんと会えましたか?」
「おお、人間ってお前のことだったのか。……飛田……何だったか? すまない、名前をもう一度頼む」
「
「そうか。おめでとう。愛美姉さんにはちゃんと会えたよ。だが、私はこっちでの仕事があるからな。優志も星猫戦隊コスモレンジャーに加入したんなら、私の料理をしっかり食って力をつけていけ」
「はい! 美味しそうですね……。あれ、ライムさんの後ろにおられるのは……」
見覚えのある、グレー猫。
彼は、ニャンバラでの祝賀会で司会をしていた、神官風の服を着た猫だ。
ライムは、灰色のマスクをつけたその猫の方を向き、答える。
「私の旦那……“グレ”だ」
グレは飛田に気付くと、ゆっくりと歩み寄る。
「これはこれは人間様。グレと申します。宜しくお願いします。またしても大変な世の中になりましたが、ここは力を合わせ、乗り越えて参りましょう」
「はい、グレさん。私は飛田優志と申します。よろしくお願い致します」
グレから前脚を差し出され、握手をする。やはりプニッとした、柔らかな肉球が触れる。
「おーい! ライムさん、優志とやらも! 早く食おうぜー!」
ソアラの呼び声。既にみんなは着席していた。
「では、席に着くか。腹も減ったからな」
「はい! ……わあ、魚料理ですね。あの、人間の私が食べても本当に大丈夫でしょうか?」
「大丈夫だ。ニャンバラで獲れた魚だがな。味もきっと地上のそれとは違うが、つべこべ言わず食ってみろ」
「えっ……」
星猫戦隊コスモレンジャーの面々は、ライムが腕によりをかけて作った様々な魚料理に舌鼓を打っていた。猫の手で、箸やフォークを器用に扱っている。
飛田も思い切って、ムニエルのような料理を口にしてみた。
「……あ。美味しいです!」
絶品の、一言だった。
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