29.勇者、1人と1匹
ゴマが言う“邪竜パン=デ=ミール”とは、何者なのだろうか。
「邪竜パン=デ=ミール? あ、前ちらっと聞いた……」
「ああ。【ガイアドラゴン】から教えてもらったんだ」
「ガイアドラゴン?」
ゴマは貧乏揺すりのように後ろ脚を忙しなく揺すりながら、解説を始める。
「“ガイアドラゴン”は、ボクら【星猫戦隊コスモレンジャー】の味方の、機械で出来たドラゴンだ」
「ふ、ふむ……?」
「で、“邪竜パン=デ=ミール”ってのは、こないだ祝賀会で行った“地底国ニャガルタ”の首都、“ニャンバラ”の地下に眠ってやがったドラゴンだ。元々はガイアドラゴンの仲間らしいんだが……、邪竜パン=デ=ミールは既に邪悪な何かに染まっちまってるらしい。で、奴が目覚めると、変異したウイルスとやらが世界中にバラ撒かれて、みんなビョーキになっちまうんだ。すでにボクらの世界でも、意味不明なビョーキが流行り始めただろ?」
「まさか……、新型ウイルスが流行り出したのって……」
ゴマは目を見開いて、
「テメエの察しの通り、邪竜パン=デ=ミールが目覚めたからだ」
地底の猫の国に眠っているらしい謎のドラゴン——“邪竜パン=デ=ミール”。
邪悪に染められたそのドラゴンがひとたび目覚めると、ウイルスを次々に変異させ、世界中に感染症を流行させるという。
「ニャンバラでも既に、ビョーキが流行り始めてんだよ。ここ、ねずみの世界はまだ無事だが、いつ流行り出してもおかしくねえ。だからみんなに注意するように言いに来てたんだ」
「……私たちは一体、どうすればいいのでしょう」
「“邪竜パン=デ=ミール”を正気に返すために、“星猫戦隊コスモレンジャー”が対策を立ててる。また、戦いが始まるんだ」
新たな戦いの予感に、背筋がゾクゾクと震えるような感じがした。不安を隠しきれず、視線を逸らす。
すると、ケタケタと笑いながら立ち上がったゴマに、ボフッと肩を前脚で叩かれた。
「なあに、この最強の、
飛田の全身が、またも白く輝き始めている。ゴマに言われて初めて、飛田はそれに気が付いた。
ふと思い立ち、ゴマを庭へと連れ出す。
「何だ優志、どこへ連れてく気だ!?」
「……ゴマくん、ちょっと見ててくれますか?」
庭の真ん中で、飛田は精神を集中する。そして“勇者ミオン”の技の名を叫ぶ!
「“ドルチェ”ッ!」
飛田の全身から白い閃光が放たれ、近くの岩場に炸裂。以前より威力が増しており、岩は白煙をあげながら粉々に砕け散った。
「な、何だ、テメエその技は!?」
「実は私も、勇者なのです。“勇者ミオン”……私も、戦えます!」
「優志テメエ……。一体何者なんだ!」
ゴマくんこそ一体何者なんだとツッコみたい気持ちを抑え、飛田は“勇者ミオン”になった経緯をゴマに話した。
腹を括ったためか、先程までの不安は消し飛んでしまっていた。
夢の中で勇者になったこと——。
夢の世界で、仲間と共に魔王を倒す旅に出たこと——。
夢の世界で数々の敵を倒しながら、“生命の巨塔”から奪われた“ゴールデン・オーブ”を取り戻したこと——。
夢と現実の境界が無くなりつつある影響で、現実世界においても勇者の技が使えるらしいこと——。
ひととおり説明した飛田だが、ゴマは頭の上にハテナマークを幾つも出していた。
「よく分かんねえが、テメエも戦えるってこったな。ボクは【転身】したら、相手のステータスを見ることが出来るんだ。優志、ちょっとテメエのステータスを見てやるよ」
ゴマは、前脚を天に向けてかざした。
「“聖なる星の光よ! 我に愛の力を!”」
するとゴマは紫色の光に包まれ、黒い鎧に青色のマントが現れてゴマの体に装着される。次いで刀身の長い剣が現れると、ゴマの腰にある鞘にしまわれた。
飛田は、ただただ目を丸くしながらその様子を見ていた。
「【神の祝福を受けし
「ゴマくんが……戦隊ヒーローみたいに変身しました……」
信じられぬ光景に、飛田は一歩後退る。
「じゃあ今からテメエのステータスを見てやる。どれどれ……?」
ポカンと口を開けている飛田を凝視したゴマは、すぐに目を閉じた。
「……フン、まだまだひよっこだな」
鼻で笑ったゴマは紫色の光に包まれ、元の姿に戻った。
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