28.目覚めし邪竜


飛田とびた優志まさし様ー」


 受付のねずみの女性に呼ばれ、ソファに倒れていた飛田はむくりと体を起こす。

 どうにもスッキリしない気持ちのまま、受付へと足を運んだ。


「それではお大事に」


 それだけを言った受付のねずみの女性から、今後の過ごし方と運動のやり方、健康食のレシピが書かれた紙を渡された。


「あの、診察料は……?」

「診察料? お代は結構ですよ?」

「薬は……?」

「薬は出しておりませんよ? こちらの食事、運動が処方箋です。どうぞ、お大事に」


 呆然としたまま、飛田はChutopiaチュートピア厚生医院を後にした。

 以前ねずみの世界を訪れた時のことを思い出す。

 ねずみの世界では、なのだ。

 街を走る磁力タクシーやバス、列車も、全て無料で利用できるのである。



 飛田はチップたち9匹のねずみの家族に会ってしばし心を癒そうと思い、そのまま9匹のねずみの家へと向かうことにした。


(ミランダさんを呼んでワープさせてもらうのもいいですが、以前にトムくんやナッちゃんと、この街で野菜を配ったのが懐かしいですから……街を見ながら、ゆっくり向かいますか)


 飛田は、車輪が無く地磁気を利用して移動するという、遠隔自動操縦のタクシーを拾う。


 ねずみの乗組員と話をしながら、飛田はねずみと猫で賑わうChutopiaチュートピア2120にいいちにいぜろの昼下がりの街並みを、眺めていたのだった。

 太陽の光を受け、街全体がキラキラと輝きを放っているように、飛田の目には映った。


 “Chutopia2120駅”に到着した飛田は、再び16年前の記憶を思い出しながら、“ネズ・ヴィレッジ駅”行きの“卵形の列車”に乗った。

 列車は、森の奥へと入ってゆく——。



 卵形の列車は、“ネズ・ヴィレッジ駅”に到着した。


(懐かしいです。この商店街を抜けたら、チップくんたちの遊び場の“ヒミツキチ”があって、その向こうに9匹のみんなの住むコナラの木があるんです)


 小走りで、ねずみと猫で賑わう商店街を抜け、森の小道を通り過ぎた。

 ハラハラと葉を落とす9匹のねずみの住むコナラの木が、だんだんと見えてくる。


「あっ! 優志兄ちゃんだ」


 庭にいたチップが駆け寄ってくる。


「チップくん、久しぶりですね。ちょっと寄らせてもらってもいいでしょうか?」

「もちろんだよ! あ、今、猫のゴマくんも来てるんだ!」

「え……?」


 玄関の扉をくぐると、1階の広間にあるテーブルの席に、服を着たゴマが当たり前のようにデンと足を広げて座っていた。

 もちろん、以前と同じようにねずみたちと同じサイズになって。


「ニャーオ。おう、優志じゃねぇーか。久しぶりだな」


 ゴマは鋭い眼光を、飛田に向けてきた。


「ゴマくん……。久しぶりですね。愛美さんのとこに一度帰ったって聞きましたよ。また出かけてきたら心配かけちゃいますよ?」

「そんなこと言ってる場合じゃねぇーんだよ! 【邪竜じゃりゅうパン=デ=ミール】が目覚めたんだ」


 ゴマが突然大声を出したため、飛田はびっくりして思わずたじろぐ。


 “邪竜パン=デ=ミール”とは、一体何者なのだろうか——。

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