20.繁華街モヤマへ


「あれは【火炎イモムシ】だ! サラー、【水】属性の魔法で攻めろ!」

「うんー! 【プチアイスー】!」


 サラーの魔法が、火炎イモムシに炸裂。水属性の魔法なので、【火】属性の火炎イモムシには効果抜群だ。


「僕が新しく覚えた技だ! 【人喰い花】め、喰らえ! 必殺、【二段斬り】ッ!」


 ラデクによる、目にも留まらぬ2連続の剣技が、人喰い花にヒット、真っ二つに切り裂かれた。


 隣街モヤマへの道中は、マーカスが言っていたとおり、様々な種類の魔物が闊歩していた。

 しかし飛田ミオン、ラデク、サラーは見事なチームワークで、襲い来る魔物たちを蹴散らしていく。


「【ホーネット】は素早いよ! ミオン様、気をつけて!」

「分かりました。……はあっ!」


 飛田ミオンは、素早く飛び回る巨大なハチ、ホーネットの動きを的確に捉え、レイピアで突き刺した。


「今です、サラーさん!」

「行くわよー、“マグマの杖”ー!」


 サラーが振りかざしたマグマの杖から火の玉が飛び出し、ホーネットを直撃、火だるまにした。


「ミオン様、【ワーウルフ】は体力がある! 一緒に一気に攻撃するよ!」

「ラデクくん、分かりました!」


 飛田ミオンとラデクで立て続けに剣技を決め、3匹で襲いかかってきたワーウルフを一気に倒した。

 直後、飛田ミオンの全身が、うっすらと茶色く光り始める。


「これは……? どうやら、新しい魔法が使えるようになったみたいです……」

「えー、すごーい。ミオン様の魔法、見てみたーい!」


 隣街モヤマが見えてきた時、巨大な脳ミソに2本の触手と2本の足がついたような魔物が姿を現し、飛田ミオンたちの前に立ち塞がる。


「……やってみましょう。【プチクエイク】!」

 

 飛田ミオンの全身から、茶色い光が放たれた。それは地面にぶつかり、脳ミソの魔物の周りに地割れが起こる。

 瞬く間に地割れは広がっていき、脳ミソの魔物は何も出来ぬまま、触手を振り回しながら地割れに飲み込まれてしまった。

 直後、地面は元通りに戻った。


「すげーっ! あの【ヘルブレイン】が一瞬で……! ミオン様、さすが!」

「戦いを重ねることで、新しい技が身につくようですね。……では、街に入りましょう」


 “モヤマ”に到着した飛田ミオンたちは、早速マイルスの家を探すことにした。



 夢の中の世界、“オトヨークとう”で訪れる、初めての街“モヤマ”。

 街だけあって住宅や商店も多く、老若男女問わずさまざまな人で賑わっている。街の周りには、石造りの高さ5メートルほどの壁で囲まれている。魔物が入ってこないようにするためだろう。

 街の中心部の高い建物は、鐘塔しょうとうだ。どうやら、教会があるようだ。


 バニー姿のサラーは、道行く人の注目の的になってしまっている。


「おう、そこのカワイ子ちゃん! 俺と一杯飲まねえか?」


 昼間から顔を赤くしているガタイのいいオヤジが、サラーに声をかけ、彼女の背中をぽんと叩いた。


「やめろよ! サラーに何する気だよ!」


 臆せずにラデクは、酔っ払いオヤジの手を突っぱねる。


「何だぁ、生意気なガキだなぁ」

「何だと、僕とやるのか!? 僕は剣士だぞ! 舐めるなよ!」

「ちょっとちょっと……、2人とも落ち着いてください。ちゃんと話し合うことが大事ですよ……」


 飛田ミオンはラデクと酔っ払いの間に入り、どうにか2人を落ち着かせた。

 そして再び酔っ払いがボディタッチ出来ないように、飛田ミオンはサラーの前に立った。


「ちっ。……お前ら、見たところ冒険者のようだな? そこのカワイ子ちゃんとお喋りさせてくれたら、お前らにとってお役立ちな情報を教えてやろうと思ったのにな」


 酔っ払いは、眉間に皺を寄せながら口角を上げ、そう言い放った。


「……どうします? ラデクくん、サラーさん」

「ふーん。じゃあ、サラーに触らないなら、いいよ」

「お喋りくらいならー、いいですよぉー」


 許しをもらえた酔っ払いのオヤジは嬉しそうに、サラーに近寄った。

 すかさず、ラデクが立ち塞がる。


「待て! ただし2人きりにはさせないからな。僕たちが見張ってるから」

「へぇへぇ。坊主、よっぽどこのカワイ子ちゃんが好きなんだな」

「あーもう、そんなんじゃないやい! サラーと話したいんならさっさと話せよ!」


 酔っ払いのオヤジは眉毛をハの字にしながらサラーをベンチへと誘い、お喋りを始めた。

 待っている時間、飛田ミオンとラデクもすぐ隣のベンチに腰を下ろすが、ラデクは不機嫌そうに地面を蹴っている。


 15分ほどお喋りをして満足げな酔っ払いのオヤジは、笑いながら飛田ミオンの前に歩み寄ってきた。


「約束だぜ。耳寄りの情報ってヤツは、これだ」


 渡されたのは、1枚の広告紙。そこに書かれていたのは——。


双子山ふたごやまの麓の街【ウキョー】にて、今月引退の海賊団“キャスター”主催、“天下一武術大会”開催! 優勝者には、海賊団が現役時に使用していた、海賊船が贈られます。開催は10月! 強者求む!』

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