18.50年前の勇者マイルス


 飛田ミオン、ラデク、サラーは、マーカスの家を訪れた。

 こぢんまりとした丸いテーブルの近くでロッキングチェアに座ったマーカスは、カップに入れられた白湯らしきものを口にしていた。

 隣の椅子に座るマーカスの娘カレンも、同じように白湯を飲んでいる。


「お邪魔します、マーカスさん。娘さんは大丈夫でしょうか?」

「いらっしゃい。カレンは……一時は高熱で意識をなくしておりましたが、この“生命の水”のおかげで熱は下がりましたよ」


 2人が飲んでいた白湯は、温められた“生命の水”だった。

 カレンの顔は血色が良く、もうすっかり元気そうだ。彼女は、微笑みかけながら軽く頭を下げた。


 元気そうな2人を見てホッとする間もなく、飛田ミオンは用件をマーカスに伝える。


「大変な時にすみません。マーカスさん、私たちはこれからどうすれば良いか、相談に乗っていただけますでしょうか」


 言い終わると同時に頭を下げる。

 ラデク、サラーも続いてぺこりとお辞儀をした。


 マーカスはひと呼吸おき、問いに答える。


「そうですなあ……。隣街【モヤマ】へ行き、【マイルス】に会われるとよろしいでしょう。50年前、別の魔王がこの世界に現れた時、その魔王を打ち倒した勇者が、マイルスなのです。勇者を引退した今は、モヤマで農家をやっております」

「かつての、勇者……」

「凄いや! 僕が生まれる前にも、勇者がいただなんて!」

「ラデクー、はしゃがないのー」


 かつての勇者——マイルス。

 

 マーカスの話によれば、50年前に、魔王【ガロア】がオトヨーク島を襲ったという。その時、たった1人で魔王の島に渡り、魔王ガロアを打ち倒したというのである。

 マイルスに会えば、魔王を倒すための知識と知恵が得られるはずなので、彼の住む隣街“モヤマ”へ向かうよう、マーカスから進言された。


「分かりました。マーカスさん、ありがとうございます。“モヤマ”へはどうやって行けばいいのでしょう?」

「地図をお渡ししましょう。オトヨーク島全体の地図です」


 飛田ミオンはマーカスから、綺麗に折り畳まれた地図を受け取った。早速開いて、眺めてみる。


 “オトヨークとう”は、細長い形状の島だ。

 南方に村が1つ(コハータ村)、小さな街が3つ、そして島の中心部には【ニジョーじょう】と呼ばれる城と、城下町がある。それらを結ぶ街道が、地図には描かれていた。

 南東には【双子山ふたごやま】と呼ばれる山が聳え立ち、北方は自然豊かな山地となっているようだ。


「ミオン様、早速“モヤマ”ってとこへ向かおう!」

「そうですね。その前にお店へ寄って、装備を整えませんか?」

「そうねー。もっとキュートでセクシーな装備が欲しいわー」


 飛田ミオンたちは改めて礼を述べると、マーカスは玄関の扉まで見送ってくれた。


「皆様、お気をつけて。モヤマへの道中は、魔物がたくさん出ます。しっかりご準備なさって下さいね」

「マーカスさん、ありがとうございます。では、行ってまいります!」

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